監視されてる

 フッセさんにパンの作り方を口で教えてもらって、先にパンの種を生地の種みたいなのにしてから、他の材料を混ぜる方法が発酵させやすいんじゃないかなということで、パンの種を水と小麦粉で先に混ぜて、1度寝かせる。表面が乾かないように近くで水を用意しておく。まだ布とか買ってない。時間をおきながら生地の種が大きくなっているのを見ている。軽く表面を触ると指紋が残るくらいで出来ている。これくらいで残りの材料を入れていく。はかりは薬師のを中に入って、ちょこっと使わせてもらっている。ちゃんと許可は取ってる。急いで戻って混ぜていく。木の板で押しつけるように広げていく、固さのムラがなくなるように広げてねる。集めてこねてを繰り返し、大変だぞこれ。始めたのでとまれない。頑張ってこねていく。下から上につぶしていたら、下の方がはげてきたので生地をひとまとめに。たたきつけてこねていく。バターを加えて、同じようにしてこね上げる。ここまで来たら一休み、生地を発酵させる。心配なのでちょこちょこと観察している。2倍になって発酵のよい固さになったので1度ガス抜きして、また発酵。そして出来たのをいい大きさに分けて形を整えて寝かせる。今度はベチベチと伸ばしてから折りたたんでいき、最後の発酵だ。火をたいておこう。

 膨らんだのを確認して、焼いていく。水も一緒に入れよう。クリスタルに入れてね。意味あるかな?火は落ち着いているな。あとは焼けるのを待つばかり。うまくいくといいな。そのまま暖炉を締めて、置いておく。頑張ってパン。頼むよ。


 結果はやや失敗だった。表面に真っ黒な焦げの層が出来ていた。中身は十分に食べられるので焦げをのければ成功だ。次はもっとうまく作れるはずだからもっとよいパンが出来るはず。でも疲れた。魔法でねることが出来れば、いつでも作れていいんだけど。大量に作って倉庫に入れておくことも出来る。魔法の練習だけは忘れないようにして、疲れた、眠気が来て寝た。


 冒険者がついてくるのはついてくるけど、手を出してきたりはしない。僕が外に狩りへいく時を狙っているのかな?外なら死んでもわからないしね。一応だけど、盗賊退治はティワズに連れられて1人でやらされたから、敵だと思えば慈悲なくことを済ませることも出来る。ソルの場合は注文が入っていたのはある。身を守るためには必要なことだって、そう教えてもらった。身勝手に傷つけることはダメなのはそうなんだけど、見つからなければ殺してもわからない世界、石壁の向こうは魔獣に襲われて死ぬことなんて普通。だから、身を守るために殺さないって訳にはいかない。死に物狂いで来られると本当に危ない。容赦はしてはいけない。油断すると死ぬぞと、ティワズにその時脅されたんだ。

 いつも通りに串焼きを買ってパンも量を減らして買う。昨日の食べかけがある。今日もパンの練習?どうにかパンを練れないか実験。魔法の練習がてら。失敗したらその時だ。小麦粉と水をどうやって混ぜられるか?水の形を保って小麦粉にぶつけて、形を変えるようにしながら混ざらないかとやってみる。軽く混ぜ合わせた程度で水が動かなくなった。重い?粉の残りもたくさんあるし、ねちゃとしている。練りが足りなすぎる。水では全然ダメ。最初にちょこっと混ぜる程度しか出来ない。それなら自分でやった方が速いくらい。土?塊を動かすようにしてみる。うまく混ざっている。板の上なので外に出ようとする粉を違う力で動かさないといけなくて制御がなかなか難しい。離れていく粉や残っている粉を生地の方に動かす。それから生地を動かして練る。粉がなくなったと思って1度止める。ダメだ。手で混ぜる方がうまくいっている。うまく練るためと時間短縮が目的なのに。ここまできたのでやり続けてみよう。べちゃっと板に広げてまとめる。これはいい感じだ。僕がこねるよりも力がかかっているので、混ざりやすい。見ながらこねていけるのでダマがあるところに力をかけやすい。こねるのはうまくやれた。最初に混ぜるのはどれがいいのだろうか?火はない。水はやった。土もした。じゃあ、風?塊になるまでだから、次は試してみよう。

 暖炉を用意して火加減は燃やしている薪が落ち着いたらいいのかな?温度はある程度保っておかないといけないから、気持ち火を小さくするように焼きに入る。火加減が難しい。また、焦げを落として食べる。表面が焦げるだけで中は美味しかった。パン屋のパンには負けるけど、自分で作って食べる分には十分だ。

