依頼を受ける

 薬師ギルドを出ると依頼のあるという北東に向かう。依頼書には名前がふたつあるので、貴族の人の依頼なのだろう。ひとつは家名というやつだね。徐々に立派な家々に囲まれていく。依頼書を持ってうろうろする。門番のいる家もあるので依頼主の家を知らないか聞いてみると、ここだといわれた。お金持ちそうだ。壁が長い。

「執事長に確認をとってくるのでここで待っていろ」

 1人が家の中に向かって、1人は残っている。邪魔にならないように門の横に立っている。依頼は排水溝の掃除とあるけど、どこのとかは書いていない。街全体とかはやめて欲しい。高めの銀貨5枚の依頼なので何人かの子どもでやるとかかな?

「それでこの子がそうか?」

「はい」

「この家の執事のリックです。君は1人でやるのかい?」

「はい。冒険者ギルドにちゃんと登録しました」

 ギルドカードを見せる。受け取って確認すると返される。

「よろしい。排水溝の掃除ですが、ここの向こうからあっちまでを掃除してください。雨が降ると詰まってあふれて困っています。よろしいですか?」

「ええっと向こうの家の前から向こうの家の前までですか?範囲がよくわからなかったので」

「間違いありません。お願いしますよ」

「わかりました」

 執事の人は家の中に入っていった。ふたをはずして溝の中を覗いてみると土やら落ち葉なんかが積み上がっていてふたの近くまで来ていた。排水溝の上を歩きながらどこに続いているのか、どこかに繋がっているのか見てみる。どこも土ばかりでどこに繋がっているのかわからない。門番の人に聞いてみると、角に地下の排水溝に繋がる穴があるはずだと教えてもらった。門番も雨の日にあふれるのはイヤらしい。角まで行ってふたをはずすが、地下に繋がる穴が見えない。風で浮き上がらせると穴が見えた。これが詰まるってずっと掃除してないじゃないか。水で穴の中に流していく。反対の角も同じように流し込んだ。穴が見えたので、ふたを風ですべてはずすと門のところが、中心ぐらいなのでそこから大量の水を使って穴の中に流し込んでいく。早く終わったかな。でもこびりついたヘドロのようなものがあるので水強めでそぎ落としていく。これには時間がかかってしまう。

「できた。門番さん綺麗になったよ」

「お、おう。ぴかぴかだな」

 反応が鈍い。サインをくださいっていうと中に入っていく。

「もう音を上げたのですか、残念です」

「終わったのですが。確認してください」

「は?こんな短時間で出来るはずありません、何を」

 ふたを開ける。綺麗になった排水溝を見せる。

「んん?綺麗になっていますね。これはいい仕事をしています。この子はどうやって掃除したのです?」

「魔法を使って流していました。水と風です」

「それなら納得です。サインをしましょう。依頼書を」

 依頼書を渡すとサインをしてくれた。よし、依頼達成だ。

「それじゃあ、これで」

「ちょっと、時間はありますか?頼みたいことがあるのですが」

「ギルドの人に依頼はギルドを通すように言われているので、頼まれません。ごめんなさい。ギルドしか頼るところがないんです」

「名前を教えてもらっても?」

「ランスと言います」

「今日はご苦労様です」

 何か言われるかと思ったけどそのまま帰してくれた。冒険者ギルドに向かって帰って行く。銀貨は薬師ギルドの登録料のためにとっておかないと。串焼き、串焼き楽しみだ。ふんふん、鼻息荒く足取り軽く通りを歩いていく。依頼書を大事に抱えてギルドに報告。串焼き食べれる。

