パンを作ろう

 朝が来て目を覚ます。起きてから誰か来るまでに練習をしておこうと思って、4属性を浮かべて維持する。今日は精算とパン作りだね。やっとパンが作れる。うれしい。パンの種があるかどうかで柔らかさは全然違うよね。フッセさんにもらったパンはとても柔らかくおいしかった。意気込みながら待っていた。あわ、ちょっと乱れた。集中集中。

「ランス君、いる?」

「いるよ」

 暇な時間つぶしは終わる。

「今日は用事あるの?」

「あるよ。昨日の依頼の精算とそう、パンの種ありがとう。今日はパンを作る予定でいるよ。木の板を取りにいって、小麦をひいて生地をこねる。寝かせてパンを焼く。そんな予定」

「昨日領主様の執事さんが探していたのよ。街の中を探していたのにぜんぜん見つからなかったって」

「昨日は冒険者ギルドでソルさんの家の草刈りする依頼を受けて夕飯を食べて帰ってきたよ」

 顔がひきつっているよ。大丈夫かな?

「夕飯をどこで食べたの?」

「ソルさんの家の中」

「ひっ。あの誰も近づかないゴミ溜めって有名なんだよ。よく平気ね。体が悪くなってない?」

「掃除したからもう腐臭と獣臭はなくなってるよ。どのくらい持つのかは知らないけど。ヘルセさんも来たから、そうだ思い出した、昨日の片づけをささっとしてこないと」

「どのくらいで帰ってくる?」

「昼前には必ず、パンを作りに」

 そういって飛び出すと、1番近いギルド長の家に向かう。

「どうしたんだランス?」

「湯浴みの片づけをしに。崩れる前に。強度がないから危ないんです」

「え?ちょっと待て」

「急いでいるので」

 そういって、ソルの家に向かう。崩れていないし、水はそのままかな?中とかを確認して、生き物や人がいないかをチェックする、いないのでそのまま地面に戻す。草もちゃんと刈って広いな。そんなことはいいので、冒険者ギルドに急ぎ、精算を終わらせる。絡んでくる人はいない。大銅貨5枚だった。普通にすればあの背の高い草は手強いもんね。そのまま外に向かうと、門番に止められた。

「ランスだよな?」

「そうだよ」

「外になんの用があるんだ?」

「パンを作るために板がいる。その板を作るから木を取りに」

「遠くまで行くのか?」

「切っていい木がある場所ってどこ?そこの木で良いならすぐそこだし、向こうの山まで行かないといけないなら行くしかないけど」

 門番は悩んで責任者の人を呼ぶ。

「木が欲しいらしいんですが、この辺りの木は領主様の許可がないといかんでしょう?そうなると向こうの山まで行かねえとダメじゃないんでしょうか?」

「どんなのが欲しいかだ。まるまる木だったらこの辺じゃあ無理だが、薪ぐらいなら分けてやれる。どんなのが欲しいんだ?」

 責任者の人は検査をしたあの人だ。

「パンを作るための板。小麦粉こねるための」

 ふむといって、引っ込んでいく。すぐに戻ってくる。出て行くのを止められているのは僕だけなので入場の人たちからすごく見られている。

「そこの辺の木を切っていい。許可はもらった。板をとったあとの木は薪にするから引き渡してくれればいい。ただし、我々の目の届く範囲で。板を作れたらそのまま薬師ギルドに戻る、それならそこの木でいい」

 ありがとうと言って、近くの木を切り倒して中心をすぱんと切り出した。切りだした板を門に立てかけて、残った木を薪ぐらいの大きさにわけていく。それを門番のところに持っていって、往復して積み上げる。全部終わったら、門番の人にありがとうといって板を持って薬師ギルドの調合室に戻っていった。どっかで時間がかかると思ったけど、よかった。これでパンを作れるぞ。調合室で小麦を挽いて粉にする。粉を集めて、水を加えつつ練っていく。少ないって思うぐらいで粉と水を混ぜていく。最初は手にすごくついてしまうけど、粉をうまくこねられて生地にしてしまうと手には最初の残りのような物がついたままだ。1度手を洗う。パンの種を混ぜ込んで寝かせる。やっぱり手につくな。うまく練れる魔法を考えないと。力が弱いからうまく練れてないかもしれない。

