貴族って面倒
夜に向けて買い物、予備のパンと串焼きを買う。串焼きがうまいんだ、タレがね。パンに挟むとちょうどよくて。
冒険者ギルドはいいけど、薬師ギルドに迷惑がかかるかな?パンの様子だけ見ておこう。調合室に入って、パンの生地を見ると膨らんでいないし、表面は硬くなっていた。失敗だ。困ったな、このまま焼いても硬いパンしか焼けない。いつもの硬いパンだよ。
「ランス君いる?」
「います。フッセさん、うまく膨らんでくれなくて。うまく練られなかったのかな?」
「それより、貴族の人の使いが来てるよ?何かしたの?」
「えっと、途中で帰ったかな」
苦虫を噛み潰したような、そんな面持ちだ。しかたなく、表通りに出る。薬師ギルドには迷惑をかけたくないからね。騎士達は殺気十分である。剣に手をかけている。
「その剣はさっきのよりも丈夫なのかな?」
「ミスリルの剣だ。鋼鉄の剣のようにはいかん」
「えっと、魔法、ん?違う魔力伝導率が高い金属、だったはず」
「よく知っているな。それで切れるのか?この剣を」
「えっと、そのミスリルと戦ったことがないし、切るだけなら他にも確実に切れる場所はあるように見えるけど。その鎧とかは鋼鉄以上の金属?鎧の継ぎ目の強さは鋼鉄の剣以上?そうじゃないと全身いつでもみじん切りになっちゃうよ?剣だけ残して防具が切れても文句は聞かないからね。忠告しとくよ」
馬車から執事と共に子爵の娘が降りてくる。
「待ちなさい。貴方は不敬罪になりたいの?」
騎士達は手にかけたまま、グレースはこちらを向く。
「どうして不敬罪になるの?」
「待っていなかったでしょう?」
「ちゃんと言ってくれた?僕が連れて行かれたのは報酬の受け取りだけのはず。それ以上はきちんとした依頼や招待を受けていないし、説明もされていないんだけど、騎士の剣を壊したのは謝るけど、愚痴たらたらで冗談で言っていたら、抜いてきたから殺されると思ってね」
「待つのが普通でしょう。わかるでしょう?」
「わからないよ。だって、村に帰ってきたの最近で、その前は森の奥で暮らしていて、気配に敏感なの。あと人との関わり合いは、そこに住んでたグリじい達の3人だけだったから貴族様の考えていることなんてわかるはずもない」
顔が真っ赤になっている。なんで?
「馬鹿にするのもいい加減にしなさい。私の言葉に従えばいいのよ」
「その言葉を言ってもらってないって。あと騎士が剣を抜いたから殺されると思って帰ったの。あと、騎士が剣を抜いた瞬間に関係者はここで死んでもらうから、気をつけてね」
「戦う気?」
「それでもいいよ。わかりやすくてね。どうする?」
ふわりと風を感じる。横を見るとウィットとズワルトが両サイドに出ていた。
「え、えど、どっから出したのよ」
「勝手に出てくるの」
「そんなことあるはずないでしょう?」
「今見えているのがわかるのなら正常だよ。騎士達はやる気をなくしたみたいだよ?」
お嬢様は後ろを振り返り、膝を折る騎士達を見た。幻獣って神に連なる高貴なものとして、神殿の像的なものと一緒らしい。顕現しているから像よりは上の扱い。膝を折り礼拝するのと同じく、幻獣を見たときは同じ行動をとる。貴族でも知っている人は知っているし、知らない人は知らない。説教を聞きに行く人は知っていてもおかしくない。村には神殿も神官もいないからそんなことは知らない。従魔を扱うためのスキルが、祝福後に現れるスキルであることを知らない。
「娘、ランスも年端もいかぬからこんな口げんかのようなことになるのじゃ。親しくないのだから人さらいのようなことをせず、貴族なら招待状の1つでも出して招待すればよかろう。他はそこのギルドで指名依頼などをすればよいであろう。そうすれば、ランスも大人しく従う。お主もいきなり連れられてはイヤであろう。手順を抜かしているのはお主らぞ」
「お嬢様が失礼をいたしました。何卒ご容赦、ご寛容に。あらためましてご招待をさせていただきますので、そのときは受けていただきますようにお願いいたします」
「それでよいか?」
「うん」
ふわりと風に溶けていなくなる。女の子、口が半開きのままなんだけど。大丈夫かな?