「あの子です!ギルド長」

 大きな声がしたので振り向くと薬師ギルドの受付の人だ。隣にごっつい男の人と細身のおじさんがいる。手招きされたので近づいていく。

「ローポーションを持ってきたのはこの子です」

「何?冒険者ギルドに行って、依頼達成のお金で串焼きを買わないといけない」

「串焼き?そんなことよりローポーションを持ってきたのはお前なのか?」

 ポケットから同じ石瓶のものを取り出す。

「これ?」

「そうだ。おお、これも高品質だ。将来の有望株、さあ登録しよう」

「冒険者ギルドに報告してからでもいい?登録料も払えるかわからないし」

「では、ついて行こう。報告が終わったら確実に登録してもらう」

 登録料が払えないかもって話は聞いていない。串焼きが買いに行けなくなりそう。あれを目的に早く終わらせるためにがんばったのに。細身のおじさんが後ろについて歩く。冒険者ギルドにつくと中がざわついていた。あれ?さっきの執事さんだ。女の人と執事さんが奥の方にいるのを横目に見ながら登録してくれたお姉さんに依頼書を渡す。

「はい、確認できました。こちらが報酬です」

 銀貨5枚を受け取って、外に出ようとする。

「あの子です。指名依頼をします」

 なんのことかわからないので、首を横にしてから外に出る。

「ちょっと待って」

「そうだけど、待てないの。串焼きが待っている」

「冒険者ギルド長、この子はこれから薬師での登録をしてもらわないといけない。報告のあとは薬師で登録する手はずになっている。ここは譲らない」

「そのあとは串焼きを買いに行く」

「指名依頼があるんだけど受けてくれる?」

「依頼書を見てからね」

 何をするのか、報酬は確認しないとね。ティワズがそれだけはちゃんと見ないといけないと耳にたこができるほど言っていた。依頼書がないようなのでそのまま、薬師ギルドに連れて行かれる。串焼きはあとになったけどね。

「お帰りなさい。登録用紙とギルドカードと水晶は用意しておきました」

 受付のお姉さんは最初、ふんわりした印象だったのに興奮でふんわり感が無くなっている。

「字は書けるか?」

「うん、教えてもらったから大丈夫」

「祝福前だがローポーションを作れるのなら薬師ギルドとして登録できるから登録用紙に名前と出身の村と師匠の名前を覚えているか?」

「グリじいに教えてもらった」

「誰の弟子か、記入するんだ」

 登録用紙に言われたことを書き込んでいく。グリじいの名前も書いていく。

「師匠は有名な薬師ではないみたいだな。聞いたことがない。そういえばポーション用の空瓶はあったか?さすがにこの石瓶では販売できんぞ」

「ギルド長、うちに空瓶なんてありませんよ。だいたいポーション作れるのなら王都に行ったほうが儲かるでしょうし、素材も集まりやすいですから」

「そうか、ポーションと一緒に空瓶も調達してこないといけないな。卸したばかりだが頼んでくる。説明と登録は頼んだぞ。ローポーションでも輸送費がないだけ安く出来るからな。しかもかなりの高品質ならライトポーション並の効力がある。ありがてえ」

 奥の部屋に消えていった。

「登録用紙はちゃんと書けているわね。初回登録料は銀貨5枚。持ってる?」

「さっきの依頼料が銀貨5枚だったからあるよ」

「すぐにポーションを売ってもらえればよかったんだけど、うちにポーション用の瓶がないからごめんね、銀貨5枚は大金だと思う。ポーションを売れるようになったらすぐに取り返せるからちょっとの間、辛抱してね」

「それはいいんだけど、冒険者ギルドにいって稼ぐから。でもある程度稼いだら、村に戻る予定。薬草採集したいし、狩りもするし、畑も作らないと」

「忙しいのね。暇を見て売りに来てくれるとありがたいわ。うちには専属の薬師がいなくて、いつも取り寄せて売るだけだから、ギルド員がいるだけでも本当に嬉しい。お金はもらったからカードを作りましょう。冒険者ギルドは最寄りの通行料ぐらいだけど、うちのギルドカードはどこの都市も通行料無料よ。どの級でもね。冒険者だと上の人達しか無料にならないけど、薬師の人達はあまり移動しないからギルドで出してるの。さあ、カードと水晶の上に手を置いて」

