お見送りとパン作り
何で出来ないんだろうか?わからないから実体から消す方法を探す。何か別の魔力をぶつけるのだろうか?攻撃魔法が発動した物体自体を消す作用を持ってるのは、何か定型の魔法があるはずなんだけど。クリスタル系の魔法を発動して、出したクリスタルが消えるとかね。今の状態じゃ使えないから自分で発動して解析できない。誰かに発動してもらって解析するぐらいしか出来ない。呪文が魔法の魔力をどうするかを決めているから、それを魔力として感じ取れば何が起こっているのかわかる。なので、発動しているのを見ればわかりやすいんだけどな。
お茶にして落ち着こう。マロウを水出しして紫色に染まっていくのを眺めていた。キレイな紫に染まったのをしばらく眺めて、温める。
「ランス殿いらっしゃいますか?」
「はい、今開けます」
ノックと同時に子爵の執事さんの声が聞こえて扉を開ける。そこには執事さんとお嬢様がいて迫ってくる。近づかなくてもいいんだけど。
「男爵様に差し上げた物をいただけると伺いましたの」
「領主様が売るとおっしゃっておりましたので、ご内密に。子爵様の分もございますのでお持ち帰りください」
興奮冷めやらないのか、入ってくる。置いてあるギザギザクリスタルを渡して、もう1つを執事さんに渡す。更に後ろにいるメイドさんが箱を持っていて、その中に入れていた。お嬢様が執事さんに自分の分を渡して、箱に収納していた。
「お嬢様がお気に召すかと持っていったら、価値のある物でその場で差し上げられず申し訳ございません」
「それだけの価値の物をあの場で渡されても、お父様が困ってしまうのでよろしくてよ。1つ伺ってもよろしいかしら?」
「なんでしょうか?」
「そのティーセットは何ですの?中が透けるぐらいの。しかも色が出ていますわね。なんですの?」
「マロウを水出ししてから温めておりました。キレイな紫色が出て、こうして温めているとピンク色になっていくのです。このティーセットは色の出るほうが見た目にも非常によいのです。ですので自分の知っている薬草から色の出る物を選んで試しているのです。紅茶の茶色では少し見た目が面白くないですから」
お嬢様は振り返り執事さんを見ると首を振っている。
「申し訳ございませんお嬢様、頂く物はもう頂いております。これ以上は過分にございます。それにランス殿は領民ではございませんので、目をかけるということも出来ません」
「それでしたら、騎士団長が地元の冒険者ギルドを通じて抗議してもらえるのを後押ししてくださると言うことでいかがでしょうか。僕にとって今後に関わる非常に大切な用件ですので、お金や物には替えられません。このティーセットで後押ししてくださるのなら、お譲りいたします」
「少々お待ちください。主人に確認して参ります」
「執事さん、こちらのカップをお見せください」
少しピンクがかった液体入りのカップをソーサーと一緒に渡す。一礼すると出て行く。お嬢様にも振る舞い、自分のために入れたので自分でも飲む。半分ぐらい飲み終わり、飲み干す。
「お待たせいたしました。助力を確約するとのことです」
「では、一式お持ちください。これも入れ物がないのですが」
「それはこちらでなんとかいたします」
執事さんはそのままセットを持ち、お嬢様を連れて出て行く。
「今度はゆっくりお話ししましょう」
「機会がありましたら。お気をつけて」
慌ただしく出て行くのを見送りながら、手を振って馬車を見送る。
「ランス、今度来たときはこっそりどっかで手合わせするぞ」
「こっそりならね」
満足そうに馬を歩かせて通りを門に向かって進んでいった。
「な、何事?なんでランス君の方にいったの?」
「別れの挨拶をして頂ける程度には気に入られたのかも」
「それは、それは凄いことね。貴族の知り合いがいるってだけでも凄いことよ。領主様ぐらいしかしゃべったことないもの」
「面倒なだけだよ」
その後ろから領主様の馬車が通りに来たので頭を下げておく。通り過ぎた後にパンとか買いに行く。今日もパンの種の育成中なので、パン屋のパンをかじりながら魔法の練習を続けていく。
実体になった魔力は抜けない。そもそも魔力を感じないのなら、普通の石と何ら変わりがないのではないだろうか。そうなると魔力をどうこうというよりはこの結晶を消す、いや、魔力に変換するようにすれば消えるだろう。土の生活魔法だと生み出すっていうより周りから持ってくる感じだから、作ったのを戻すのも動かして元に返す感じでやっている。結晶を元の魔力に変換するという作用は考えていなかった。でも、どんな風に消しているのかは全然、思いつかないからわからない。思いつくか誰かのを見るのが1番わかるんだけどな。冒険者ギルドで聞くのもイヤだから、他のも練習してみよう。炎は魔力を止めれば消える。氷はちょっと残るけど、溶けて消える。粒が小さいのもあるかな。嵐は周囲の空気を集める。これも魔力を止めれば消える。この中で近いと思うのは氷で、魔力が消えると床に落ちていってすぐに溶けはじめた。氷を主軸にして他のも少しは練習をする。氷は自然と消えるからたくさん作ったとしても大丈夫なんだけど、どこかでクリスタルバレット程度は見られないかな?大地魔法で簡単な方になるんだけど、誰か出来ないのか?
