街に出稼ぎにいく
日が昇る前の薄暗い中、準備万端で出かける。弓とナイフ、肉を背負っておく。そういえばバックがない。空間倉庫付き革袋のマジックバックならほとんど手ぶらでいいけど、今持って行けるのはこのくらいだ。帰るときは大きなリュックを買えば誤魔化しもきくだろうからね。今はお金もないし、どこかのギルドで稼げばいいや。さっさと行こう。早足で村の中を通過。抜けてから道沿いに歩いて行く。草原が広がっているので索敵はしやすいけど、向こうからも見つかりやすくなる。歩いていくのに誰とも会わない。途中にウサギがいたので刈り取ったぐらいで、本当に誰とも会わなかった。住んでいる村は特に特産品もなく、細々と暮らしているだけなので行商の人もあまり来ないようだ。雑貨屋の様子だと売れない物は売れないっぽい。皮なめしがあるときだったらもうちょっと違うのかも知れない。道沿いに歩いて行くけど、能力を隠さないといけないから、隠れて移動も出来ない。草原だから隠れて移動できないってことなんだけど。野営は土魔法で家を作って。普通に煮炊きして寝た。2日目には早く移動して城門についた。うちの村からの門は小さく、閉ざされていた。普段使っていないようだ。移動して街道に出て、みんなが並んでいるほうの門に並ぶ。
「身分証は?」
「持ってない」
「どこから来た?」
「エンケ村から出稼ぎに来た」
「子どものようだが祝福を受けているのか?」
「受けていない」
「金は持っているのか?」
「持っていれば出稼ぎに来ない」
「それもそうか、坊主とりあえずこっちに来い」
門番のおっちゃんについて行って、部屋の中に入れられる。何人かいて、剣を携えている。
「エンケ村から出稼ぎに来た子どもなんだが、入場料はいるよな?」
「領内もんなら構わん。一応嘘かどうか、領内じゃないときは追い返さないと行かん。とりあえずこの水晶に触って、質問するから答えるだけだ」
目の前に出された水晶に、手をのせる。青く光った。
「犯罪歴はない。お前はエンケ村の者か?」
「うん」
「出稼ぎに来たのか?」
「うん、できればギルドにも登録したいと思ってる」
水晶は青く光ったままだ。
「もう手を離していいぞ。背負った肉を肉屋に卸したらギルドの登録料ぐらいにはなるはずだ。それで雑用でも何でもしてなんとか食いつなげば、なんとかなるだろう。野宿かもしれんが」
「肉屋ってどこにあるの?」
「おい、連れて行ってやれ。いない間は立っといてやるから」
「わかりました」
最初に話した門番のおっちゃんの後ろについて行く。街の中は人通りもあり、寂れた感じはない。木造だけでなく、石造りの家もある。領主街だから村よりも手間や時間のかかる建物もある。丈夫だから木造よりも長持ちする。キョロキョロと街を見回す。
「エンケ村から出てきたんなら街の中も珍しいだろう?」
「うん、見たことないのがたくさんある」
そうかそうかと言われながら肉屋までは表通りから少し入ったところに案内された。
「ここで背負った肉を売るといい。オヤジ、適正価格で買い取ってやれよ」
「サボりに来たのか、おい。いつの間にそんなでかいガキこさえてたんだ」
「田舎から出稼ぎだとよ。ギルドの登録料ぐらいにはなるだろう?」
「いい肉背負っているな、じゃあ奮発してやろう。普段なら銀貨3枚ってところだが4枚で買い取ってやる。また、売りに来てくれよ」
うんと返事をしておじさんに肉を渡して、銀貨を受け取る。初めてのお金で嬉しい。門番のおっちゃんに大通りまで戻って、剣と杖の交差したマークの看板をさす。
「すられないように気をつけるんだぞ。冒険者ギルドはあの看板だ。登録したいといえば、金を払って出来るからな。頑張ってこい。ダメだと思ったら村に戻るんだな」
背中を押されて、ありがとうといって別れた。いい人達でよかった。両開きのスイングドアをくぐって、中に入る。右側にお姉さん達が座っていて、左側にはイスと机、酒と食事をしている人たちがいる。一番近いお姉さんのところに行く。
「登録は出来る?」
「ギルド登録したいの?」
きれいなお姉さんが微笑みながら聞いてくる。うんと返事をする。
「女の子?」
「男だよ」
「きれいな顔しているのね。字は書けないよね?」
「書けるよ。教えてくれる人がいたから」
「貴族様なの?」
「違うよ、ただの村人。魔法使いの人のところにいたことがあったから、そこで教えてもらったの」
羽ペンを借りて自分の名前と出身の村を書く。職業は書いていない。
「今何歳なの?」
「13歳だけど」
「祝福をもらってないのね。だったらF級からね。Fが一番下で、祝福をもらったらE級からやるの。SABCDEFの級があって、Sが一番すごくてFが一番低い。祝福前の子はF級に固定なの。街の雑用や採集までしか出来ない。それでも登録する?」
「うん」
「登録料はFっていくらだっけ?」
隣のお姉さんが銀貨1枚といっている。Eは3枚と補足している。
「登録するから、この水晶とカードの上に手を置いて。あ、その前に銀貨をちょうだい」
銀貨を渡す。水晶とカードの上に手を置くと光が出て、ギルドカードに名前と級が表示される。カードの色は銀色で鉄の色だ。
