ソルの家

「食材は家にありますか?あるのならそれを使えば」

「いつも買っている。帰りに好きな物を選ぶといいよ。私はいつものにするから」

 受付をちらっとみると悲しそうな目を向けられている。開き直ろう。ここでうじうじ考えても解決しないなら行くしかない。

「行きましょう。どうなっているのかわからないですけど。草刈りに行くんですからね。そんな嬉しそうにしてもダメですよ。それ以上はしませんからね。わかりましたか?」

 大きくうなずいて、ギルドを出て行く。うきうきした鼻歌が横から聞こえてくる。何が嬉しいんだろう?ギルド長はパン屋にはいると固めのパンを2本買った。

「これはランスの分だ」

 バゲットを渡される。それを持ったまま次の店に向かう。肉屋で塊の肉を買う。焼いて食べるのだろうか?

「よし、夕食は買ったな」

「ちょっと待ってください。朝食は買わないんですか?あと他に買わないんですか?」

「これでいい。朝はギルドにいく途中で買う」

「僕も選んで良いですか?」

 いいというので、野菜と少量の干し肉を買う。こっそり、塩も混ぜておく。さっきも来た道を歩いて家の前まで来た。鍵を開けて中にはいる。何ともいえない、獣のような腐臭のような、不快なにおいが混じってにおう。クリーンではどうにもならないタイプだ。においの元まで絶てるわけではないから、普通の掃除からしないと僕が持たない。

「僕が依頼をする間、荷物を持って待っていてください」

 荷物を押しつけて、外に出て深呼吸。風の刃で草を薙払う。一瞬戻り、柵や塀はあるのかと聞くと、隣まで距離があるからないと返事をもらったので、地面すれすれに風の刃をはわせて一気に刈っていく。それを風で集め、土の囲いを作って火で炭に変える。それを囲いごと土に戻す。終わったあとは結構広いんだなって印象。隣の家までは草と木であまり見えない。ギルド長を外に出るようにいう。

「これでいいですか?」

「お、すごいなランス。十分だ」

「では、そのまま外にいてください」

「なんでだ?」

「家を掃除するんですよ。夕食を食べられるようにね。こんなところで食べたくないんです」

 あはははと乾いた声で、家の中に突入すると開けられる窓を開け放つ。布団を持ち上げると何や落ちたが気にしたら負けだ。土の上に放り出す。

「ちょっと、待って、ゴミじゃないんだから捨てないでよ」

 服やら調理道具と思われる物をどんどんと出していく。

「おい、いうことを聞けよ」

 荷物を持って両手が塞がっているので、どうにも出来ないようだった。邪魔にならなくてちょうどよかった。ある程度の物を出したら風で埃を集約して、一緒に外に出すと火で燃やす。虫もいたが気にしない。ドアから家の中を水で撫でるようにしてから温風で乾かす。家の中はこれでいいか。外の布団から温水で洗濯。水が真っ黒になった。ヤバい。思わず鳥肌が立つ。何度か繰り返して、温風でふっかふかになったのを触って確かめた。布団は元のベットに戻して、服類を同じようにして洗濯乾燥。こっちは人肌よりやや高めぐらいで乾燥させる。時間がかかるので乾燥になったら、調理道具の清掃をする。焦げたあととか、どうにもならないけど、水で鉄が耐えられる圧にして飛ばすぐらいはしておく。出来たかな。服も乾いていたので、家の中に戻してクリーンをかける。

「いいですよ。掃除は出来たはずです」

 ソルさんとは距離を取っている。布団の上に洗濯した服を折り畳んだ状態で重ねていく。結構持っているので時間がかかる。服って高いんだけど、お金は持っているんだね。

「家だと思えないぐらい綺麗になったよ。食材は机の上に置いておく。それとなんで距離をとろうとするのかな?」

「いえ、気にしないでください。出来れば遠くにいてください。お願いします。狩りは鼻が利かなくなったら出来なくなるので、ほんとに!ホントに近づいたら家ごと燃やしますよ?」

 話の途中で近づこうとしたので、語気を強めて警告する。

「どうしろって?着替えればいいのか?」

「それだけでは、体を拭くか湯浴みかしないで近づかないでください」

 すでに脱ぎ始めている、しかたない。外に簡易の湯船を作ってお湯を入れる。湯加減を確かめるといい感じだ。鼻を押さえて指をさす。

「これはいいな。入らせてもらうよ」

 引き締まった後ろ姿を見ながら、恥ずかしいとかないのかとふと思った。周囲は目隠しとかないんだけど。隣の家は木や草やらで見えないけど、僕には丸見えだ。ため息をついて中に脱ぎ捨てられた服を洗って、乾かす行程に入ったらスープ作りを開始する。鍋に水を入れて、ナイフで野菜を切りつつ薪がないので火を自分で調整しながら煮込んでいく。肉を勝手に入れて、一緒に煮込みつつ干し肉で塩味を足しつつ味を見ながら作っていく。いい感じだね、野菜たっぷりスープ。葉っぱで中が見えない。いろいろ食べよう。十分以上に働いたんだ。このくらいのご褒美はあってもおかしくない。

「ソル、こんな、何やってるのよ。誰かに見られたら、嫁入り前なんだから隠しなさいよ」

「ヘルセも入ろうよ。気持ちいいぞ」

「こんな目隠しもない場所で入れる訳ないでしょう。着替えはどうするのよ。今日着ていたのが1番マシなんでしょう?」

「洗濯してもらった。クサイのダメなんだってさ。近づくなっていうから。でも、気持ちがいいからいいや」

 外から聞いてはいけないような会話が聞こえるけど、僕は聞こえていないことにしよう。具だくさんの野菜スープを完成させる。しかたなく、タオルと着替えを持って外に出る。縁から顔を出して、手を振られるが眉間にしわがよる。

