対決が終わった日
目を覚ますと床や土の上ではなく、フカフカの中にいた。この感じは布団だ。ふふふ。気持ちがいい。もうちょっと寝ていよう。だけど、どういう状態なのかがわからないから目を開けるとフッラさんと目が合った。
「ええと、どうなったんですか?勝ったのまでは覚えているのですが」
「本当に、運ばれたときは死んだのかと思ってヒヤヒヤしたわ。本当に死にかけていたのよ。わかっているの?無茶して死にかけるとか、やめてよね。一命を取り留めて、領主様も子爵様も心配なされていたけど、胸をなで下ろされていたわ。冒険者ギルド長も気絶していただけだから、今回はけがをしたのはランス君だけね。骨折も傷も治してもらっているわ。決闘で負けたギルド長持ちでね。冒険者ギルドの負傷者療養用ベットを借りているから、起きたなら行きましょう」
「ふかふかベット」
布団に埋もれる幸せが終わったのが名残惜しくて何度も見返しながら外に出る。階段を降りてフッラさんの後ろについていく。
「目が覚めたのか、ランス。ちょっと待て」
ソルに呼び止められる。見上げるとじっと見られる。
「どうして大剣で切れなかった?足が滑ったのがわかったから殺すつもりで振り抜いた。避けられなかったはずだ。普通なら死んでいて当然の中でどうやって生き残った?」
「殺すつもりだったんでしょう?死んだと思って忘れて」
「お前は生きてる。ふざけるな」
「見ていた人に聞いてよ。こっちは必死だったんだから覚えてない」
腕を組んで何かを考えている。ベッドで寝られないならこっちのギルドに用事はない。フッセさんの横からすり抜けて、ギルドから出ていくちょっと手前で、肩を掴まれる。
「デールに聞いたが、執事に派手にやってくれと頼まれそうじゃないか。それに合わせて見た目が派手そうな魔法を使っていただろう?」
「生活魔法だから誰でも出来るよ。やらないだけでね」
「領主や子爵の魔法使いとうちのヘルセに確認したら出来ないと断言した。ランス、ウソをついているんじゃないのか?」
「それはやろうと努力と練習をしていないだけ。生活魔法で生き抜くためにどうすればいいか、どう使えばいいか、どう制御すればいいか。祝福を受けたならスキルをあげたり習得したりするよね?つまり、考えたり練習したりしていない人に出来ないって言われても、ギルド長が大剣振り回せるのウソだって言ってるのと同じだよ。その人達は、他のスキルと同じように努力を練習をしたの?」
「ヘルセ、そういうことはしたのか?」
自分ではわからないと思ったのか振り向いて聞く。
「生活魔法を練習している人を魔法使いの間では聞いたことがないわ。私自身も火をおこしたり、水を出したりするぐらいで、そんなに重要視したことがないわね」
「お湯も出せないの?」
「ええ、温度調整の火ぐらいね」
「なら出来ないといえるの?断言したといわれたけど」
「だいたい、高位の魔法使いぐらいしか複合生活魔法を使えないから私が使えるとは思ってないのよ」
「使えないのに使える僕を無理だって言えるの?断言したんだよね?使える魔法使いに確認した?出来ない人に聞いてもそこまで達してないのに判断すら出来ないよね?」
「でも、まだ祝福前だし。スキルも発生してないのよね?」
「祝福前でも発生するスキルはあるはずだけど?知らない?」
ソルとヘルセは首を振った。
「じゃあ、2人は自分たちのために調べることをお勧めして、僕は薬師ギルドにお世話になるからそれじゃあ」
ウソだなんて、ちゃんと練習して努力してここまで操れるようになったんだ。生活魔法をきちんと扱えれば、他の魔法を使うときの威力や制御がしやすくなる。そのために練習を続けなさいとグリじいに言われているんだ。負けた人の戯れ言に耳を貸す必要はない。
「ねえ、ランス君」
「なに?」
「怒ってない?目の前で使ってたのに何で疑っていたんだろうね。まあまあ、それとお金返しておくね。全然使わなかったから」
大銅貨8枚を渡される。2枚で済んだのかな?