先にパンをちゃんと作れるようにならないといけない。パンの種は瓶の中で高さを増している。たまにニオイを嗅ぐけど、臭いニオイはしない。順調なんだと思う。材料は作るときに買うとして、フッセさんがバターと塩を入れるようにいっていたから、どこで売っているんだろう。この街では雑貨屋とパン屋と串焼きぐらいしか買ってないから、どこに売ってあるのかな?
売ってあるところを聞きに表に回る。薬待ちの人がいるけど、気にはしない。
「バターと塩ってどこに売っているの?」
「バターと塩はね、パン屋の横の店で量り売りされているから必要な量を買わないとね。あとは砂糖もあるといいよ。砂糖は高いけどね。パン屋で普通のパンを買うのが割と安かったりするよ」
「でも、村にパン屋がないから帰って自分で作れないと、小麦粉を焼いただけのやつは硬くてあんまり美味しくない」
「村に帰っちゃうの?どうして、ここに住めばいいじゃない。祝福も教会で受けられるよ」
ここでも受けられるのなら住んでもいいのか?でも貴族のいるところだと、呼び出しがあると行かないといけない。そうすると緊張したり、言葉も気をつけないといけないしね。
「村とかだと税金はどうなるのかな?ヘルセさん、知ってる?」
薬待ちの中にヘルセさんも混じっていた。
「祝福前の子どもはないはずだけど。大人になってもランス君は冒険者ギルドに登録しているから納めなくていいわよ。冒険者ギルドがちゃんと税金を納める。ギルドで徴収しているから、ギルドカードを提示すれば免税よ。薬師ギルドはどうなのよ?」
「薬師も同様ですよ。作ってもらってそこから一定額を税金としてループします。そこから他のギルドに所属していないかを調べて調整、冒険者ギルドに所属しているなら、そっちに任せて売り上げに対する税を納めて終わりです。他にかかる場合はそこから徴収額を上げたりして対応ですね」
ヘルセさんは血の気の引いた病人といった表情だ。
「ソルがバカやったせいで、王都から本部長が来ることになってる。この上に子爵様の騎士が冒険者ギルドを通じて苦情を入れるでしょう?貴族からの指摘には特に厳しい処分が下るでしょう。それにランス君に負けたっていうのもギルドとしては対応に苦慮するところなのよ。ソルは王都でギルドの下働きぐらいになればいいんだけど。まだ、状況をわかってないから救いようがないの。王都の本部で再教育、総本部で再教育かも。そうなると帰ってこないわね」
「うわ大変ですね。そうなるとギルド長、変わるんですよね」
「誰が来るのかわからないけど、F級の保護はきちんとやれる人が来るでしょうね。薬師ギルドが凄い剣幕だって、本部長がげんなりしていたわ」
「そうですね、期待の新人現る。しかも生活魔法レベルも高く、すでにローポーションが高品質で優秀。薬師ギルドではすでに有名人です。総本部にも生活魔法についての連絡も行ってますし、重点育成支援指定の報告もされているでしょうから、潰されたらかなわないですよ。A級薬師の可能性があるのでうちも保護に力の入ること入ること。他国からの問い合わせもあるようですよ。本部経由で」
「だから、そんなに怒っていたのか。理由がわかってよかったわ、でもこれからが大変そう」
僕は悪くないので助けるとかは思わないようにしよう。居づらいので買い物に行こうかな?そっと後ろに下がる。
「薬お待たせ。魔草を使っているから効果が高いが、効かなかったり、効き過ぎたり、体調が悪かったりしたら相談してくれ。薬草を変えたり、追加するからな。ソルのせいだけど、頑張れ」
