お肉を食べる
「本日のお招きはこれでいいでしょうか?」
「うちの領地で働く気はないかね?」
「申し訳ありませんが祝福前なので無理です。僕は身を守るためにたくさんのことを教えてもらったのです。まだ、誰かのもとにいるつもりもありません。身の回りのものを買うために出稼ぎにきているだけです。本来は冒険者ギルド長と戦ったり、街から出られなくなったりすることはなく、クエストをこなしているはずなのです。だいたい、ここの冒険者ギルドがF級の保護を一切しないからこんなことになっているのです」
そう言ってソルをにらむ。貴族とはあまり関わり合いたくなかったのに。
「アタシが悪いっていうのか?」
「そうです。謝罪もされていないし、冒険者に対しての処分も一切されていない。それに対して報復に出てもギルドとしては静観ですよね、当然」
「それはそうだが、静観といっても死んだら犯罪だぞ」
「殺さなければいいんですね」
「ちょっと待て、何をする気だ。内容によっては止める」
「止められるのですか?暴力に暴力でどうにかしようとした貴方に?話など一切、聞きませんけれど、何をするかだけ教えてあげます。風で少し痛い目を見てもらうだけですよ」
目を外さずにそういう。
「風で?そのくらいなら大丈夫だろう」
「よかったです」
「待てランス、お前の風は鋼鉄を切れるだろう。細切れにするつもりか?」
「それもいい考えです。身元がわからなければ誰が死んだかわからないですから。それに誰がやったのかわからない。適当に山の方に飛ばせば完璧そうです」
騎士団長は頭を振って額に手を当てている。ソルの方に向き合う。
「よその領地のヤツが言うのもおかしいかもしれんが、ランスに謝って許しを請うのがいいんじゃないのか?年下とか祝福前とか関係なくてよ。事の発端は勝手にいちゃもんつけて、並んでいたランスをぶん殴って骨折させたんだろう?普通ならその冒険者に処罰なり罰金なりを課して、次はさせないようにするんだがな。管理が出来ないならなおさら。まあ、なあなあの腐ったギルドっていうんなら、こちらは対応を変えるだけだが。気の荒い冒険者同士ならいいが、F級の保護規定はギルドとして守れてないぞ。人手が足りないなら、ギルドとしてそれ相応の対応をしないと事故が起こってもしかたない。王都みたいに手練れのギルド員が多いならだが、田舎には普通あまりいない。事務上がりのギルド長だっている。まして、アンタは元A級の冒険者なんだろう?頭が足りなくても、もっと自分の仕事しろ。やり方はあるはずだ」
「それでは示しが」
「ランスに負けたヤツが示しがとかいうなら、ランスにお前が従うのがお前の示しだろうが。今の時点でお前の信用はない。F級に返り討ちに遭った元A級の冒険者だぞ?わかっていっているのか?自分で仕掛けておいて、まだわからないのか?」
「だ、だけど」
「負けも認められないとは。ギルドとして、元冒険者として終わってるぞ。うちの冒険者ギルドを通じて抗議を入れておく。これ以上話すことはない。ランスも当分は冒険者ギルドに近づくな。いいな?」
どこからともなく、硬貨を取りだして投げてよこす。
「祝福前の子どもを潰されては困る。ランス、その金でしばらく生活しろ。あと薬師からも抗議を入れてもらえ。お前が本気で暴れたらこの町ぐらいは消えそうだからな。争いの元に近づかないのがいい」
こ、これは金貨。初めて見た。いいのかな?
「うちにもいいポーションが来るなら、それぐらいは気持ちとして取っとけ」
「ありがとう」
ポケットにつっこんでおく。そこに執事さんがやってきた。
「みなさま、お食事の準備ができましたのでどうぞ、こちらへ」
案内されるままについていく。みんなも外に出ると食事が、テーブルの上に載せられている。おいしそうな香りがする。肉料理が中心だ。騎士の人たちは外にいた。
「捜索に行けなかったが、肉は食べさせてもらえそうだからよかったぜ。肉を買い上げてくださった子爵様に感謝だな」
「今日は子爵の騎士団に活躍いただき感謝する。冒険者ギルドの方々にも魔獣退治にご協力いただき感謝する。では討伐した魔獣の肉を料理させたので皆でいただこう」
領主様が声を張ってそう言った。テーブルに並べられた、美味しそうな料理を眺めている。疲れた。緊張した。草の上に直接腰を下ろして休む。いつの間にかウィット達は消えていた。みんながテーブルから料理を取っているのを眺めながら、ボーッとしていた。少しして、テーブルに向かう。料理をもらうためだ。ソースのかかった肉の塊に目をつける。どうやって食べればいいんだろう?
「君がランス君かな?いや、試合を見せてもらってね、あんな凄いことが出来るからもっと威張っていると思ったら大人しい子じゃないか。この肉の解体も君がしたんだって聞いたけど、傷がほとんどなくて何の料理にも使えて嬉しいよ。ミンチになった肉が回ってきたら、どうしようかと思っていたからね。出来る料理が少なくなる。おっと、切り分けてあげるよ。ほら」
ナイフと包丁で切り分けた肉を何枚かもらう。ソースが美味しい。
「お、美味しい。ありがとう。うまい、このソース、おいしい」
食べながらうまうまいっしか言ってない。慌てなくてもたくさんあるよ、他の料理もあるから食べてみるといいと勧められた。サイコロ状に焼いた肉やサラダと一緒に作ってある物だったり、丸めた肉の塊などが皿にのっていたのでちょっとずつ食べていった。他の人達も皿にのった料理を取って食べている。領主様と子爵様とお嬢様は執事さんが取り分けているけどね。騎士団の人達のところはわかりやすく、塩のみである程度の厚さの肉を鉄板の上で焼いている。他には目もくれない。僕は料理人が作ってくれた肉を食べていく。美味しいな。
お腹いっぱいに食べ終わる。まだ肉は残っているけど、もう食べられない。うっぷ。ソルはまだ食べているのが逆に凄い。騎士団の方も落ち着いているが、団長が残りを平らげてソルと食べ比べを始めた。盛り上がっているが、肉待ちの状況。火が足りないようだ。どこからともなく、焼くところをもう1つ追加して調理台が増える。
「よし、焼くのは任せろ。その胃袋の挑戦を受けて立つ」
料理人はステーキという肉をある程度の厚さに切って焼く方法で量産している。2台の調理台で肉を焼いては2人に渡していく。本当によく食べる。どこに入っていくのかわからないけど、食い意地だけは凄いことがわかった。少し騎士団の取り巻きと違う位置で眺めていた。
「ランスだったか?団長が気に入っているようだが、お前が連れてきた魔獣で団長に命の危険があったんだぞ。わかっているのか」
「みんなで討伐に当たるのかと思ったら、1人で残るっていい出すから。だから僕も残って、危なそうなら加勢しようと思っていたけど、途中までは大丈夫だったよ。剣を飛ばされたときはやられちゃったかなと思ったけど」
「加勢に入ればいいだろう」
「うーん。団長に出来れば倒して欲しかった。ほら、僕ってF級で弱いものいじめされるからさ」
騎士の男は何言ってるんだとつぶやいた。
「ほら、剣がどれほどか見てやる」
「貴方は強いの?」
「団長よりは弱いがそれなりに訓練はしている。職は剣士だ。十分強いぞ」
放り投げられた木刀をつかむ。久しぶりに剣状のものを持った。ゆっくりとオーソドックスな構えをして1度ゆっくり振り下ろす。封印しているのでスラッシュっぽいのは出ない。これならいけるかな。
「いくぞ」
了承していないんだけど、勝手に始めるものなのかな。力と共に振り下ろす木刀を躱して、振り上げてきた剣先に刃を当てて軌道をずらし当たらないようにする。普通だとこんなものなのかな?剣というよりは筋肉って感じに木刀を振り回す。余裕を持って軽くいなしていく。
「防御に手一杯で反撃できないのか?」
「そうかもね。木刀を持つのも久しぶりだから、感触をたしかめているよ」
余興のような形で、騎士団達の連中が周囲で盛り上がっている。力任せに打ち込んでくる剣筋をそらして躱す。力任せなのに少しずつスピードが上がってきている。何かスキルを使ってきたかな。
「舐めんな、ふわふわと避けやがって。打ち合え」
「打ち合っているよ。もう少し、木刀を使わせてよ」
「生意気な口ばかりで戦うこともしない。反撃も出来ない腰抜けめ」
振り下ろされた上から剣をたたきつけて、土にめり込ませると木刀の切先
を首元に突きつける。
「防御重視だよ」
「生意気な!」
僕の木刀を掴むと、引き抜いた木刀で突き刺そうとしたのを半身で引くように躱して、その力を利用し、手から引き抜くと回転した勢いそのまま、容赦なく手に木刀をたたきつける。反則技を使っている。木刀で打ち合うならば、木刀は剣として見立てなければ。木刀を掴むなどやってはいけない。こいつは木刀で打ち合うことをすてた。なら、反撃も容赦なくする。
「ウギャッ」
木刀を放して無防備な騎士を無言で殴りつけていく。2度と敵にしたくなくなるように力を見せておかないと。手加減をしているのが悪いんだよね。
「いて、いて。助けてくれ」
「刃を手で掴むってことは、その手は使えなくてもいいよね」
防ぐように使っている手へ一撃を入れようとした瞬間、ミスリルの剣が木刀を切った。切れた木刀を投げ捨てると落とした木刀を拾う。間に入ってこられた。
「うちの若い者が悪い。躾がなってなくてな。お前、謝れ」
「何でですか?生意気なガキに」
「生意気なのはお前だろう。あいつは実力が十二分にともなっている。それにお前は負けただろう。あのギルド長と一緒さ。見てくれだけで判断する愚か者だ。見かけだけで何も知ろうとせず、受け入れも出来ないバカだ。俺の見立てでは木刀でお前の首は落とせると思ってる。違うかランス?」
出来るのかな?