「お湯はどうですか?」

「いい加減だよ」

「そうではなく、どのくらい汚れたのかなと」

 近づこうとすると荷物を持ったヘルセさんに止められる。

「ランス君、女性の裸をのぞくのはいけないことなのよ。普通の人だったら辱められたととられてもおかしくないの。恥ずかしがるの。わかった?」

「はい。堂々と服を脱ぎ出す、ギルド長がおかしいということですね」

「そう。羞恥心を冒険者時代にダンジョンに忘れて来ちゃったから、ソルを決して基準にしてはいけないわよ」

「わかりました。それならお湯の汚れ具合を見てもらえませんか?ひどい汚れだと思うので」

 ヘルセさんは湯船をのぞき込むとめがねが曇ったようだ。拭いてからもう1度みる。

「だいぶ汚れてたわ」

 その言葉を聞いて、お湯をその辺に捨てて、入れ替える。寒いという暇は与えない。

「綺麗になりましたか?」

「え、あ、うん。私も入りたいけど、こんな仕切りもない場所では入れないわよ。ソルだけずるい。ねえ、ランス君壁とか作れる?」

 家の方向に出入り口を作って土の壁を作る。上は開けっ放しだけど。

「替えの服を持ってきてないけど、帰るまではこれでいいかな」

「ランス、洗濯してやってくれよ」

「入ったら教えてください」

 中からタオルを取ってきて、浸かるまで待つ。浸かると顔しか見えないからね。

「入ったぞ」

 入り口から中に入って、タオルを置きその場で温水洗濯と乾燥をする。熱いと縮む服もあるからあまり温度が高くならないように気をつける。さわって乾いたのを確認すると簡単に畳んでタオルの上に置いて、家の中に入って食事まで待つ。とんだ草刈りになった。スープを飲みながら待つことにする。お腹が空いて困る。肉でも焼いていよう。鉄板の上に肉と適当に切って焼いていく。肉は味付けをどうするんだろうか?こっそり、買い物に混ぜた塩をふっておく。そのままでも、悪くないよ、だけどね。味気ない気がするのは僕だけだろうか?

「いい匂いがするから出てきたよ。いい肉のにおいがする。さあ、食べよう」

「待ってください。火をちゃんと通して、ヘルセさんは待たなくていいんですか?」

「湯浴みとかなかなか出来ないから、長くなるんじゃないのか?私ですら長かったからな」

「どうするか聞いてきてください。なんなら食事が終わったあとにお湯を入れ替えても良いですから」

 わかったと外に出るとしばらくして、白い肌を赤くしたヘルセさんが家の中に。

「えっと、家を買い換えたのかしら?」

「見てくれよ、ベットがふかふかなんだよ?明日は寝過ぎて寝坊するかもしれない」

 ベットを叩きながらいわないで、スープを温めなおして、焼きたての肉を分ける。抱えた荷物からバゲットを貰い受けて3本を熱風で温める。熱いので気をつけてと渡す。

「あっち」

「だから熱いといったじゃないですか」

 スープを飲んでから温かいバゲットをちぎって口に入れる。フォークで肉をさして食べていく。2人分のつもりだったけど、僕の買い物の分が余計だから量は十分あるはず。一通り食べ終わったあと軽く水洗いして、クリーンで綺麗にしておく。ムダだとは思うけど。

「サインをください」

「そうだよ、忘れていた」

 依頼書にサインをもらう。よし、これでいい。

「どこに行くんだよ?」

「お湯を替えに。ヘルセさんがまた浸かるのでしょう?」

「そういえば」

 外に出てから簡易お風呂のお湯を捨てて新しいのを入れる。湯船は明日つぶしにこよう。たぶん、そんなに保たない。堅いだけの土だから、実際のところ数時間保てばいいと思っている。家に戻るとヘルセさんが入れ違いで外に出て行った。

「それでは帰ります」

「ちょちょっと待ってくれよ。ヘルセがなんか持ってきているから湯浴みが終わるまで待って」

「いえ、依頼は終わりました。一緒に食事をするという依頼者の要望にも応えましたし、それ以上は依頼を再度お願いします。それでは」

 待ってくれという言葉を無視して外に出て、帰って行く。今日は結構大変だったな。暗くなった道を歩いて調合室に戻る。そんなに時間をかけずに終わるはずだったのに、あの中でご飯とか信じられない。絶対に鼻がきかなくなっておかしくなる。調合室に戻ると、臼の上に小さい木の容器が置いてあって、小麦粉の塊があった。パンの種だよね?だよね?

 鑑定をかけるとパン種と表示されたのでやったーと小さく声に出てしまう。明日は板を作りに外に出よう。パンを作るんだ。えへへ。柔らかいパン。そう思いながらその日は眠りについた。


「帰っちまったな。うまく使えないな。ランスが使い走りとしていうことを聞かせられれば、よかったんだけどな。かわいげがない。この肉もらい」

 焼かれた肉にかぶりつく。

「そろそろそういうのやめなさいよ。ランス君を小間使いのように思うのを。無理だから普通に接したら?次はないかもしれないわよ?」

「やれるわけない」

 ヘルセはため息をつく。実力差はハッキリしているのに認められないなんて、頑固なのもここまで来ると意固地になっているとしか思えないわね。時間がたてば考えも変わるでしょう。

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