「それじゃあ」
横をふらりと通り過ぎていった。死にそうな感じだ。あのソルのことだ、全部放り投げているんだろうな。ふとデールさんと目が合う。
「ランス、調合室にあった、あの瓶かビーカーかちょっと判断がつかなかったけど、あれ作ってくれないか?いい稼ぎになるはずだ」
「クリスタルの瓶のこと?あれはパンの種用に作ったから、瓶なんだよ。ビーカーの方がいいの?」
「できれば両方あればなおいい」
ちょっと後ろを向いて、イスの上に作り出す。それをデールさんに渡した。
「そんなに簡単にできるのかよ。でも、質は十分に高い。精度も十分。今度本部に送って、買う人がいるかどうか聞いてみてもいいか?家を買えるぐらいの稼ぎは保証するぜ」
「作るのはいいけど、先に領主様が商業ギルドを通じで貴族の人に別のタイプのクリスタルを売る予定だから、優先はそっちになるから期待しないでね」
「多少の時間がかかるのは仕方ない。そんなパパッと出来るとは思ってもいないだろうから、作れるときに作ってくれ」
「それならいいよ」
よし、売り込んでみようと意気込んでギルド長室に入っていった。フッセさんにいってきますといって、パン屋の横にある店に入っていく。塩だけじゃなくて香辛料とかも扱っていた。いろいろあるけど、どうしよう買うためのお金がない。違う、パンの材料だけ買うんだ。
「いらっしゃい、お使いかい?」
店番のおばちゃんが声をかけてくる。
「パンの材料が欲しくて、塩とバターと砂糖が欲しい」
「あるよ。砂糖を使うのかい?砂糖は高いから蜂蜜かメープルシロップにしなよ。そっちの方が安く上がるよ。小麦粉は全粒じゃなくて、白いのがあるよ」
「見せて」
自分で曳いた小麦粉よりも確かに白い。これでパンを作るとどうなるのかな?値段がわからないんだけど。
「塩とバター、蜂蜜。白めの小麦粉はどうする?」
「今回はやめとく。まだ作り方を練習しているところだから。ちゃんと出来るようになったら買うね」
「そうだね、失敗するのはもったいない。よし、これで大銀硬貨1枚と銀貨5枚だ」
塩を1袋。バターブロックに蜂蜜が1瓶。多くないかな。引きこもるには十分な量がある。お金を払ってもらって帰る。他にも何か使うかもしないしね。ひとまず、調合室で空間倉庫に入れておく。ご飯を買いにもう1度外に出る。
見られている?近いので気配でわかる。不自然にならないようにチラ見しながら冒険者風の人間が伺っているのを確認。いつもの串焼きとパンのセットを買って帰る。ずっと見られていたが気にせず、調合室に帰って行く。ここを襲うほど愚かではないと思うけど、本部長が来るっていう話も聞いているから薬師ギルドでの攻撃はないな。もしやったら、その冒険者は凄い罰を与えられるはずだ。薬師ギルドと関係がさらに悪化するからね。
調合室で暴走がない程度の魔法の練習をしながらパンの種が増えていくのを待っている。膨らんでは小麦粉を足しながら増やしている。蓋はしているけど、たまにカタって音が鳴るんだよね。中身がぶくぶくしてあわあわしているから中から蓋を持ち上げたのかも。パンの種は初めてだけど、臭いニオイはしていないからまだ失敗じゃないはず。頑張れパンの種。美味しいパンのために。
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