対決!
「ランス、何の話をしていたんだ?」
「冒険者ギルド長と戦うときの話をしてた。明日、決闘?をすることになったんだ」
「「はあああ???」」
フッラさんとギルド長が同じように驚いている。
「いやいや、腐っても元A級の冒険者なんだぞ。勝てるはずがないだろう。一方的にやられて終わりだぞ」
「そうよ、今からでも遅くない。やめるようにしましょう、祝福前の子どもが勝てるはずがないんだから、そんな勝負は出来ないわ」
「でも、もう執事さんが領主様と来客中の子爵様に伝えに行っているし、冒険者ギルド長はこの話をなしに出来ないような?執事さんが断れないような感じにしてたです。うまく説明できないです。勝てる見込みはあるので、なんとかなりますよ」
「あいつ、頭に血が上ったりすると売り言葉に買い言葉でバカやると思ったんだが。ここまでダメだったとは。ちょっとヘルセに話を聞いてくる。フッセちょっと頼んだ」
「デールさん、止めてくださいよ」
おうといいながら出て行った。
「ヘルセさんって誰ですか?」
「そうか、まだ冒険者ギルドの人の名前を知らないのね。ギルド長がソルさんで眼鏡をかけた受付の人が副ギルド長でヘルセさん。ソルさんは冒険者って感じの人でケンカとかするし、酒飲んで暴れたりするの。それをうまく取りなしているのがヘルセさん。いつもクールでかっこいい。胸も大きいし、スタイルいいし、あんなになってみたい」
フッセさんのほんわかな感じは誰にもマネできないと思っている。いつもほんわかしたい。村や狩りの時はいつも気が抜けない。
「ヘルセさんは薬を買いに来てくれるから、今日も用意しておかないとね。最近問題が多いって愚痴をこぼしていたし、冒険者ギルドは荒くれ者が多くて色目を使われて精神的に疲れがたまりやすいって。ランス君も問題を起こさないようにね」
「僕はちゃんとやってます。放っておいてくれれば、問題はないんだけど絡まれるんです」
「なんで絡まれるのかな?祝福前に登録する子が少ないっていうのもあるかも。普通は祝福を受けてから、登録するのにね」
「そんなこと言われても、親もいない、グリじいは村に帰れって。自分で生活を何とかしないといけないから、ギルドでお金を稼げないと困る。結局行かないといけない。これで収まるならがんばらないと。集中するから近づかないようにお願いしますね」
裏の調合室に向かう。普段は抑えるために封印をしているんだけど、今のままで魔力量が足りるのか?負けると生意気な口を叩くなだっけ?そのくらいなら別にいいか。封印を解放すると鑑定に本来のスキルの数字が現れることがあるので、本当に非常時にしかダメだ。祝福を受けて解除していいけど、その前に解除するのはまずい。グリじいもティワズも祝福までは絶対にダメだと念を押されている。解除しないでやるなら魔力のコントロール。生活魔法でどこまで対抗できるかわからないけど、絡んできた冒険者はすぐにどうにか出来る自信はある。いつもの鍛錬をしよう。
「ほら、ランス君ちゃんと食べて。お腹が空いたら動けないからしっかり食べて」
「動く必要はないんだけど」
「なんでよ、動くでしょう?」
「生活魔法で戦うから、そんなに動かないよ。食べ過ぎると動いてお腹が痛くなるよ。もう十分食べたから」
パンはバスケットに一杯持ってきて、スープにつけて食べているんだけど、まだバゲットが何本も刺さっている。そんなに食べたら動けなくなる。お世話をしてもらうのは嬉しいんだけど、その量は僕には無理です。
「それならいいけど、領主様の覚えもよくなるから負けても頑張るのよ」
「やれることはやるよ。かなわなかったら僕の鍛錬が足りないんだっていうことだから。それと執事さんのリクエストもある。頭の隅に入れて戦う」
「そんな余裕見せてたら本当に殺されちゃうよ?うちのギルド長もダメだったって、取りやめも出来ない。私たちも見に行くけど、ダメそうだったら降参するの。絶対に約束よ」
「うん。ダメそうだったら降参をする、約束するよ」
フッセさんはよく知らない僕のことを心配してくれる。僕がギルド員だからかな?