 魔法での作り方に改善点はあるけど、自分の手だと力不足なんだよね。今日はこれでいいかな。次の日は最初の行程を風でやってうまく混ざった。また、焦げたけど。火加減がまだ弱くていいのか。表に回る。

「フッセさん、パンが焦げるけどどんな風に焼けばいい?」

「今はどんな風に焼いているの?」

「調合室の窯で薪をくべながら焼いてる」

「くべなくても、木が炭の間は温度がある程度保たれるから、燃え残りの赤いのがあるうちはくべないで焼いてみたら?」

「なるほど、ありがとう。明日やってみる」

 そうだ、そろそろ薪が切れる。

「薪ってどうするの?そろそろなくなりそうなんだけど。やっぱり取りに行った方がいいかな?」

「外には出ないで買うわよ。門番が売ってくれるから聞いたら教えてくれるの。木って一応領主様の物ってことになっているからね」

「村ではその辺から切り出しているけど、いいのかな?」

「衛兵の仕事のひとつになっているから、街じゃないならいいんじゃない。村まで勝手に木を切るなっていわれても、薪をどうやって調達するのよ。そこは見られないからしょうがないの」

 そうなんだといって、門に向かっていく。出て行く必要はないから調べられた場所に向かってみる。人がいるので誰かは知っているはずだ。

「あの、薪ってここで売ってますか」

「おう、売ってる。何束いる?」

「とりあえず1束」

「銅貨5枚だ」

 大銅貨を渡してお釣りをもらう。

「ついてきな。薪はこの詰め所の裏にあるから、次からは自分で取っていけ」

「わかった」

 詰め所の裏側の屋根があるところに薪がまとめておいてあった。その中から1くくりになった束を持って戻っていく。薪は門番のところで買う。村とは違うんだ。大きいので前が見えづらいかも。おいしょ。

 なんとか持ち運んで調合室まで持ってきた。視線が相変わらずうっとしいけど、何かしてくるわけでもないから放置だ。ほとぼりが冷めるまで村に帰ろうかな。村だとまだ静かにいられる。襲ってきたら、対処はするけど。まずは相談をしてみよう。

「1度、村に帰ろうと思う。布団代を稼ごうと思っていたけど今は依頼を受けられない。帰って狩りをしながら、ほとぼりが冷めるのを待とうかなと思ってる」

「ほとぼりが冷めるまでと言うなら、ここにいた方が安全だ。冒険者がランスを狙っていないとも限らない。外に出ると攻撃してくださいといっているようなものだ。冒険者ギルドとのいざこざが収まるまでは薬師ギルドにいるべきだ。ギルドとしてお前を守ってやれる。だけど、街の外に出れば薬師ギルドとしてはどうにも出来ない。冒険者や冒険者ギルドがうちに手を出した場合は、それ相応の罰を受けてもらう。二度と冒険できないようにな」

「だけど、あいつら暴力しかできないよ。話し合いとか出来るような人間じゃないよ。絶対に襲うつもりだよ。あのギルド長だよ?」

「逃げろ。逃げられるだろう」

「だけど、薬師ギルドに襲いかかるかも知れない」

「その時はその時だ。生産者ギルド連合が交渉するだろう。1国が傾くぐらいの賠償金とペナルティーは食らうだろうよ。さすがにそれはしないはずだ。バカでもわかることだ」

 わからないから困っているんだ。

「わかっているなら、こんなことにはならないよ」

「しょうがない。そういうのがいるのも冒険者ギルドなんだ。心配するな、こちらもそのために本部長にお願いはしてある。信じて待ってくれないか?数日の辛抱だ」

「薬師ギルドは信じてるけど、冒険者が。襲われたら、次は敵対と見なすけどいいかな?攻撃には攻撃で対抗するよ」

 デールさんを見上げる。真剣に伝える。

「お前の場合はやり過ぎるなよ?殺すな。骨を折るぐらいで、痛めつけて2、3本までだぞ。腕を再生とか薬師ギルドでも無理だからな。で、襲われたと衛兵に言え。わかったな?」

「はーい」

「敵対するのならどうしたんだ?」

「盗賊扱いだよ」

「やめとけ、さすがにやり過ぎだ。今後もなるべく殺すな。このギルドは人を救うためのギルドだ。盗賊は仕方ないかも知れない。指名手配の罪人でもない限りは殺すな。ランスならそのくらいはやってのけられるだろう。ソルのことを手加減してやっつけたのだろう?この街にそんなこと出来る人間はいない。お前は強い。強いからこそ、野蛮な冒険者のように力の使い方を誤るな。見せびらかしたり、従わせるためだけに力を使うな。それは最悪の使い方だからな」

