領主邸に連行

 ずっと囲まれたまま領主様の館に入る。なんでこうなったんだろう。ちゃんと断ったんだけど。

「ボルギ子爵、お連れいたしました」

「ご苦労」

 後ろにそのまま立っているんだけど。キョロキョロと周囲を見ながら逃げ道を探している。

「見事な試合であった。元A級の冒険者をなんとか退けたその力、素晴らしい。聞けば祝福も受けていないと聞いたのだが本当だろうか?」

 なんと答えればいいのだろうか?

「祝福はまだ受けていません」

「それは凄いことだ、将来は魔法の道に進むのかい?」

「いえ、いろいろと作れるようになりたいです」

「生産者にか、ではどのギルドに所属するのかね?」

「もう、所属しています」

 領主の執事さんがスッと前に出る。

「ランス殿は薬師ギルドに所属しており、ラント国薬師ギルドにおきまして、重点育成支援の認定を受けた、希有な才能の持ち主でございます」

「薬師ギルドは祝福後にしか所属できないと思っていたが?覚え違いか?」

「ほとんどのギルド員は祝福後に所属しますが、所属する条件はポーションが作れることでございます。スキルありならば、作成が可能であるため所属させます。スキルなしでは非常に難しいのですがローポーションが作成出来る場合は所属できます。ランス殿はローポーションを作成でき、しかも高品質だそうでライトポーションぐらいの効果が望めるそうでございます」

「おお、多才なのであったのか。ローポーションはよく使う物だから、助かるのではないか?サルエン男爵」

 やや細身の子爵がぽっちゃりの男爵に話しかける。

「ミドルポーションなどは作れんのかね?」

「出来ません。スキルがないと作れないのです」

「そうか、あの見せてくれた生活魔法だけでも十分にいいものであった。まだ祝福前であるのが惜しいところだ。それでもよくやったと褒めよう。何か望む褒美はあるか?」

「村との往復をするので荷物を運べる物が欲しいです」

 少し考え込む男爵。

「馬車や荷台と言うことか?」

「身につける物がよいです。馬の世話、それに御者が出来ません。荷台は自分で引くしかないので荷物を魔物に襲われると対応が遅れます。身につける範囲ならなんとか出来るのではないかと」

「リック、どのような物がよい?」

 執事さんが頭を下げる。少し思案する。

「そうでございますね、祝福前のランス殿が元A級の冒険者を倒したと言うことであれば、マジックバックぐらいの価値はございます」

「そ、それは厳しいのではないか?財政事情というものがあるだろう」

「では、護衛を含め生活魔法のみであのギルド長を倒せる者は?祝福前は戦闘系スキルが一切使えませんよ。その上で聞きます、領主様や子爵様を楽しませつつ、祝福前のスキルで倒せる者はいますか?」

 なんか、1人だけマントをつけた護衛のおっちゃんが出てくる。

「質問をしても?」

「はい、どうぞ」

「祝福前のスキルはどのようなものがあるのですか?それによっては戦えるのでは?」

「私が知っている範囲でお答えします。生活魔法、気配遮断、気配探知、探索、夜目、料理、掃除、畑作ぐらいですか。ただし、戦闘に関するスキル習得は聞いたことがありません」

「そのスキルであれば、俺には無理だな。あと、子爵様達を楽しませつつって言うのは一体?」

「言葉の通り、派手になるように戦っていただきました。一瞬で終わっては観戦していただく意味はございませんので」

 マントのおっちゃんはしばらく言葉の意味を理解するためかわからないけど、固まっていた。

「つまり手加減していて、まだまだ手の内は見せていないと?」

 執事さんに向かって子爵は厳しい視線を向ける。

「子爵様に楽しんでいただくためにお願いいたしました。今後、お金では見られないこの対戦は非常に貴重な体験であると存じます。対戦をさせること自体があり得ないのですから、これは代え難い余興なのです」

「ふむ、まあ、たしかに。このようなことを出来ると思うほうが馬鹿げている。気に入った。褒美としてマジックバックを与えよう。十二分にその価値はある。他の貴族では対戦すら実現できないであろう。それに祝福前の者が勝てるなどと誰が思うであろうか」

 なんか疲れてきたから、帰りたい。早く帰りたい。パンの様子が気になっている。

「それで一瞬で終わってはと申したな?つまり、すぐに終わらせる手段があると?それも含めて余興よのう?」

 執事さんがこちらを向いて目の力が凄い。悪いことは一切していないんだけどな。

「ランス殿、ご説明をお願いしても?」

「ここで出来るというのなら、では子爵様、少し濡れますがご協力をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「何をするのだ、危険なことは部下にさせる」