迎えが来たのでその人について行く。街に入ってきた門をくぐって石壁沿いに進んで広い場所に出た。
「ここで今日は戦うんだ。いつもは兵士達の訓練場になっている場所で関係者しか使えないけど、町の人はここのことは知っている。知ってる人は応援に来てくれるよ」
「広いですね」
使われているので草が生えていることもなく、まあまあ広かった。ただ、領主様達が近い気がする。ソルギルド長は大剣とフルメイルの甲冑を装備して目だけが出ていた。重そう。職補正とスキルで大剣を軽々と振り回している。動きは遅そうな見た目なのにそこそこ動けているのは見てわかる。迫力はあるし僕のボロい服と戦闘をくぐり抜けた痕のある鎧姿だ。領主様達の後ろには観客がいて町の人と冒険者かな?がいる。屋台も出ている。草原の広場って感じなので遮蔽物がないのが困る。使いの人の後ろをついて行って、真ん中のほうまで連れてこられる。
「ここで試合が始まるまで待ってて」
「執事さんへ観覧席に結界を張るように言っておいてください」
「ん?伝えておくよ」
さてと派手なのは昨日の夜考えて、大きめの風の刃か火の玉とか水の玉とかをぶつける作戦だ。どこまでやれるのかわからないけども、やらなければ。
「それでは決闘を始めます。それでは西より冒険者ギルド長、重戦士ソル。彼女は元A級の冒険者でありますので、今なおその強さは健在。大剣を軽々と振り回して敵をなぎ倒します。東よりエンケ村出身ランス。生活魔法が得意でまだ祝福を与えられておりません。祝福前の子がどのような戦いを繰り広げるのか、お楽しみください」
よく通る声で説明をされた。
「では決闘に際して、対価としてソル殿はランス殿の骨折治療。ランス殿はソル殿に対して不躾な口を聞かないこと。間違いございませんか?」
2人とも頷く。まっすぐにソルを見る。鉄の甲冑にしか見えないんだけど。
「それでは開始」
挨拶代わりに風の刃を飛ばす。当たるとやや足が鈍るが突進してくるのを止めるにはいたらない。火の玉を人の大きさぐらいで飛ばす。ソルは横に倒れて躱す。当たったら火傷するだろうね。すぐに起き上がると、突進してくる。水の玉を速度を上げて当てにかかる。体半分当たる。あの甲冑だと近くに来るほど避けにくいだろうね。小さな土の塊を作っては速いスピードで当てていく。近づくのは遅くなるけど、ダメージは入らないだろうなと考えながらちょっとそれで粘る。距離が近くなって大剣を振り下ろされるのを後ろにジャンプして避ける。地面に突き刺さったのをすぐに抜いて、横薙ぎに狙ってくる。その間に風を放って吹っ飛ばす。このくらいで、なんともないのか、立ち上がって大剣を構える。スキルを使ったのか、距離を詰められる。あ、ヤバい、足が滑った。剣が当たる瞬間に自分に風を当ててなるべく威力を弱める。だけど、ぶっ飛んで腕が切れて血が出て、つながってはいる。腕と肋骨が折れた。呼吸がきつい。だけど、戦わないと。無理矢理起きると土の塊を作って飛ばすとギリギリ躱した。風の刃を威力と量を上げて放っていく。距離を詰められなくなり、膠着状態が続く。息がしづらい。体が冷たくなっていく。
「うおおおおお!」
威力が落ちている。制御が甘い。スキルで一気につめられ、目の前にいる。剣が下から振り上げられ、スローモーションに見える。剣に当たりながら自分に風の塊を当てて、空中に浮き上がる。
「グゲボッ」
剣を躱したものの宙に浮き上がって、何かがこみ上げるのを我慢したが一瞬で吐き出した。キョロキョロと探しているソルに向かって、頭上から埋まるだけの土の塊を作り出して落とす。手加減をしているほどの余裕はない。出来た瞬間に次に水の塊も出して落とす。考える暇もなく、その土の上に落ちていく。
「・・・・・・ゲホッ」
咳をして、口から生暖かいものが流れ出していく。体中が痛い。腕はなんとかくっついている。動く手で口を拭う。真っ赤に染まる手から力が抜ける。
「勝者、ランス」
「早く掘り起こせ!死ぬぞ」
「手伝え、急ぐんだ」
兵士や冒険者達が急いでこちらに駆けつけてくる。
「大丈夫か?重傷だ!急げ!」
「早く掘り起こせ、まだ生きているはずだ」
「神官様か、高級ポーションがいるぞ。腕がちぎれかけている」
声が遠くに聞こえる。誰かに抱えられているような。意識が遠くにいってしまう。
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