上級魔法

 今日は小麦をひいてパンの種を増やすことにする。キレイな入れ物をどうやって手に入れようか?入れ物ってだけなら石で作ろう。石をどこかで採りたい、土でどうにか作れないかな。

 そうだ、気がついてなかったけど昨日の妖精用のティーセットは土の上級生活魔法で作ったんだ。じゃあ作れるかも。透明な水晶の瓶のイメージをして魔力をつぎ込む。形にならずに弾ける。昨日はうまくやれたんだけどな。弾けたかけらを拾うと透明な尖った粒になっている。生成は間違っていないから形にするための魔力制御とつなげるようにしないと、大きな物にはならないんだろうと思う。まずはたくさんの尖った粒を作ってみる。目の前にキラキラと一定間隔で並ぶ水晶。透明で曇りもない。それを瓶のように配置して間を水晶で埋めるようにする。なんだこれ。使えなくはないけど表面がボコボコしていて、中が見えない。光でキラキラと反射している。菱形格子の大きい水飲み。上下は平面でうまく出来ているんだけどな。

「キレイじゃない。私は好きよ。こういうの」

「瓶を作っていたから、中が見えて欲しいんだけどね。これだとキラキラしているだけだから、もうちょっと考えながら作ってみる」

「そうだ、これ、あの貴族の娘にあげなさいよ。作ってみたといえばいいの。失敗とかいわないのよ。ほら、守ってもらうなら先に対価を渡しておけば、これを作れるってわかれば職人として守られるのは間違いないわ。さあ急ぐのよ」

 いまいち納得していないけど、女王のキレイというのは間違っていないと思うから調合室から瓶を持って、出て行く。そのまま通りを歩いて、出歩くなって言われていたけど。団長がこっちに向かって来ている。

「おう、ランスどうした」

「貴族の人ってまだいるの?」

「まだいるぞ。今から、帰る準備だ。ちょっと小腹も空いたしな。何か用なのか?嫌がっていたのに」

「いや、これをあげようと思って。ご機嫌取りの献上品?僕にはこれくらいしか作れないから」

 日の光を浴びて一層輝いている。

「こいつは、水晶か?」

「そうだね。小さいティーセットと同じだよ」

「こいつの価値は俺にはわからないが、凄いってのだけはわかる。お前達、宿の奴らに帰る準備をするようにいっておけ。俺はランスを男爵邸まで連れていく」

 そこで二手に分かれて、小腹の空いた団長は買い食いしながら領主様の館に向かう。昨日も来たんだけど、渡して終わりじゃダメなのか。

「執事さんに預けてじゃ、ダメなのかな?」

「いいか、こう言えば悪い気はしないはずだ。昨日はお騒がせして申し訳ありませんでした。これはお詫びの品です。急遽、ご用意いたしましたので数はございませんが、お納めくださいと。そうすれば、誓約のことは水に流せないが、溜飲は下がるはずだ。男爵様と子爵様の覚えがよくなれば、味方になってくれるはずだ。だから直接渡せ。お前のためだ」

「わかったよ」

 いきなりの訪問だったが、時間があるとのことなので、最初に通された部屋に通される。お嬢様も一緒にいた。クリスタルの瓶を突き出す。

「昨日はお騒がせして申し訳ありませんでした。これはお詫びの品です。急遽、ご用意いたしましたので数はございませんが、お納めください」

 一字一句間違いなくそう言った。手が軽くなり、執事さんがそれを机の上に置く。3人がまじまじと見つめる。

「これはガラスにしてもよく出来ている。透明度も高い。何で作ったのかね?」

「水晶で出来ているはずです」

 執事に目配せをしてハッサンが呼ばれる。念話でもしているのかと思うほどに、意思疎通がされている。

「これを鑑定してくれ」

「クリスタルの瓶ですね。非常に透明度も高く希少性が高いでしょう。それに加え、加工技術が見たこともないので、手に入れようとして入る物ではないかと存じます」

「価値としてはどうだ?」

「クリスタルの価値だけでも高く、また加工技術が素晴らしすぎます。このように等間隔で作り出すなどとは職人技の極み。ご献上されましても喜ばれるでしょう」

 そんなに価値のある物になるのか。練習で失敗した物だけど。

「これは友好の証としてもらっておこう。何か困ったことがあったら力になる。それでボルギ子爵殿、これは宰相に献上したらよいですかな?うちに飾ってあっても、調度品としては浮いてしまう。それならば宰相に知っていただくこともよいのではないかと思うのです」

