領主邸への誘い

「ここにいましたか。薬師ギルドか冒険者ギルドのどちらかだと予想していたので見つかってよかったです。昼食をお願いしたく参りました。よろしいでしょうか、ランス殿」

「お断りします。ご要望にもお応えしましたし、顔見せもしました。これ以上はご要望にお応えしかねます」

「ふむ、褒美をお与えになるとおっしゃっておりました。それではいけませんか?」

「一緒に昼食を取る理由がこちらにはありません」

「褒美のついでに多少の雑談をしていただければ、領主様も嬉しいのですが。いけませんか?」

 断られると思っていなかったのだろう。執事さんは考えている。首を振った。

「ギルド長お二方からも頼んでくれませんか?」

「うちは無理ですよ?F級で登録しかしていないのに領主様に出す理由がありません。ポーションを作っていて、その貢献に対して領主様が招かれるって段取りがあるならこっちも対応しますが、今回薬師は一切、進める理由がありません」

 デールさんは普通に断りを入れる。執事さんの目はソルに向かう。

「褒美は報酬ってことだろう?受け取りに行くべきだ」

「ギルドを通して受け取ります」

「そこはほら、貴族の方が直接くれるって言うんなら行くのが当たり前なんだ」

「冒険者ギルド長からの要望は受け付けません。僕を負かしてから頼んでください。そうしたのはギルド長ですよね?」

 勝負にしたのはギルド長であって僕ではない。ギルド長のルールで勝ったのだから妥協するつもりはない。

「指名依頼を出す」

「依頼書がないので受けませんし、内容を見てから判断します」

「なら」

 一瞬で距離を詰めるのを風の玉で、上方向に衝撃を与えるようにして宙に浮かせる。グハッと言うのを確認して水で顔を覆う。驚いて落ちた衝撃をまともに食らい、さらに空気を吸えなくなってもがいて気絶する。ここまでにしておいてあげよう。水の塊を解く。一応、手加減して衝撃を与える。水を吐き出しながら、息を吹き返す。

「負けるのがわかっているのに突っ込まないでください。次はそのままにしますよ?ギルド内なら誰か水を吐かせてくれるので大事には至らないですけどね。ギルド長が暴力で解決するなら、そうだ。ちょっとどこまで耐えられるか試してみましょう」

 話を聞いているのか聞いていないのかわからないけど、咳き込んでいるソルに風で圧力をかけていく。こういう繊細なコントロールは生活魔法以外では難しかったりする。押しつけるだけの風量がギルド内を吹き荒れる。

「すげえな、ランス」

「暴力で解決するならこちらも力で対抗するまでです」

 立とうとするが風の圧力に負けて立てない。さらに圧力を上げていく。床きしみをあげて音を大きくしていく。まだ足りないかな?圧力を上げていく。

「ランス、動かないんだが大丈夫か?」

「1度止めてみます」

 ピタリと風を止めるとぐったりしたソルが動かずにいた。生きているのだろうか?近寄って、息を確かめると息はしている。また気絶しているだけだ。

「気絶しているだけですね。ということでギルド長は暴力に訴えてきたので拒否します。僕はこのギルドの解決方法に従いました。執事さん、結果はこの通りです。冒険者の暴力のことも謝ってもらっていませんし、この力で解決する方法は僕の好みではありませんが、このギルドが提示した条件であると認識しております。ですので、申し訳ありませんがお断りさせていただきます。指名依頼も同様に拒否します。今のこの冒険者ギルドからの依頼は受けません」

 執事さんにそう宣言して、外に出て行く。ちゃんとした馬車が止まっているので、避けて3人共薬師ギルドに向かう。なんでか、方向転換して後ろをついてくる。馬車についてこられる理由はないんだけど。

「このままご飯買いに行ってくる~」

 そういって商店に寄りながらパンと串焼きを買う。調理道具がないからスープの材料とかは買えない。パンと串焼きは美味しく温めればすぐに食べられるからとてもいい。なので持って歩いても苦ではない。地理に詳しくはないけど、商店の間にある人が通れるほどの道に入っていく。走ってなるべくまっすぐに進んでいく。どこまで行けるかわからないけど、壁に当たればいい。入り組んでいるのでどちらに行けばいいのか迷うけど、止まっている暇もなく、とりあえず走って行く。走っているとガシャンガシャンと金属がすれるような音が聞こえる。なんで騎士や衛兵達まで投入して探されているんだ。屋根の上も逃げ道として考えておこう。どうして追いかけっこが始まるんだよ。気配をなるべく悟らないようにする。スキルは表示していたから情報は漏れていると思って、索敵系のスキルには見つかるだろうけど、頑張って逃げよう。なぜ貴族に会わないといけないの?

「いたぞ、囲め」

 衛兵に見つかって空いているほうの道に行くしかない。捕まってもいいか、屋根は登らないでおこう。走って、逃げていく。悪いことはしていないのに。道を曲がると騎士の人がいて、後ろからは追いかけられた衛兵が。ああ、捕まっちゃったか。

「すまないが一緒に来てもらう。手荒なまねをすると手ひどい目に遭いそうだ。だからといってこちらも仕事だから逃すわけにもいかないものでね。ご同行願うよ」

 周りを囲まれて逃げられない。逃げ道はあるんだけど。

「頼むからついてきて欲しい。あの対戦を観戦したのなら敵対したいと思わない。うちの騎士達もぞっとしていたよ。追いかけ回したのは悪かったが、どうしても子爵様が話をしてみたいそうなのでね」

 大人しく囲まれながら歩いて行く。貴族とはあまり関わり合いになりたくないんだけどな。しかたがないからパンと串焼きを食べながらついて行く。大通りに出ると更に人が増えて厳重に囲まれる。前が見えないんだけど。これって一体どうなるんだろう?練り歩くように領主様の館のほうに向かっている。しかたなく歩いて行くしかない。

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