「言っとくけど、肉が高いだけだからね。パンは家のだし、スープの材料ぐらいだったから」
「パン、フッセさんの。パン。パンの種、売ってください。これで足りる?村に帰ったら自分で作るから。欲しいの」
大銅貨を渡して、フッセさんにお願いしてみる。
「そういうときは可愛いんだけどね。パンの種ぐらいは分けてあげるよ。お金は大事に取っときなさい。自分で生活するんでしょう?」
「え、本当?やった~」
小麦の塊パンから柔らかパンに昇格だ。硬くないのを作れるのは嬉しい。小麦粉を出せないのはまずい。作れないぞ。買う?しかたない、買おう。
「この辺りで勝手に石をとってもいい場所ってあるの?」
「外に出れば取っていいはずだけど。門番に聞いてみたら?石壁だったらいけないしね」
「そうする。今日は何か買って調合室で休む。どうしてだろう?体がだるい」
「大けがしていたんだから、当然ね。今日は休んで、明日からにしなさいよ。戦いで消耗しているんだから療養するの、わかった?」
「う、うん」
薬師ギルドの前でご飯を買いに別れて、やっと串焼きを買った。タレが濃くて美味しい。他はパン屋で茶色いパンを買って、あとは串焼きをまた買って帰った。調合室で買った物を置いて壁にもたれかかる。ギイと音を立てて受け止めた。なんか疲れて眠りについてしまう。
「ここにいるのかしら?フッセに聞いたんだから間違いないわよね」
ドアが開く。風の流れが変わった。
「寝ているのね。弓を使うの、それとパンと串焼き。ずいぶん軽装だけど、キャンプとかはしないのかしら?」
目を開けて、声のする方をむくとランプを持った、冒険者ギルドのヘルセさんがいた。あとソルも。
「何か用?」
「昼のことでね。スキルがあるかどうか見せて欲しいの。スキルのことは誰にも話さないし、祝福前にもスキルがあるっていうのはあるようね。祝福前に鑑定をしないからわからないだけで、生活魔法は子どもでも使っている子はいるしね」
「別にいいけど」
水晶を取り出しておくと、呪文を唱える。職とかスキルを見るための水晶だね。嘘を判別する水晶は違うものだ。
「それっていつ使うものなの?」
「冒険者が自分のスキルを確認するときとかに使うわ。あとは希だけど職が変わったときに見るわね」
「そうなんだ」
水晶には文字が表示される。職は空欄。スキル、精神耐性Lv.8肉体耐性Lv.8生活魔法Lv.7気配遮断、夜目、探索と表示されていた。
「え?ソル、肉体耐性いくつだったっけ?確かLv.5だったと思ったけど。ランス君、8あるんだけど。どういうこと?」
「表示の通りじゃないの?」
「虐待を受けていたの?その2つが高い子どもはひどい目にあっていたか、あっているか。ランス君、暴力やそういったことは?」
「冒険者ギルドで骨を折られたりとか」
「そ、それ以外で教えてくれる?」
村に戻るまでの経緯を話した。
「死にかけたなら、耐性が高いのも納得。その前の食事を得るためでも高くなりそうだけどね。生活魔法ってレベル表示があるの?」
「あるよ。表示されているでしょう?」
「私も初めて知ったわ。取得で終わると思ってたもの。どうやったらそんな凄いことになるのか、親もいないから1人で大変なのにソルや冒険者に絡まれてしまって、本当にごめんなさい。もうないと思うけど、そういうことがあったらソルに言いなさいね。一応、ギルド長だから。決して自分でしないように。加減間違うと死んでしまう。殺しちゃうとこっちも処分をしないといけなくなるから、何かされたりしたら相談して。F級は冒険者ギルドとしても保護はしたいけど、手が回らないのよね。今のところランス君しかいないしね。もっと大きいところとかはちゃんとしてるから。うちが出来てないだけだからね」
「そうなんだ。ちゃんとして欲しいね」
「そういうところ、ソルがしっかりしないから困るのよね」
やっぱり魔法使いと戦士は対立しやすいのかな?
「師匠達もそうだったけど、魔法使いと戦士って意見が合いにくいの?」
「師匠?誰なの?」
「教えるには誓約が必要だよ。僕の秘密は守らないといけない。知ったら誰かに話したくなる。それは間違いがないと思うよ。誓約なしに教えることは出来ない。これは教えを請うた人との約束だからね」
何やら悔しそうにしているが、こっちがリスクのみで教えないといけないのは無理だ。僕の安全を優先に考えてくれたグリじいに悪い。
「今日は鑑定だけさせてもらったから十分よ。誰でも冒険者ギルドに登録できるけど、祝福前はF級って決まりがあるから上がることはないの。実績を積んでいれば、祝福後に一気にD級まで上がることは出来るから頑張ってね。あとギルド長に勝った子ってことで、領主様と子爵様がいたく感動されて褒美をくれるそうよ。何か欲しいものでもあるの?」
「いろいろ運びたいから、大きなリュックが欲しい」
「大きいリュックか。そうね、マジックバックぐらいもらってもいいんじゃないの?ここの領主様はあまりお金ないけど、子爵様は貴族向けのお酒でもうけているはずだから両方言ってみたらどっちかはもらえるわよ。小さくても大きなリュックサイズの大きさがあるはずだし、重さを感じなくなるから便利だしね。もしも狙われても対処できるでしょう?襲われたら、多少痛めつけも大丈夫よ」
「半分になっても大丈夫?」
「殺さないようにね」
「とっさにすると切っちゃいそうで」
ギルド長は何を言っているんだって顔をしている。難しい話はしていないよ。
「石は加工できるから、無意識で放つと殺しちゃうかも」
「石を加工するって、土属性?」
「え?土だと簡単なテント替わりの箱形を作るけど、削るなら風が断然使いやすいよ。水だとその辺り水浸しになるし、火は使ったことない。焦げるだけな気がするから。風で削れなかったら水だね。水だといろいろ削れる。水浸しになるけど」
「ちなみにどのくらいまで切ったことがあるの?」
「鉄ぐらいかな?風でね」
話を聞いたヘルセさんは血の気が引いていた。
「ソルの時は手加減していたってこと?」
「派手でと言われていたから少しづつ強くしていたよ。粘りすぎたかもしれない、もうちょっと早めに終わらせてもよかったかも。何も考えず戦闘できなくするなら水責めかな?重たそうな装備だから動きづらくなる。気絶させればいいからそんなに時間はかからないかな。風の強いのは相手が死んでもいいなら使うよ。誰でも使える生活魔法なんだから止められないのはその人が悪いよね?」
「ええっと。レベルが高いから普通の攻撃魔法と同じ扱いにしたいけど、今の状態だと魔法系の職が反対するわよね?一応、アドバイスをもらった本部長に報告してどうするか考えましょう。ランス君、殺さない手加減はしてあげてね。お願いするわ」
わかった~とのんきに返事をすると帰っていった。釜に火を入れてパンと串焼きを入れて温める。美味しそうなニオイが部屋の中に充満する。ふわふわなパンとタレがおいしい串焼きを一緒に食べていく。暖かくて美味しい。村だとこういうのは自分でどうにかしないといけない。まずはパンの種をもらってからだね。お腹がいっぱいになったのでカギを閉めて眠りにつく。今日も疲れた。
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