 自分の身を守るために身につけた力だ。

「ギルドの方針には従うよ?だけど冒険者ギルドの方針にも従うよ」

「お前の認識している冒険者ギルドの方針は間違っている。ヘルセに説明してもらう。本当にそんなくそギルドだったら薬師はここにない。ちょっと待ってろ」

 気合い十分、肩で風を切って外に出て行く。

「怒らせちゃった?」

「うーん、ランス君の考えてる常識と私たちの常識がずれているかなって。だから、だからね、普通の人達の考え方っていうのも学んで欲しいの」

「よくわからないけど、女の人の裸は見ちゃダメとか?」

「は?だ、誰にそんなこと教えてもらったのよ?」

「ヘルセさん」

「ど、どういうことになったら、そんなこと教えることになるのよ?」

 何で慌てるんだろう。

「ソルの家の草刈りにいったときに一緒にご飯を食べるように言われたけど、ニオイがきつかったから、家の中とソルの清掃をしているときにヘルセさんがきて、一緒に入っていたから。ソルの清掃で湯浴みさせたの。ソルは周りを気にしないで入っていったけど、ヘルセさんは一般の人は違うって教えてくれたよ」

「そうなんだ。湯浴みしたんだ。お湯で?」

「うん、温度はちゃんと確かめた。水の中に入れるほど悪魔じゃないよ?」

「普通湯浴みはお金持ってる人しか出来ないのにいいな。維持とか管理とか大変じゃない」

「風呂は土で形成して終わったら戻したから、そんなに大変じゃ」

「それはランス君しか出来ないでしょう。普通はそんなこと出来ない。でもランス君が襲いかかったのかと」

 はい?なんで襲いかかるのかと考えるけど、なんでだ?美味しいもの持ってた?パンとか普通だし、追加の材料ぐらいだったはず。凄く気になるものはなかった。

「襲う理由がわからない」

 その前に襲いかかるってソルじゃないんだから。

「嫌がったが、なんとか連れてきた。ランスが冒険者ギルドに所属する人間を殺すかもといったら渋々ついてきた」

 ヘルセさんは僕の顔を見ると怯えて、あまり近づこうとしない。

「ヘルセさん、敵対して怯えているのならそれは正しい。敵対していないのならなるべく普通にして欲しい。誓約のことはあくまで僕の秘密を守るためのもので危害を加えるためのものじゃない。説明してもらっているかどうかわからないけど、僕の考えを話すから間違っていたら訂正して欲しい。冒険者ギルドのギルド長はソルで、ソルは暴力や力でいうことを聞かせる。つまり、僕も同じように力で対抗していいと判断している。それでも僕よりも上の立場に立っていると思っているソルが考えをあらためていないので、敵対していると考えつつある。まだ完全に敵対とはしていない。しかし、監視している冒険者がいることで冒険者ギルドは僕と敵対したのだと判断をし、考えを移行しつつある。僕の判断は間違っている?」

「え?監視してる?」

「うん、建物の間から僕を監視しているよ。買い物に出るときも、戻るときも。これは行動パターンを観察して狩ろうするときの行動だよね?確実に倒すための冒険者や暗殺者としての行動だと僕は教えられている。モンスターも人間も基本は同じって、師匠に教わった。あと敵対した時は容赦するなとも。盗賊などから身を守るために」

「ちょっと待って、敵対って盗賊扱いなの?」

「ちゃんというなら盗賊と変わらない。話し合いではなく、力で対抗しようとした。話し合いなら僕は話し合うし。それに、殺そうとしたとソル自身がいっている。殺し合いでしょう?ギルド長が宣言したんだよ?対抗するために僕も殺すよ」

「あ、え、あ」

 言葉を失い、唖然とする。薬師ギルドの中なので手を出すわけじゃない。待合用のイスに座る。

「ヘルセさん、このまま敵だと判断を下してもいいんだよね?」

「ここを潰しても冒険者ギルドに追われるわよ?」

「なら、冒険者ギルドが消えるだけだ。消す判断は僕じゃないけどね」

 眼鏡をあげてこめかみを押さえる。

「もしかしてフ・・・・・・」

 声が途中で出せなくなる。誓約に引っかかったようだ。

「あなたもソルと同じで力で押さえつけようとするの?」

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