「騎士団長、戻りますよ。お嬢様、馬車にお乗りください。戻りまして、ご主人様と招待する相談をいたしましょう。お嬢様、気をしっかりとされてください」
お嬢様は呆けたまま馬車に乗せられ、領主の屋敷の方へと走って行った。心配になるぐらいには自分で動かなかった。ええと、幻獣はあまり表立ってやらない方がいいって言われていたんだけど、どうしよう。テイム登録も出来る年じゃないからしかたないんだけど。教会に目をつけられなければいいんだけどね。こんな公衆の面前でやっちゃうとどうにもならないよね。
『何を心配している』
『だって、いろんな人に見られていたから』
『見せる相手ぐらいは選んでおる。その辺の人間には見えておらぬから安心するがいい』
それなら大丈夫かな?貴族達が騒いだときは他の国に行くしかないかも。国から出ないと、この国の貴族からは逃げられないだろうしね。グリじいも貴族に追い回されるようなら、ツテを使って別の国に住めるようにしてくれるって。住む国を追われることはあんまりない方がいいみたいだけどね。
「失敗したパンについて聞かないと」
パンの知識不足かも。練って発酵させて。原因がわからないと次に作っても一緒だ。調合室に戻って、表面の乾いた生地をペシペシする。乾いた生地を小さな板にのせて、そっと表口から薬師ギルドの中に入っていく。忙しそうではないけど、どうしようかな。
「大丈夫だったの?貴族の人達は何ていってたの?」
見つかると心配そうに疑問を投げかけられる。
「1度戻って、招待か依頼をするって執事の人が言ってた」
「勝手に帰って、貴族の人達って偉いから不敬罪とかいわれたら殺されるかも知れないから気をつけてね」
「そのときはどうにか出来るようにする。不敬罪とは言われたんだけど、なんとかなった。それよりこのパン生地失敗したんだけど、どうしたらいい?」
「なんとかした??」
目線に生地を出してアピールする。焼くしかないかも。どうにかパンの種を救出できないだろうか?パンの効果はないようだ。困ったことにパンの答えは聞き出せない。
「どうやって?貴族様が引くとも思えない。一体どうやったの?」
「教えてもいいけど、他の人にしゃべれないように誓約をしてもらわないといけない。でないと僕は、この国を出ることになる。だから教えることは出来ないよ」
「それほどの秘密なの?他国の王族の庶子とか?」
「違うけど、とにかく誓約をした上で教えないと困るの。だから教えられない」
ダメ。いくらお世話になっている人だったとしても。絶対に誓約は必要だからしないと無理。これだけは譲れない。
「ねえねえ、教えてよ」
「誓約しない人には教えられない。不意に人が入ってくるような状態で出来るはずないよ」
「え~、たいした秘密じゃないんでしょう?」
「たいしたことないなら、誓約にしないよ。本当に無理だからね」
諦めてくれるといいんだけど、誓約しないと教えないならいいよね。
「ケチ」
少し拗ねながら、何かしている。だからといって、教えることは出来ないんだ。
「パンのこと教えてよ」
「ランス君が教えてくれないなら教えない」
ダメなら自分で考えるしかない。しかたなく調合室に戻る。表面を割って、見るとぷにぷにの部分が現れたから、乾燥していない部分をちょっと取り出しておく。他の部分は焼いてみよう。火をおこして焼いていく。うまくできないな。追加で何か買ってこよう。スープは材料がないから作れない、また串焼きかな。何かつけるものを、いや、パンをたくさん買って、薬草を採りに出かけよう。外なら空間倉庫から取り出せるから、楽なんだ。調合室も本来はポーションのための部屋だ。串焼きを片手に焼けたであろうパンを火から下ろしておく。ある程度冷めたところで串焼きと一緒に食べた。固い。
パンを焼くために作ったものを隅によせておく。教えてもらえないなら、しかたないか。薬師の道具は片道7日ぐらいかかるのなら、まだかかる。それにしても疲れた。練習して寝るか。
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