早く帰る

 どうぞどうぞと僕のことを無視しないで欲しいんだけど、領主様。騎士のおっちゃん達に囲まれて、部屋を移動させられる。廊下を見渡して逃げ道を探す。

「ランス、逃げようとしてもダメだぞ。うちのもんがそこの廊下に詰めているかな。こっちも仕事でやってるからな」

「こっちは仕事じゃないから逃げてもいいってことだよね?」

「マジックバック、もらうんだろう?」

「あれは冒険者ギルド長を倒した報酬でしょう?報酬だけでいいんだけど」

「マジックバックの報酬に含まれると思って諦めろ」

 ぜんぜん納得していないんだけど。逃げようとしているのがバレているのか。仕方なしに近くの部屋に通される。中にはきれいな金髪の女の子がいた。ドレスを着ている。そのドレスは洗濯が大変そうな、動きにくそうな感じがする。

「あなたが魔術師達を騒がせていた子なのね。あの魔法の使い方を見れば、騒いでいたのもわからなくないわね。それでどんな魔法が使えるの?出身は没落貴族、それとも」

「生活魔法しか使えません。出身はエンケ村です」

「4属性を感じたといっていたわよ?」

「生活魔法に4属性はあります」

 ふーんとあまり興味がなさそうな様子。興味がないのならもういいよね。おっさんをちらちらと見る。

「見せてもらっても?」

「はい」

 さっと出してさっと消す。目でわかるぐらいは出した。

「速すぎない?」

「先ほどそこの魔法使いにやり過ぎないように注意を受けました」

 魔法使いをにらんで僕に視線を戻す。そちらの人たちの要望を聞いているだけなんだけど。違うのかな?わからないのでいいか。

「貴方がどうやって、生活魔法でスキルの攻撃魔法のようなことが出来るのか知りたかったの。生活魔法なんて水を出したり、暖炉に火を付けたりしか取り柄のないものだと思っていたのに、ウインドカッターやアースフォールのようなことを平然とこなしていたじゃない。それに無詠唱でどうなっているの?まず、ハッサン説明なさい」

「この魔法は年を偽って、祝福を受けている可能性があります。無詠唱とは言いましても、距離も遠く、小声で詠唱をしていたのなら問題なく発動させることが出来ます。ですので1番に年を偽っているかと」

「鑑定することは出来るの?」

「冒険者ギルドでスキルや職を鑑定する水晶がございますので、それをお借りするのが最善かと。真偽の水晶で年齢が間違いないかを確認するのもお忘れなく」

「お父様に聞いてみるわ」

 まだ帰れないのかな。疲れてきたんだけど。帰るためにはどうすればいいのかな?目の前の女の子は腕を組んで部屋の外に出て行く。まだ、囲まれたままなんだけど。

「帰っちゃダメなの?」

「お嬢様の気が済むまで付き合うしかないな」

「無理に帰るとどうなるの?」

「また鬼ごっこだな」

「逃げていい?後日あらためてということで。いきなりだったから、それに報酬の受け取りだけのはずだよね?」

 マントの人は剣に手をかける。それに合わせて、周りの4人も僕の方に向かって剣に手をかける。あと待っていろとはいわれていない。

「あんまり手間をかけさせないでくれ」

「こっちは仕事ではないんだけど。正式な依頼をもらわないと付き合えない。契約も報酬も確認されてはいないんだけど?マジックバックはギルド長と戦ったときのだよね?」

「金をもっとよこせと?」

「それはギルドで稼ぐから、帰らせてくれる?疲れちゃって。ほら、偉い人といると疲れるでしょう?いきなり連れてこられるのはイヤだし、断っていたのを強引に連れてこられたから」

 マントの人は剣を抜く。周りの人も狭い中で剣を抜く。殺しかねない、そんな殺気を向けてくる。

「この距離なら気絶する前になんとかなるだろう」

 平然と立っているのを不審に思うのか、眉間にしわを寄せている。

「何かいいたいことがあるのか?」

 コトンと5本分の刃が床に刺さる。

「これが派手じゃない、実用的な方ね。防具も同じ素材なら、出来ることも一緒なのは普通わかるよね」

 騎士達は一歩引いた。正式な依頼であればちゃんとするが、強引に連れてこられたので、出来たスペースを歩いて、廊下に出る。出口に向かい普通に出て行く。隣の部屋からは話し声が聞こえるけど、疲れているので帰ろう。扉を開けて、門が閉まっているので裏口を通って帰って行く。

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