 水晶が光ってカードも光る。こちらも同じく鉄の色のカードだ。

「DEFが鉄のカード、外側がね。カード自体が魔道具だからさびたりはしないの。Cが銅で、Bが銀、Aが金、Sはなんとオリハルコンで出来ているの。ギルドカードはうちで商品を買うときは割引になるのとお金の出し入れが出来るわ。売り上げをカードの中に入れるってことも出来るし、高級ポーションになるとすぐに買い取れないことが地方の支部ではあるから、売れたときに入れるってことになるの。その辺はちょっと不便だからみんな王都に行っちゃう。だから地方には薬師があんまりいないの。でも冒険者ギルドがあるところにはポーションが必要だから、一緒になって街にあることが多いわ。あんまり危険なところだと、ないこともある。その場所場所で確認するしかないけどね。あとは薬師ギルドはギルド員に材料になる薬草や作るための機器を販売しています。ポーションを作るなら必要なものがギルドなら取りそろってます。でも、ランス君1人だから取り寄せになるの。時間がかかるのは許してね」

「じゃあ、乳鉢のセットとビーカーが欲しい。いくらぐらいする?ポーション用の瓶もいるけど。今は石で作ったので作成してる。薬研があればもっと効率も上がるから、この3つは絶対に欲しい」

「ちょっと待ってて、ギルド長に頼んでくる。値段はわかったら教えるね」

 ギルドの中には誰もいなくなった。ごつい人はどこかに行っているのかわからないけど、ここにはいなかった。

「ビーカーの大きさはどうするの?」

 ドアから顔を出して叫んでいる。

「大きいのを2つと中を5つ小さいのを10で」

「はーい」

 本当に必要最低人数で運営しているのだろう。見本がないのでちょっと不安になるがビーカーがあればポーション作りもはかどるのでいいかな。注文が終わるのを待っている。

「ランスちゃんいる?」

 ちゃんと呼ばれるのはいつ以来だろうか?呼び捨てでいいのだけど、執事さんと一緒にいたお姉さんだ。ひらひらと依頼書をちらつかせている。どうしたのだろうか。わからないので受付で待っていると中に入って依頼書を見せてくる。

「領主様の執事さんから指名依頼で、庭園の噴水と彫刻、湯網場の清掃だけど、やってみないかな?」

「指名依頼?」

「そうね、働きぶりやその人ならやってくれるだろうって人物に対して、依頼者がその人って指名できることで今回はランスちゃんならって執事さんから指名されたの。男爵家前の溝掃除がいたく気にいったようよ。受けてくれると嬉しいんだけど?報酬も弾んでくれるって。どうかな?」

「泊まるところとか、道具の値段とか聞かないと。受けるのは受けるけど、今日じゃなくてもいい?」

「受けてくれると思って緊急依頼料までもらっちゃったのよね。受けてくれないと困るのよ、ギルドの信用問題になるの、お願いだからすぐに受けていって欲しい」

 そんなことをいきなりいわれても、値段は気になるし、いつ届くとかも気になる。

「うちのギルド員にちょっかい出さないでください。うちの唯一のギルド員なんですよ」

「え?てっきり薬待ちかと思っていたの」

「それで冒険者ギルド長は何のご用なんですか?」

「ランスちゃんに男爵家の執事さんから指名依頼が入ったから迎えに来たの。冒険者ギルドにも入っているからいいわよね?」

 にらみ合いが始まった。

「やった、ちょっと古いが安いのがあったからそれを送ってもらえることになった。道具は安く手に入るぞ。2人ともどうしたんだ?」

「男爵家の執事さんから緊急指名依頼がランスちゃんに入ったから連れていってもいいわよね?」

「その前に今日のことで疲れているんじゃないのか?今日来たばかりじゃないのか?お金の余裕のないなら登録だけは済ませておきたいだろうしな」

 冒険者ギルド長はハッとした顔で僕を見た。

「今日来たばかりなの?」

「うん、門番の人に通行料は領内だからいらないって。背負ってきた肉を売って冒険者ギルドの登録料にして、溝掃除代は薬師ギルドの登録料になった」

「なんとか出来る?」

「泊まるところはどうしようかと。野宿だから、そろそろ準備したい」

「宿はうちのギルドが手配するわ。今日だけはただにするから依頼を受けて」

 凄く必死なんだけど。揺すられる反動で首が上下に揺れる。力任せで痛い。

「わ、わかったから受けるから」

 本当は今日は街を見て食料を買いたかった。冒険者ギルド長が必死なのでしかたなく、受けることになった。野宿しないならいいかな。馬に乗せられて、冒険者ギルドで受注処理をギルド長がしてから男爵家に振り落とされそうになりながら向かった。入り口で執事さんが待っている。