「少し濡れる程度です。危険はありません。手をお借りしても?あと腕を見えるようにお召し物をあげていただけますでしょうか」

 腕を上げたので子爵の執事が腕をあげる。

「やってみよ」

 手に水の塊をまとわせる。頭の大きさぐらいで手が動いても追従させる。

「これが殺さずにすぐに終わらせる方法です」

「これはただ、手に水がくっついているだけではないか?」

「ではその水が顔にあったとしたらどうでしょうか?手で振り払えないのです。逃げられないかと」

「ふむ、窒息してしまうな。このように生活魔法をコントロール出来るというのも聞いたことがない。これだけで十二分に面白いものよ」

 手を振って遊んでいるけど、スッと水を消失させる。子爵執事さんはどこからともなく布を取りだして、腕を拭いて袖を元に戻した。執事さん達はすごいな。

「なかなか面白いものを見せてもらった。ふむふむ、これをどうすれば防げる?」

 後ろに立っている護衛の人と近くにいる魔法使いに目配せをする。

「気合いで飛ばす」

「魔力で相殺ですね。見たところ魔法はそんなに難しくはないようですので。あと、気合いではどうにもなりません。これだから戦士系は」

 どちらも間違ってはいない。一時的に飛ばすだけならね。戦闘不能でいいなら火でもいいけどね。

「気合いで出来るものは出来るんだよ」

「魔力を使わないと出来るはずありません」

 言い争いをよそに早く帰りたいなと思っている。退屈しのぎに小さい塊の4属性を作り出す。大きさを変えずに魔力だけを込めるようにコントロールする。この大きさを変えずに魔力量だけを込めるのが難しい。油断するとはじけて大変だからね。はじける前に魔力をすぐに抜くのもうまくなっているから、爆発とかはない。爆発したら周囲はぶっ飛ぶ。一応注意しておこう。

「おいおい、何をやってるんだ?4属性を浮かべて」

「退屈しのぎに生活魔法の練習」

「なんかヤバい感じがするのは俺だけか?」

「そう?ただの生活魔法だよ?誰でも使えるしね」

 ふっと消す。いつになったら帰してもらえるんだろうか。

「攻撃魔法じゃないのか?尋常ではない魔力を込めていただろう」

「生活魔法だよ。その練習。火だって人に向ければ火傷して大変でしょう?スキルがないのに攻撃魔法とか使えない」

「攻撃も出来るだろう」

「攻撃も出来るってだけで、生活用に自由自在に使えることが目的なんだから。高魔力の4属性の塊を出すのは、その目的に沿っていないのかな?人に向けたくて練習しているわけじゃない。身を守るために練習しているんだから、そこに文句を言われてもこれしかないんだから、しかたないでしょう。他に身を守るスキルを覚えられるなら、そっちを覚えたいよ」

「しかしだな、魔力をあげすぎるのは敵対行為と見なされてもしかたないぞ」

「敵対しているんですか?」

 殺気を込めて魔法使いの目を見る。1歩後ろに下がる。

「すまんが坊主そのくらいにしてやってくれないか?魔法使いってのは殺気になれてないんだ。あと冒険者上がりでもないからよ」

「このくらいで下がるようじゃ、動物にも負けそう」

「坊主はポーション作り以外にも何かやっているのか?」

「採集と狩りもやるよ。魔獣はやらないけど、動物だけ。だから荷物を運ぶのが大変なんだ。空間魔法とか使えたら1番楽なんだろうけど」

「血抜きとか大変なんじゃないのか?」

「そこは生活魔法ですぐにやる。吊した方が本当はいいんだろうけど、血のニオイにつられてこられると面倒だから、速さ優先で解体する」

 なんだろうか、少し笑ったような。考え込むように口元を隠す。

「子爵様、男爵様、このランスを借りて獲物を捕ってこようと思うんですが構わないですか?」

 え?これから?昼は過ぎているんだけど、言われた2人も驚いている。今から行くのは厳しいんじゃないのかな。暗くなっちゃうと思うんだ。城門が閉まると困る。

「半日もないのに帰ってこられるのか?城門が閉まるぞ」

「馬で飛ばせばなんとかなりますよ。あとは狩り場次第」

 ドアのノックする音がする。

「グレースでございます。お父様はいらっしゃいますでしょうか?」

「どうした?街の中を見て回っていたのではないのか?」

「ただいま戻りました。それとあの方がいらっしゃったとお伺いいたしました。お引き合わせのお約束はお忘れではないですよね?」

「ああ、そうだった。もう少し待つのだ」

 返事があったので話し合いは終わったのだろう。子爵が話していたから家族だろうと思う。

「まずグレイの案は却下だ。サルエン男爵領で好き勝手は許さん」

「ボルギ子爵、日を改めて予定を立てましょう。今回は視察と静養が目的でありましたから、次は狩りなども出来るようにしておきましょう。他にも何かあるのでしたらその時にでもご連絡ください」

「男爵殿、配慮に感謝する。末娘故に甘やかして申し訳ない。この子と話をさせても?」

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