「カードをなくすと再発行に大銀貨1枚かかって高いから気をつけて。お金を預けたり、引き出したりすることが出来るから、持ち歩くのが不安ならギルドに預けるのよ。他のギルドでも残高があれば買い物が出来るから便利よ。依頼は入って正面の掲示板に貼ってあるから、そこから探して受付に依頼書とカードを一緒に出してね。受けられる依頼は一つ上の級まで、下は全部受けても良いけど、基本は同じ級か上が普通よ。でもF級はF級しかダメ。手続きが終わったら依頼に行って、モンスターとかならカードが記録してくれる。雑用とか護衛とかは依頼書に達成したサインをしてもらわないといけないから、依頼人にちゃんとサインをもらうのよ。Fだからないと思うけど、依頼は直接じゃなくてギルドを通したらギルドが責任を持って報酬やトラブルの対処はするから、ギルドを通すようにね」
「うん」
「常設依頼っていうのがあるのだけど、それは出来たら受付に直接来てくれれば達成できるようになっているから、それもお金になるから何かのついでにしたらいいわ。あとA級以上はいろいろとギルド特典があるから楽しみにしててね。そのくらいかな?」
隣のお姉さんは頷いている。説明は以上のようだ。
「そうそう、半年依頼をしないと、カードが無効化されるから気をつけて。無効化されると再発行料がかかって級が下がるから今までの実績がぱあになっちゃう。けがをしても常設依頼は出来るから、そういうのを利用するといいよ」
「わかった。カードをなくさないようにしないといけないね」
「そうよ。じゃあ、がんばってね」
返事をして掲示板にいって、受けられる依頼を探す。どぶの掃除とかかな。常設依頼は薬草各種の採集。空間倉庫の中にたくさんあるけど、ここで出すわけにはいかない。あとは薬師ギルドがあるって聞いたからそっちの方にも行ってみたい。排水溝の掃除をさっきのお姉さんに持って行く。
「この依頼人っていう人のところに行くのよ。依頼によると街の北東に行くとあるはず、がんばってね」
「聞きたいことがあるんだけど、薬師ギルドってどこにあるの?」
「薬師ギルド?薬師ギルドは入り口でてから左向かって歩いていけば、ポーションの瓶のマークがあるからそこよ」
「ありがとう」
表通りを出て左だから、街の中に入っていく。馬車や大きなリュックを背負った人、町の人かな?普通に歩いている人たちがいる。表通りなので商店も開いていて、果物や穀物類、串焼き、パンのいい匂いが漂っている。美味しそうな匂いにつられて店の前でじっと見てしまう。
「坊主、いるのか?」
「まだ、お金がない。稼いだら買いにくる。いくら?」
「大銅貨3枚だ。特製のタレがうまいぞ、期待せずに待っているからな」
値段を覚えて、大硬貨は硬貨10枚分、今のだと銅貨30枚分ってことだね。依頼を早く終わらせて買いにこよう。村と違って人通りがあるので、人とすれ違う。街は人がいっぱいいる。人と当たらないように歩かないといけないね。
ポーションマークのはいった看板の下まで来た。冒険者ギルドよりは小さいがちゃんと綺麗にされている。冒険者ギルドはちょっと汚い感じがある。扉を開けて中にはいる。受付とその反対に壁にもたれかかるように長椅子がある。
「いらっしゃい、薬師ギルドにようこそ。なんの薬がいるの?」
「薬?自分で作れるからいらないよ。ローポーションを売ったりするのはどうしたらいいのか聞きに来たのと薬については売れるのか聞きに来たの」
「坊やは見たところ祝福をもらっているようには見えないけど、作れるの?」
うんと力強く返事をして、石の瓶をポケットから取り出して、机の上に置く。
「祝福はもらってないよ。作ってきたから確かめて欲しい。どのくらいのが出来ているかわからない。お金がなくて、専用の道具とか使ってないから品質は保証できないけど、調合は出来た」
受付の人は1人しかいなくて、ちょっと困っている。
「坊やは薬とかの名前や配合を知っているの?」
「魔法使いのところにいて、その人がいろいろ知っている人だったから教えてもらった。薬草の取り方から保存の仕方、抽出、配合まで」
「たとえばどんなことか、教えてくれる?」
「癒し草はポーションの基本的な薬草の一つで、これと他の薬草を一定の割合で混ぜるとローポーションが出来る。ライトポーション以上は魔草を混ぜないといけないから祝福を受けてスキルがないと癒し草とは混ざらないので僕には作れない。でも、癒し草以外の普通の薬草とは混ざってくれるので、薬の効果を高めてくれる。だけど、人によっては強すぎると副作用がでる。使うときは様子を見て魔草と混ぜるか、他の薬草と混ぜて効果を高めるかは判断しないといけない。他の薬草との混ぜる方法を先に試し、効果が薄い場合は種類を減らしてから魔草と混ぜ、種類を多くする。やくそうは」
「待って、待って。知識があるのはわかったから、売るならちゃんとした瓶に入れて薬師ギルドにも入ってもらわないといけない。この石の瓶の中身がローポーションならうちとしても嬉しいの。この辺は薬師の人がいないから、冒険者ギルドにポーションを卸すためにここがあるの。今、ギルド長が冒険者ギルドにポーションを持っていったばかりだから、ちょっと時間がかかるけど待っててくれる?」
「時間がかかるなら、このローポーションを置いていく。冒険者ギルドの依頼をしないといけないから、終わったらまた来るね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます