採集へお出かけ

 朝からどうしようかと考えていた。外に狩りと採集をしながらポーションの道具が来るまでの間待つか、イヤイヤながら冒険者ギルドの依頼を受けに行くか。うん、外がいい。弓セットを装備して誰か来るのを調合室の前で待つ。フッセさんが現れた。

「フッセさん、道具が来るまで薬草を採りに行くから、調合室の鍵を返しておくね」

「パンは作らないの?」

「教えてくれないんでしょう?だから今自分でやれることを考えて、道具が来たら一気にポーションが作れるようにする」

「冒険者ギルドの依頼を受けたりはしないの?」

「だって、あそこのギルド長、嫌い。言ってもわかってくれない。それに殴られたりしたらイヤだからね。だから、冒険者ギルドには近寄らないようにする」

 そういって鍵を無理矢理渡して、パン屋に向かう。もう、開いてる。中に入って、たくさん買おうとする。

「坊主、そんなに持てないだろう。おとなしく向かいの道具屋でかごでも買ってこい、取っといてやるから」

 開いた道具屋に入って、手提げかごを買う。大銅貨2枚。安かった。パン屋に戻ってパンを買うとそのまま、門に向かって歩いていく。

「ランスだな。悪いが外に出ないでくれ。領主様の命令なんだ」

「ええ?聞いてないよ?」

「こちらが聞いているから戻ってくれ」

 しかたなく街の方に戻る。せっかくパンを準備したのに。ちょっと戻って石壁伝いに歩いていく。他に出口がないか探そう。石壁の近くは草が少ないから、そのまま沿って歩いて行く。ちょこちょこ補修されている。領主の館と違ってきちんと整備されている。どこかに出られる場所があるかな。進んでいくと草で通れなくなっていた。風でなぎ払う。少しづつ道を作りながら進んでいく。石壁を傷つけないように草刈りを行っていく。穴が開いた崩れた石壁を見つけた。僕なら通れるぐらいだった。

「おーい、外は危ないから行くな」

 振り向くとソルが家から出て来たところだった。ソルの家の裏手!かごを先に出して素早く穴に潜り込む。

「あちゃ、衛兵にでも言っとかないといけない・・・・・・草が刈ってある。まさかランスか?戻ってこーい。ランス、街から出るなってギルドや兵士達には声がかかっていたんだよ。頼むから戻ってこーい」

 のぞき込んだソルと目が合った。

「そんなこと誰からも聞かされてない」

「いいから、ちょっと待って」

 気配遮断を意識して使い、森の中へと入っていく。かごとパンを空間倉庫にしまって走り続ける。生活魔法は解禁しているから、別に隠す必要もないのか。風で速度を加速させながら、ここを抜けるか、すぐに追いつけない場所まで行きたい。探索の魔力、領主街からか。風を使っていたから、居場所はわかったかも知れない。でも、とどまっている必要もないんだよね。感知範囲はどのくらいかな?だんだんと木の高さが上がっていく。森の感じが変わった。ちょっと強いのがいるかも。探索は魔力を逆探知できるから、使わないでおこう。魔草に癒し草もある。たくさん生えているよ。いっぱいだ。取り放題。冒険者って採集とかしないのか?でも、採集の常時依頼はあった。うーん?まあいいや、かごを取りだして、薬草を採っていく。普通のは逆にないな。魔力を持った草が多い。大量大量。1度空間倉庫にしまって、また同じように採っていく。根こそぎじゃなくて、必要な葉の部分だけね。続けていると野太い雄叫びが聞こえる。見えたら逃げよう。採集を続けるんだ。


 雄叫びが真後ろで聞こえる。夢中になりすぎた。振り返るとブラウンベアが仁王立ちで吠えている。まずい、まっすぐに町の方へと全速力で逃げる。追ってくるかどうかわからない。少しだけ音が遠くなって、後ろを振り返ると木をあの図体でうまくかわしていく。すぐに近くなる、慌てて身を翻すと逃げる。なかなか諦めてくれない。木の間を駆け抜けて走り続ける。風を使い速度を上げる。

「いたぞ」

「逃げろ!ブラウンベアだ」

「総員退避、街に向かって逃げろ。C級以上の冒険者を緊急要請!閉門指示を出せ。俺がしんがりをやる、命令だ!いけえ!」

 馬を反転させている間に、ブラウンベアは追いついてきた。勢いのまま狩ろうとする爪を剣で受け止めた。受け止めたおっちゃんの足は地面にややめり込む。あれを受け止められるのか。攻撃としてはベアの中では高威力だからあれを止められると厳しいんじゃないのかな。

「ミスリルでよかった。鋼鉄だと凌げなかったかもしれん」

 人ごとのようにつぶやいている。お互い1度距離を取る。前足でおっちゃんをなぎ倒そうと振られるが、剣でうまく力を逃がしながら下がっていく。攻撃を受け流しながら、ベアは肉体の力で押していく。1回1回の攻撃は先ほどより威力がないが、回数と素早さで反撃する隙を与えていない。あ、木に下がるのを邪魔される。受けるのが大変なのか、足が折れて体が沈んでいく。押されているよ、おっちゃん頑張れ。ブラウンベアが立ち上がり、雄叫びを上げる。大きい!おっちゃん?一瞬、動きが止まって、ベアが覆い被さるように振り下ろした手を受け損ねて剣が飛んでいく。やばい。また振り下ろされる手が、防具に刺さる。貫通するが、完全には壊れていない。爪が刺さっている。鎧の隙間から血が流れている。手を貸すか、死なれるとかわいそうだ。

 とんだ剣を風で操る。ちょっと難しい。覆い被さったような形で、押し潰そうとしている隙間から真上に剣をさす。大きな声と共におっちゃんに向かって倒れていく。潰されないように横から風の塊をぶつけてずらすと、ドスンと横向きに倒れた。

「おっちゃん、生きてる?」

「もっと早く助けてくれ」

「1人でもいけそうだったから」

「他の隊員を生かさないといけないからな。だいたいブラウンベアなんて何人かでやるもんなんだぞ?時間稼ぎしか出来ないさ」

 大丈夫そうだったけど、一応ポケットから石瓶のローポーションを出して渡す。

「まだ、ちゃんとした瓶じゃないけど、これで薬師ギルドに入れたから飲んだら?」

「ありがたくもらっておく」

「これで死なないと思うけど、大丈夫そうだね。暇だから解体しとくよ」

「帰ったらたらふく食ってやるさ」

「ちょっと剣を借りるね」

 ベアを仰向けに転がして剣を抜くと首の部分を薙ぐようにして切り落とす。

「ウソだろう」

「返しておくね」

 頭の部分の太い血管に水を通してキレイになるまで続ける。胴体も同じように水で高速血抜きを行う。図体が大きいから時間がかかるな。足首と手首に切り目を入れて、水を流す。キレイになるまで見ていたけど、さすがに時間のかかる作業だった。とりあえず、臓物を出しておく。風とお湯を使いながら皮をうまく剥いでいく。集中力のいる作業だ。


 皮剥終了。時間と集中力を使うのですっごく疲れた。すごく冷たい水で身を冷やしておく。

「内臓はどうするんだ?」

「僕は食べないから埋めるつもりだけど。欲しいなら持って帰れば?」

「なら持って帰るか。持ち帰れる大きさになるか?」

 腕と足と胴は適当に8等分にしておいた。

「よし、お前達今日はブラウンベアの肉が食えるぞ」

「「おお!」」

 野太い声が森に響く。気がついたら騎士達が周りを囲んでいる。集中しすぎた。冒険者ギルドからはソルとヘルセが来ていた。普通の冒険者は?いいや、帰ろう。薬草一杯のかごを持って、街に向かう。

「これよりランスを男爵邸まで連れて行く任務を行う。手紙は?」

「こちらに」

 どっちの封蝋かわからないけど、きちんとした封筒を渡される。開封して手紙の内容を確認する。お茶会という取り調べをされると書いてあった。

「わかったよ、行けばいいんでしょう。薬草だけはギルドに置いていくから」

「いいぜ」

 走り出して、風を使ってスピードを出す。かごが木にあたらないようにしながら、街に向かっていく。森を抜けて街道に出て街に入るために列に並ぶ。そんなに並んでいないから時間はそんなにかからないね。

「手紙は受け取られましたか?」

 横を見ると子爵の執事さんが横にいた。びっくりして反射的に手紙を突き出した。

「受け取られましたか、ではお返事を伺っても?」

「行きますけど、この薬草を薬師ギルドに置いてからです」

「結構です。子爵様の騎士達はどうされたのですか?」

「後からきます。ブラウンベアの肉を持っていますから」

「では、騎士達と一緒に男爵邸までお越しください。私は一足先に戻っておきます」

 そう言って門の向こう側へと消えていった。並んで待っている。そのうち、後ろからたくさん馬の闊歩する音が近づいてくる。振り返ると騎士のおっちゃん達だ。

「迎えの執事はどうしたんだ?」

「一足先に帰るって。騎士達と一緒に領主様のところに来るように言われた」

「そうか。一緒に行くぞ」

 騎士長の人は馬から下りると手綱を引く。

「お前達は先に行け。食べられる準備しておけよ?」

「わかってますって」

「俺たちにあまり肉は回ってこないからこういう中型魔獣でもない限り、子爵様達が食べてしまうからな。あと、ランスは貴族に呼ばれているんだから門番に確認してから並べ。優先して通してもらえるだろう。一緒に行くぞ」

 並んでいる列を横に前に進んでいく。門番のところまで来た。

「ご苦労様です。どうぞ、お通りください」

「ランスも一緒に通す」

「聞いています。どうぞ」

 証明の確認とかないの?顔を見ただけで通してしまう。腑に落ちない。がそのまま通り抜けて街の中に入っていく。通りを歩いて薬師ギルドに入る。

「フッセさん、これ預かって。これから領主様のところに行ってくるから」

「薬草?かご一杯じゃない。預かるのはいいけど、調合室に置いておいたら?ここだと間違って使うかも知れないわよ。はい、カギ」

 カギをもらって裏の調合室にかごを置いておく。弓とかも忘れずにおいておこう。あとは貴族のところに行くだけか。行きたくないんだけどな。一応、手紙での招待を受けているので、行かないと後が面倒になるんだろうな。

「招待にはちゃんと応えるんだな。そう面倒くさそうにするな。お嬢様のご機嫌取りでも頑張ってくれ」

 頑張れないよ、そんなこと。あのお嬢様、特に興味を持っているようでもなかったんだけど。何のために呼び出すんだろう。体が重いながらも領主様の館に歩いて行く。行きたくない。何度目かのため息が出る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る