「それもよいですな。領地の民の品、サルエン男爵の判断次第です」

 子爵は納得するように頷いている。サイショウって人に渡るってことか。サイショウ、宰相、国の偉い人だったはず。それよりも僕を帰してから先の話をして欲しい。

「作れるのなら、いくつか送った方がよいのではないのか?」

「恥ずかしながらボルギ子爵殿ほど財政がよくなく、これほどとなるといくらになるかも予想がつかないのです。欲しい方がいるのならば仲介させていただく形でどうでしょうか?」

「伯爵クラスならすぐにでも食いつくでしょう。商業ギルドも一緒に紹介してもらえば輸送の手配もしてくれるでしょう。売った税をもらえばサルエン男爵も潤うことでしょう。売るのも任せれば、サルエン男爵の手間は一切かかりません」

「では私は見送りが終わり次第、宰相に献上に参ります。ランスよ、この品の製作を時間があるときにでもするのだ。売り上げはきちんとお前に入る、商業ギルドを経由して売れるように手配しておく」

 売るの?!いきなりの話について行けずにいた。

「あ、ありがとうございます」

「では下がってよいぞ」

 一礼して出て行く。屋敷を出るなりそれはそれは深いため息をついた。

「なんか凄い物だったんだな。そのまま持っていたから、たいした物だと思ってなかったんだ。宰相に献上品を作れるなんて、凄いことなんだぞ」

「ああ、ええと。どうしよう。いつ帰るの?」

「帰るのは明日だ。寂しいんならうちの領地へ引っ越していいんだぞ。さすがにもう手放さないか。はっはっはっ」

「そうじゃなくて、お嬢様がいるかなと思って持っていったんだけど、話が大事になってしまって。明日までに2つ作っておくから取りに来てくれる?薬師ギルドの裏の調合室にいるから。輸送に耐えられるかわからないけど。輸送用の入れ物とか作れないから、さっきみたいに直接現物渡しになるだろうけど。子爵様がいろいろくれるしね。お返しなるかはわからないけど」

「ふん、祝福前の子どもなんだ。もらえる物は素直にもらえばいいんだよ。お礼はもっと大人になってから考えればいいんだ。くれるっていうなら、特にお嬢様が喜びそうではあるから執事にそう伝えておく。売るっていってたから男爵に気づかれないようにしないとな。あの人なら男爵に聞かれないように知らせるぐらい訳ないからな。じゃあ頼む」

 薬師ギルドで別れて、裏手に回る。戻ってさっきと同じように2つ作ってから、水晶の瓶を作れるようにイメージを作り直す。目をつぶってつなぎ合わせるのではなく、繋いでいたそのイメージで瓶の形の厚み部分を満たすようにしてみる。ゴンと床の上に何か落ちた。おお、うまく出来ている。さっきのイメージで作ればいいんだな。

 そういえば上級レベルの魔法が使えている。修行内容を変えないと。やった、停滞していたレベルが上がるかも知れない。飲み物セットも作ってみよう。ティーセットをイメージして作り出す。ちゃんとしたティーセットだ。ポットが透明だと薬草の溶け出した色がキレイかも知れないな。表に回っていく。無駄遣いかも知れないけどやってみたい。

「フッセさんマロウ置いてある?花びらがいいんだけど」

「マロウ、あったと思うけど。ちょっと待ってて」

 奥の木の棚を探し始める。あまり使ってないのかも。

「あったわよ。どのくらいいるの?」

「銀貨1枚分でどれぐらいもらえる?」

 そうねといいながら、割と多いぞ。10回分ぐらいありそう。袋もつけてくれる。

「ギルド員割引でこのくらいかな。袋は次から自分で持ってくるのよ」

「これでお願い」

 金貨を出して、ちょっとびっくりしていたけどおつりをもらい、マロウの入った袋をもらう。水出しがいいかな?どうしよう。ポットに水を入れてマロウの花びらを入れて待つ。ゆっくりと色が出てくるのが見える。

「なにそのポット。透明じゃないの。マロウの青色が水に出るのが見える。凄いわ」

「マロウが溶け出しているのが見えるよ。紫色が溶けていい色になっていくね」

 マロウの水出しの様子を眺めていると、後ろからデールさんがやってくる。

「なんだ、この透明なポットは?ビーカーよりも透明じゃないか。ど、どこで売っていたんだ。か、金の用意をして、高くてもいいから。クリスタル製のポットは耐熱性もあるのか。ほうほう。金貨、うちじゃ予算が用意できない。どうする?本部から予算を要求してみるか?高級の薬師に確実に売れる」

 独り言だろうかと思って温める。薄紫の青が少しづつ消えてピンク色に近づいていく。出来たマロウティーをカップ注ぐ。

「フッセさんどうぞ。デールさんは?」

 フッセさんに透明なカップを渡す。デールさんは返事がない。注いでいると花びらが混じってしまうな。

「茶こしがあった方がいいよね。せっかくキレイな色に出来たのなら、そちらの方がよくないかな?」

「そうだけど、花を浮かべてもキレイなんじゃないかな?透明だと沈んでも花が楽しめるからいいと思うわ」

「俺にもくれ」

 気がついたデールさんにお茶を渡す。

「色が楽しめますね」

「いやいや、薬の溶けだしがきちんとわかるんだからそっち方が大切だろう。他のハーブティーでも試していいか?」

「それはいつも通りでいいんじゃないですか。緑色ばっかりじゃつまらない。たまに茶色。上から見てわかるぐらいの煮出しは出来ないと」

「駆け出しにはその金がないからなかなかうまく出来ないんだ。師弟とかだと雑用がイヤで逃げ出したりするし、ギルドもそこまで面倒見きれないんだ」

 そんな制度があるとは思っていなかった。それでも学べるだけましなのではないのだろうか。駆け出しが薬を買うお金がないなら、容器を買うお金もないのでは?現に安くしてもらった調合のセットが金貨3枚なんですよ?新品なら10枚って聞いたけど。ギルド員が薬を作って返す方法ぐらいしか出来ないよね。お茶を飲みながらゆっくりして、1度調合室に戻る。食べ物を買って、そうだ、修行法を変えないといけないから、ここじゃない方がいいかも。明日、ギザギザクリスタルを渡したら、山ごもりに、いや村に戻ってもいいかもしれない。注文した物が届いてからでもいいかな。だけどお金を稼がないといけない。普通に金貨なんか稼げないよ。ギザギザクリスタルがどのくらいで売れるのかな?それによっては冒険者ギルドでの活動もしないと。生活費を稼ぐくらいの気持ちだけどね。マジックバックはいつ届くかな?なるべく早く届いて欲しい。パンの種を増やすために小麦をひいてパンの種と混ぜる。うまく増えるといいんだけどね。

 ここにいて上位魔法に属する炎、氷、嵐、大地の練習。1つ1つ集中しながら作っていく。同時とかは無理。暴走や暴発で薬師ギルドくらいは消し飛ぶ。同時に出すのはもっと山の中で練習して、制御できる自信がついてから。わざと暴発させつつそれを抑えられる練習もしてからなら、ここで練習してもいい。最初だから、大地の結晶の練習をしよう。弾けても壁が傷つくぐらいで済む。本来は硬い物を作り出して敵に当てたり、壁にしたりで、時間がたつと自然消滅する。呪文には消滅も含まれるようで、ずっと氷や炎が永遠と魔力がある限り燃え続けられると道が通れなくなったり、住めなくなったりするので逆に消えてもらった方がいいとグリじいはいっていた。確かに危ないと教えてもらったときは思ったよ。魔力が大量にあるダンジョンとか魔力だまりとかではないから、この辺で使っても勝手に消えるけど、消せるようにもならないといけない。結晶にして魔力分解までを練習だ。結晶は作り出す菱形を想像して空中に魔力を持って描き実体へと変換していく。目の前に整然と並ぶ結晶を今度は魔力を消すようにイメージして。

 消えないな。魔力の供給を絶つような感じ?ダメだ、目の前にある。どうして消えない?とりあえず、ギザギザクリスタルにしておこう。魔力を物質に変換して実体にして出来上がり。その間、魔力の供給をして維持していないのか?炎や氷、嵐は供給されないと維持されないから、大地も一緒かと思っていたんだけど、実体にした時点で魔力供給が必要じゃないと?魔力を抜く?でもギザギザクリスタルやクリスタルティーセットからは魔力を感じない。その日はうまくいかなくて、ギザギザクリスタルが数個出来て空間倉庫にしまい込んだ。

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