「今の状態だとやってみないとわからない。手は確実に壊そうと思っていたけど」
「つまり、木刀で騎士として再起不能になるわけだ。うちは首になるが当てはあるのか?」
首を振る騎士。血の気を引いていた。他の騎士達は手出ししてこなかった。
「実力があるかどうか数合やったんならわからないと、騎士としてはまだまだ。副団長、うちの騎士で一騎打ちできそうなのはいるか?」
「団長ぐらいか、自分は頑張っても負けるでしょう。まだ、実力の片鱗すら見えませんでした。数人がかりで剣のみならという条件で、もしかしたら対抗できるかと。生活魔法ありでしたら、撤退のみしか選択肢はありません。逃げ切れる自信もありませんがね」
「と言うことだ。主人を守るなら、相手と自分の自分たちの実力差をきちんと把握出来ないと守ることも出来ない。若手で強いかもしれんが、あくまでこの騎士団の中でってだけだ。それを肝に銘じて訓練せよ。今回はいい訓練だと思って、とりあえず謝れ。ランスは謝ればこの程度は許してくれるさ。実力差がありすぎて相手になっていなかったしな」
言われた騎士はどこか一点を見つめて微動だにしていない。団長に頭を乱暴になでられると僕を見た。
「すみませんでした」
「この通り謝っているから許してやってくれ」
「わかったよ。いきなりだったし、強制されるのは嫌い」
「そうだとは思うが、男爵様や子爵様は敵意はないから、安心しろ。人となりを知りたかっただけだ。用事か必要なことがあれば呼び出すかもしれんが、その時はお前のためだからきちんと来るんだぞ」
「えー」
イヤそうにしていたが来るんだと念を押された。貴族の人達が用事なんて面倒な気しかしない。今回の呼び出しは肉を食べたら終わった。薬師ギルドに戻って団長に言われたようにF級保護規定違反のことをギルド長に話す。
「あれは2人で戦って終わったんじゃなかったのか?」
「ヘルセさんは謝っていたけど、ソルは謝罪も対策もなし。原因って全部ソルが作っているのに、本人が謝らないのは納得できない。自分が悪いってわかってるのかな?ソルが謝るまでは冒険者ギルドに行かない。あと子爵様の団長さんが薬師ギルドから抗議を入れてもらえって。団長さんも領地に戻ってから冒険者ギルド経由で抗議を入れるからといってたよ」
「謝らないのはダメだな。あいつはルールを守れないのか。それならばこちらも抗議をしておく。それにギルド員であったから当然、それと合わせてな。よし、連絡してくる。ランスも身の回りに気をつけろよ。道具や瓶が数日中には届く予定だ」
「うん、調合室で大人しく。でも調合室にいるのは知っているんだよね。なんとか、出来るとは思うけど破壊とかはしないと思いたい」
周りが動いてくれるとは、思っていなかったので嬉しかった。味方がいるのはこういうところでは初めてだ。ちゃんと籠もっていよう。まだ銀貨も残っているから、数日ぐらいならもつだろう。金貨もあるからちゃんとした解決がされるまでは留まっていよう。
「閉じこもっている間はどうするの?」
「パンでも作ってみる。食べるのは別に買って、うまくいくようになったら自分で食べる。今度はケチらずにバターも使う」
「そうね、それがいいわ」
「高いから使いたくなかったけど、うまく作るためには使わないと。パンの種も作ろうと思う。あとフッセさんにもらったのを増やさそうと思うけど、どうやったら増やせるかな?」
キレイな入れ物にパンの種と小麦を入れて、置いておくと増えるらしい。出来れば熱湯とかで入れ物は洗った方が悪いものが入らないので、パンの種だけを増やしやすいそうだ。その入れ物で種を増やしながら継いでいくとよりよい種になっていくから大切に作るように教えてもらった。小麦は安いのである程度の量を確保して調合室に。今日の分は食べたから、朝食分を買い足して板張りのスペースに横になる。グリじいのところは綿のつまった布団があったから気持ちよかったんだ。床は冷たい。早く布団が欲しいのは望みすぎかな?
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