 板の上に丸くして形を整えて、とりあえず置いておく。このままでいいのかな?バターがいるとかなんとか聞いたような。牛の乳から作るやつだ。塩とかも入れた方がいいと聞いたけど、砂糖は高いから入れれない。どうしよう。こねられてないとパンにならないかもしれない。失敗したかも。うまくこねるための魔法を開発しないと。土の魔法の要領でこねてみる?でも、圧縮で土を堅くするとか、形を変えるのは出来るのだけど、それでいいのかという疑問は残る。土でこねる。力を加えるってことは圧縮?土とは違って弱くしないといけないと思うけど。

「ランス君、帰ってきてる?」

「いるよ」

 フッセさんが心配そうに様子を見に来る。

「パンの種から作ってみたけど、こねるのが足りないかな?」

「バターは入れた?」

 首を振る。生地をじっと見つめる。

「バターがあった方が失敗が少なくなるから余裕があったら買っておくといいわよ。失敗しても次はバターや塩なんかを入れてやってみたら?生地を作るのは出来ているようだし、材料が揃えばおいしいパンが作れるはずよ。ギルド長が呼んでいるから表から入って」

 生地をそのままにして、鍵をかけるとギルドの入り口からはいる。今日はお客さんがいるようだ。イスに座っている。

「来たかランス。ビーカーや調薬用の値段がわかったから伝えておく。金貨3枚だ。新品なら金貨10枚はするんだ。そんなに驚くなよ。これでも安くていい物を見繕ったんだ。ポーションを作りながら返してくれればいいから、そんな死にそうな顔をするな。もしかして払わないとご飯が食べられないとか思っているのか?余裕があったら支払う。それでいい。一応、重点育成認定だから、ポーションの売上代金のギルド取り分からも返済に充てられるから普通よりも早く返せるはずだ。だから頑張ってポーションを作ってくれよ」

「うん、がんばるよ。どのくらい作らないといけないのか見当もつかないけど」

「生活魔法のレベルが高いらしいな?出来ればでいいんだが、水を補給してほしいんだ。毎日井戸に汲みに行くのが割と大変でな。こっちに来てくれ」

 受付横の出入り口を開けられて中にはいる。書類やら薬草に薬用の小さい壷がある。そこからさらに中に入ると、外からの出入り口に火を起こすところと水瓶がある。

「この水瓶の中を替えればいいの?」

「そうだ。俺もフッセも魔力は多くなくて、この水瓶をいっぱいにすると日常生活に支障がでてな。頼めるか?」

「そのくらいならいいよ」

 裏口を開けて水を出して、水瓶に水を満たす。

「すごいな。ちょっと品質だけ見せてくれ」

 水をすくって何やら溶かしている。それを何度か繰り返している。何をしているんだろうか?

「ポーションにも十分使える水だな。最高品質だ。魔法で作る水でも浄水を必要とする場合があるんだが、ランスだと安心だな。生活魔法のレベル持ちの水はそのまま使えていいんだ。レベルを持っていないとムラがあって、ポーションに使えるか毎回調べないといけないんだ。井戸水だと蒸留は必要だしな。今はランスしか所属していないから水の用意まではいらないか。薬だけなら井戸水で十分なんだがな」

「じゃあ、薬師ギルドには生活魔法レベルの高い人はいるの?」

「ランスほどの高レベルは聞いたことがない。高品質な水がポーションに必要だから2、3ぐらいあれば十分。出来れば、見せてくれると本部にも聞きやすいんだが。確認させてもらってもいいか?そのかわりに総本部まで聞けるようにする」

「確認ぐらいはいいよ。水晶はあるの?」

「冒険者ギルドで借りるか。フッセ、ランスのスキル確認に行くから後を頼む」

 薬を作っていたフッセさんの手が止まる。

「私も見てみたいです。そんな高レベルを見せてもらえるなんて、ないじゃないですか」

「あー、その気持ちは分かるが、ほら、お客さんも待っているし、閉めるわけにも」

「外出中にすればいいじゃないですか。2人しか職員がいないんだから」

「そ、そうだな。薬は時間がかかるじゃないのか?」

 待っててくださいとフッセさんは薬を作るスピードを上げていく。5本分の壷を作って蓋をして封をつける。それを待っていたおばあちゃんに渡していた。

「お待たせしました。さあ、行きましょう、冒険者ギルドへ」

 1番わくわくしているのはフッセさんだ。

「ランスはいいのか?確認も断ってもいいんだぞ。フッセに見せるのも」

「冒険者ギルドの人も知っているからこちらが知っていてもいいよ」

「そういってくれるなら、フッセも連れて行こう。行けなかったら拗ねそうだ」

「フッセさんが拗ねたところが想像できない」

 おまえは知らない方がいいと真剣に言われて、でもと言った瞬間に背中に悪寒が走った。振り返るとフッセさんが後ろに立っていた。

「行きましょうか、2人とも」

 有無も言わせぬ雰囲気をまとわせて、ギルド長とアイコンタクト。頷きあう。今は話題にふれず逆らわず。後ろについて歩いていく。

「高レベルスキルをみられるなんて、今日はいい日ね」

「よかったね、フッセさん」

「そうよ、高レベルスキルのステータスを見せてくれる人なんて、普通はいないんだから」

 普通はそうだよね。封印で見えなくしているのは絶対の秘密だ。まだ祝福まで2年あるから本来の力はまだまだ使えない。ソルにも勝てることがわかったから、とりあえずは大丈夫なのかな。反撃していいなら。

 冒険者ギルドに3人ではいる。珍しくソルがいない。

「ヘルセ、スキルを見る水晶を貸してくれないか?」

「持ち出しは禁止です」

「言い間違えた、ランスのスキルを確認させてくれ。他に生活魔法のレベルの高い者がいないか聞きたいからな」

 ヘルセさんはめがねをかけ直す。

「薬師ギルドは生活レベルが高い方がいらっしゃるのですか?冒険者は使えればいいという感覚ですので」

「冒険者は使わないから低いだろうが2、3は普通に国に数人はいるぞ。ポーションに使う水を生成するのにレベル2は欲しいからな。確認を取ってから国の本部から総本部に流して薬師ギルドで確認してもらう。最低でも総本部に確認はいく。うちは職がなくてもスキルで十分やっていけるからな。将来スキルは発生するはずだから今から高待遇だ」

「発生しない場合は?」

「それはない。ローポーションをスキルなしで作れるなら確実に発生する。このまま作り続ければレベル付きもありえる。うちでもそういうことはギルドとして共有しているからな」

「そうですか。できれば生活魔法の高レベルの方とお話が出来るとうれしいのですが。冒険者ギルドではギルド長に3レベルがいるだけなので、ソルの戦闘のようなことが行えるのかどうか確認がしたいのです」

「戦闘で使えるのかってことでいいのか?一緒に聞いとくよ。ギルド員を直接、別のギルドの要望で動かすなら依頼書を回すんだな。うちは高いぞ?」

「では、一緒にお願いします。こちらへどうぞ。お2人は付き添いということで」

 2階の鍵付きの個室のような場所に通される。ヘルセさんは一緒に入って水晶に魔力を通している。専用の呪文かな。何やらつぶやいている。

「では、手を置いてください」

 昨日と同じように手を置く。精神耐性Lv.8肉体耐性Lv.8生活魔法Lv.7気配遮断、夜目、探索と同じように表示される。

「ええっと、戦闘系のスキルはぜんぜんさっぱりなんだが、この耐性っていうのは何だ?やたらと高いんだが」

「そうですね、精神耐性は貴族の方でも3ぐらいはあったりします。精神的な攻撃に強いということです。肉体耐性はソルが持っていますが、傷つけられても耐えられるということですね。このレベルですとおそらく、ひどい拷問を受けて耐えうることが出来るでしょう。気配遮断は狩人や斥候が敵に気づかれにくくするスキルです。夜目は夜でも見えるスキルです。探索では動物や魔物の位置を把握することが出来ます。生活魔法は高レベルの人がいないのでなんとも。冒険者のスキルは機密事項ですので情報が少ないんです。公表している人ならいいんですけど」

 確認がきちんと終わったので帰ることにする。今日は用事がないから別にいいんだけど。下に降りるとソルと領主様の執事さんがいた。

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