「おお、よかった。さきほど先触れが参りまして、焦っておりました。ランス殿、こちらに」

 馬を下りると屋敷の庭の噴水付近に連れてこられる。

「これらをキレイに出来ますでしょうか?」

「やってみます。急ぎなのですか?」

「はい、恥ずかしながらうちの者では間に合わず、前から来る予定の来客でございまして。うちはあまり予算がなく」

「やれるだけやってみます」

 こんな平民の子どもに丁寧に接してくれる執事さんがかわいそうだったので、銅像から水で黒いところをそぎ落としていく。白い石像が現れていく。続いて噴水を掃除するけど、排水がまた詰まっている。風で全部の物を持ち上げて、それを火で燃やし尽くす。排水溝に水で灰を流し込みながら、噴水を強めの水できれいにしていく。

「それで十分です。中にお願いします」

 執事さんの後ろをついて行く。通された場所は湯浴み場で臭い。黒いシミがいっぱい。

「ここをどうにか出来ますか?」

 ここの排水口は水が流れた。

「執事さんは外にいてください。濡れますよ?」

「終わりましたら外にいる者に教えてください」

 水だけでは早く終わらないと思ったので、お湯にして黒いところに当てていく。落ちていくな。天井からやっていくけど、跳ね返ってびしょびしょになる。それを気にせずに壁、床、湯船と続けていく。黒い水を排水口に流し込んで終了だ。この場から出ると執事さんが慌ててやってくる。

「終わられたのですか?」

「はい、終わりました」

「誰かここのお湯を出せる者はおるか?」

 温度調整ぐらいしか出来ないとメイドさんが答える。執事さんは頭を抱える。

「先にサッパリしたいから湯浴みがしたいと。このままでは間に合わない」

「お湯を出しましょうか?」

「広いが大丈夫ですかな?これまでも結構な消費をされていると思われますが」

「なんとかなると」

 お願いしますと頭を下げられる。排水口に蓋をしてもらってお湯をじゃぶんと放り込んだ。執事さんは驚きの顔で固まっている。

「これぐらいあれば十分ですか?」

「はい、ありがとうございます。なんとか体裁を保てました。服を着替えていただく時間がないのは心苦しいのですが、ご客人は貴族様でございますので裏口から見つからないようにお願いいたします」

 メイドさんに案内されて裏口から外に出て門のところまで回り込む。服が張り付いて動きにくい。ギルド長を探したけど、門の見えるところにはいなかった。しかたなく、歩いて帰っていく。夜の風は濡れた体には少し冷たい。街に明かりがつく。魔石を利用して明かりを灯している。ギルド長を探しながらだけど、歩いて冒険者ギルドまでつくと開いているのだけど中に入ると受付は閉まっていて酒場のほうだけ賑やかに騒いでいた。しかたないので宿屋を探して歩き回って、泊まれるか聞いたけど満室で無理だと言われた。

 くしゃみと共に頭がぼーっとする。体が寒い。どうしよう、ご飯も買えなかった。空間倉庫にあるのは未加工の肉や穀物なのでそのまま食べられない。道具もなく、お腹が空いて、寒い。依頼をこなしたけど、やりきれない気持ちだった。店も開いてない。薬師ギルドって開いてないのかな?どこをどう歩いたか覚えてないけど薬師ギルドの前にいた。扉はカギがかかっていて中には入れないようだった。疲れた、気を張ってそれが抜けた。頑張りすぎた。

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