秘密を教える

 騎士のおっちゃんと一緒だから、普通に門を開けて中に入れられた。ちょっと追い返してくれたら、すぐにでも帰るのに。中に入るとソルとヘルセ、あと門番がいる。帰りたいよ。

「ようこそいらっしゃいました、ランス殿」

「招待はここまでだから帰っていいですか?」

「いえ、お茶のお誘いも含まれておりますので、もうしばらくお付き合いください」

 しかたなく館の中に入っていく。前に来たところではなくて、広い部屋にテーブルとイス、お嬢様がすでに座っている。子爵と領主様も一緒だ。こんな広い部屋でしなくても。

「本日、ご招待いただきましてありがとうございます。エンケ村のランスです」

 礼をする。イスには座らない。

「先ほど騎士達よりブラウンベア討伐の知らせがあったが本当か?」

「討伐されたのは本当です」

「騎士団長、報告を」

 おっちゃんは、横に並んで臣下の礼をする。

「ランスを追いかけて北東に進んでおりました。ブラウンベアに見つかり追いかけられていたランスと遭遇し、撤退を指示し、自分が殿を務めました。ミスリルの剣を持っていたとしても、応援を呼んでくるまで持つかどうかわかりませんが、撤退できる時間を稼げるのは、自分だけだと確信して戦闘に臨みました。なんとか攻撃をしのいでおりましたが、徐々に追い詰められて、ブラウンベアの一撃で剣が飛ばされ、爪が鎧を貫通し死を覚悟しました。その時、剣がどこからともなく戻ってきて、ブラウンベアの心臓を突き刺し倒れました。そのあとランスが現れて、ブラウンベアの解体にはいりました。戦いの疲労と出血で疲れが出ておりましたが、ランスのローポーションで回復し戻って参りました」

「それで、止めを刺したのはランスでよいのか?」

「他に出来る人物はあそこにおりませんでした」

「ならば、連れてきたのと倒したことで相殺したとして、倒して解体までした上に肉と損傷の少ないブラウンベアの毛皮。全部で金貨5枚出そう。こちらで引き取ってもよいか?」

 金貨5枚!すぐさま頷く。

「では、本題に入ろう。ランスのスキルや年齢に偽りがないか、確認しよう。幻獣を連れているとも聞いた。そのことについても話してもらえるかな?」

「幻獣のことは誓約をしないと話せません。誰にも話さないという誓約付きでなければ、無理です。それをしないと幻獣との取り決めにより、話された方が死にますがよろしいですか?」

「そのような話は聞いたことがない。幻獣は人を守るもの達と聞いている。殺すなどとは一体どういうことなのだ」

 黙ったままで、その話は誓約がない限り、話すことはない。

「ここにいる全員に誓約をさせない限り、説明も釈明も出来ません」

「重要なことであるのだ。神殿や国に幻獣の加護を持った者が現れたと報告しなければならない。誰にも話さないというのは出来ない。必要な人には知らせを入れておかなければならない」

 幻獣自体が神の使いに連なる者だからかな。最上位の使いなんだけどね。使いが顕現とか、神の降臨に等しいもんね。他の人間に知られてたまるか。

「子爵様、男爵様、誓約付きとはいえ話すこと自体が譲歩なのです。この譲歩が受けいられないのであれば、一切のお話はございません。本来のスキルや年齢のことでお願いします」

「なぜだ、国を挙げて其方を保護し、敬うであろうことなのにか?」

 しゃべるのに疲れたので、子爵を見たまま黙る。それを避けるためなんだけども。この人達にはわかってもらえないよな。ただ、当主が目撃していないから、このままどこかに報告ということも出来ない。

「サルエン殿どうしますかな?この子ども、不敬罪ではないですか?」

「そうですな。ボルギ殿、こちらが譲歩しているのに敬うこともしない。不敬である」

 雲行きが怪しくなって来たけど、どうしたらいいのかな。ふわりとした風を感じた。

「この屋敷にいる者全てに神の代行フェンリルの名において誓約を課す。ランスの秘密を知らぬ者に伝えることを禁じる」

「女神の代行スコルの名において同じ誓約を課す」

「妖精女王の名において同じ誓約を課す」

 神と天使の使いが目の前に現れれば言葉をなくす。

「それでは何でもお答えします。幻獣についてですが、神と女神と天使の代行になります。あと、年齢ですが13才で間違いありません。スキルについては、他の方にしゃべれないのでいいますが、神より全てを与えられました。直接祝福をもらったことになるのかな?祝福前のスキルにするために封印を行い、祝福後のスキルは使えないようにしてあります。聞いていらっしゃいますか?」

 子爵は固まったまま、こちらを見ている。扉の開く音がして、なだれ込んだソルとヘルセ、門番と騎士達。メイド達もいる。ばつが悪そうに立ち上がるが、子爵達は気にした様子もない。

「封印は解けるのか?」

「封印するのが面倒です。解くことはいつでも出来ますが、封印はここにいる魔法使いレベルでは無理ですよ。封印自体が古代語で構成されています。古代魔法解析、再構築してそこから発動出来ないのなら無理ですね」

「ハッサン、出来ないのか?」

「古代語の解析は考古学者や高レベル魔術師、宮廷魔術師などが行っております。わかりかねます」

 妖精女王は肩に座って、やりとりを見ている。

「すいません、お茶とクッキーをいただけませんか?」

「あ、ああ、リック、頼む」

 男爵の執事さんがテーブルに紅茶とクッキーを運んでくれる。立っている前に石のテーブルを作る。

「無骨よね。もっといいのにしてよ」

「はいはい」

 深呼吸をして集中力を高める。石のテーブルの上に、ガラスのイメージでテーブルセットとティーセットを作る。女王がイスに座って、お付きの妖精がリックさんの持ってきた紅茶とクッキーを持ってくる。紅茶をカップに注ぎ、クッキーを割ると、後は勝手にやってくれる。

「ありがとうございます」

 領主様に一礼する。いただいたからね。

「よ、妖精様は紅茶とクッキーが好物なんですの?」

「そうですね、嗜好品の類いと聞いております。食べなくても平気なので、なければないでいいのです。師匠とお茶をしながらいろいろと話しておりましたら、興味を持って一緒にお茶をするようになったのです」

「ちょっと違うわよ。ランスが妖精サイズの食器を作れるようになったから、一緒するようになったの」

 そうですのと妖精達を見つめている。薄い羽をパタパタさせながら、光が通ったあとを残していく。目を引かないのがおかしい。

「誰に師事していたんだね?古代語が扱える人間ということになると思うが」

「魔法や古代語の知識などはグリじいから教わりました」

「グリじい?どういった人物なのだ。名前は?」

「すいません、いつもの呼び方でした。人々には大賢者グリゴリイと呼ばれているそうですよ」

「ぐ、グリゴリイ。大賢者グリゴリイ。聞いたことがある。ハッサン」

 魔法使いは慌てたように答える。

「大賢者グリゴリイ、その知識、才能に類比する者なき、賢者の中の賢者。賢者の中でもかなうものなしと謳われ大賢者と呼ばれております。魔法の知識、技量もさることながら、古代語、遺跡の解読、技術を魔道具や付与魔法として発展させたことでも有名でございます。まだ、ご存命だったとは。行方をくらませたと聞いておりました。まさか弟子を取られていたとは」

「それほどの知識と能力があるのなら敵意を向けられれば危険ではないのか?」

「封印されている状態でも取り逃がしましたので、確かに危険であるといえます。解かれた状態ならば、手も足も出ない可能性は十分にあります」

 唸る子爵。娘の方は妖精に夢中である。お茶が終わったのか、肩に戻ってくる。

「騎士団長、どうだ?」

「大事なことを聞いてません、狩りは誰から習った?」

「そうか、魔法は大賢者グリゴリイから。確かに確かに。代行様をご拝聴できるだけでも奇跡だというのに、全ての代行様がいるので混乱している」

「奇跡を見れば当たり前っちゃ、当たり前ですが。子爵様、落ち着きましょう」

 紅茶を飲んで落ち着こうとしている。大変なことなんだなあ。

「ランス、狩りは誰から習ったんだ?」

「ティワズに教えてもらってた。技の練習できるところがあったからね」

「ティワズって、S級冒険者のティワズか?」

「冒険者だね。S級って数年依頼しなくてもいいって言ってた」

 途中ソルが食いついてきた。冒険者ギルドだしね。

「武神ティワズ、あらゆる武器に精通し格闘術も使いこなす、前衛最強と呼ばれている。必要とあれば遠距離武器に切り替えて攻撃可能。遠近両方とも世界トップクラス。もっとも剣術を得意とし、あらゆる流派を打ち破って修行したと言われている。数年姿をくらましていて、どこかのダンジョンで死んでいるのではと言われていたのに生きているのか?本部長に報告しないと」

「ここにいる皆さんは誓約をしているので、ここでどうこう言うのは出来ますが、本部長という方はここにいないので、伝えられませんよ?」

「私は誓約していない」

「この秘密をしゃべる前に代行により誓約を課したのです。つまり、神々による誓約を与えられています。解けるのならば、拝見させてください」

「勝手に誓約なんて。出来るわけない」

「神々を信じろとはいいませんが、神々の力は恐れた方がいい。あれらは身勝手で自分の思うようにしか動きませんのでね。僕を守るためなら、これらは人と国すら軽く消してくれるでしょう」

 それを聞いて子爵達は驚いているし、信じられないとかおかしいとか割って入った人達はいっている。

「それよりも武神ティワズの弟子なら剣が得意なはずだ。なのになんで弓とナイフだけで、剣はないのか?」

「出てくるときに持たされたのは弓とナイフです。生きるのにいるのはこれで十分だろうと。村で静かに獲物を捕りつつ生活していくのですから武器は必要ないでしょう。それに忘れてはいけないのは僕は祝福前です。秘密を垂れ流しにするような愚かな考え方はグリじいからもティワズからも教わっていないです。特に秘密のことが広がらないようにと注意されていました。剣は封印を解くとティワズと一緒で振れる場所が限られるのです」

「どこなら振れるんだ?ティワズ直伝の技を見せてくれよ」

「ダンジョン内か、どうなってもいい土地ぐらいですかね。どう剣を振ってもソードスラッシュのような斬撃が出るんですから、どうしようもないでしょう?」

「なんでそんな斬撃が出るんだよ」

「ティワズがいうには、才能があるなら振っているだけで出るそうです。剣技にひたすら真剣に取り組めば出来るのじゃないですか?僕は最初に素振りをやっているだけで止められましたけれどね」

 ソルの食いつき具合がやばい。

「素振りぐらいで止められるか」

「手の皮が全部なくてってもひたすらこうではないなと振っていましたから、最初なので止められたのかわかっていなくて、いわれて気がついたくらいでした。しかし、それでティワズは教える気になったのかなとも思います。教えてもらえることを必死で吸収していました」

「手の皮がなくなるまでって、普通そこまで振らないだろう。痛くて続けられない」

「2人も研鑽と努力が技術や知識を高めることを知っていたので、死なないぐらいのギリギリまで教えてくれました。手の皮がなくなって、治して再開もありましたし、火の魔法で大火傷しても治して再度挑戦していましたよ。回復は女神の代行がしてくれるので、死んでいなければ大丈夫だったので」

「それは反則だな」

 無茶と無理をしないとたぶん4年では終わることはなかっただろう。自分が頑張りすぎたのかも知れないけどね。

「スキルって、使っていれば上がるんじゃないのか?」

「そうですけれど、間違っていれば上がりませんね。剣術系だと剣の振り方や体の使い方が間違っていると上がりませんね。スキルがそういうところを補正してくれるけれど、そこを自分で修正できないとスキルレベルは上がらないです」

「じゃあ、私の大剣は間違っているのかよ」

 そんなことは僕にはわからないけどね。首をかしげる。

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