村での生活3

 今日は保存食にでも、あ、干し肉があったか。梁からつり下がっているのが目に入った。塩漬けとかしていないが、うまく水分が抜けているようだ。狩りにでも行こう。ここにいたって、獲物はハイウルフ達を避けるために遠くに行ってしまっているはずだ。探索をしても引っかかることがない。また遠くに行かないと。今度はきちんと日数を消化してこないとね。石ブロックの予備も調達しよう。

 ドンドンと扉を叩く音がする。警戒しながら近づいていく。

「ランス、おらんのか?」

「なに?ちゃんと雑貨屋には顔出ししているよ」

 村長の声だったので、開けてみると知らない人たちが後ろにいた。

「なんでい、ガキじゃねえか。案内は期待できないな」

「まだ祝福を受けておらんのでな、無理はさせられん。ランス、ハイウルフはどこで見たんじゃ。説明してくれんか?」

 うなずいて、家の外に出ると家の裏側に連れていった。川が流れていて、その後ろは森が広がっている。森に続く橋もかかっている。石の上に丸太を縛ってかけているだけだ。増水するたびに流されてしまうのはしかたのない。川幅は4mぐらいなので、石を経由して渡っていければ向こうの森に行ける。

「あっちの方向に気配を感じて、見に行ったらウルフと一回り大きなウルフがいたからハイウルフだと思って、村長に報告した。村も襲われたんじゃなかった?」

「見に行ったって、見つかったら死んじまうにのか?」

「木の上を伝っていった。足ではかなわない。もし見つかっても登っては来ないから上にいた。木の上は移動は遅いし、大体の方向でしか進めないから逆において行かれる。案内は難しい」

「木の上だと大声でしゃべらなくちゃならねえから、ハイウルフに気づかれちまうだろうな。そりゃ無理だ」

「最初に見てからは探してないから、どこにいるか知らない。近くに獲物がいなくて困ってる。村長、狩りに出かけてくる。それじゃ」

 そこにいる全員が動かなくなる。入り口に戻ってカギをかける。準備は出来ていたのでそのまま北に向かって進んでいく。

「ら、ランス、待つんじゃ」

「なに?」

「ハイウルフに襲われたらどうするつもりじゃ。村に来るんだ」

「この前も北に行ったから大丈夫。どちらかというと発見した西の森が危なそうだから避けてる。ウルフ達がねぐらにしている場所を変えるなら、この村から家畜がいなくなったときだろうから今のうちだね。1週間後には帰ってくるよ。それに狼がハイウルフの元に集まっているから、群れがいないと狩りがはかどるからね」

 息を切らせて追いかけてくる村長にそういうと、北の森へと歩いて行く。

「あのガキ、頭の線が切れているんじゃないか?」

「戻ってきたばかりで村に馴染んでいないんじゃ。落ち着いてからどこにいたのか聞いておくつもりだったんじゃが、こんな時に出て行かんでも」

「親はいないのか?」

「両親ともなくなった。それにランスは死んだと思っておったんじゃがひょっこり戻ってきたのでな。村にはいない狩りが出来るでの、元々、家も村から遠かったからいいじゃろうとなったんじゃ。こちらはいいのだが、またふらりといなくなるのかと思ってな」

「狩りが出来るのなら、田舎ならどこでも重宝されるだろうな。スキルは持っていそうだ。狩人なら自由に狩りに出かけねえとな。いつも取れるわけでもねえ。冒険者も出来そうだ」

「気配遮断だと?!本当に祝福をされてないのか?」

「まだ15になっとらん。祝福は受けられん」

 遠くから声が聞こえる。人から離れるように北の方へと向かって行く。1日は普通に進んでいこう。


 いろいろ補給しながら、村に近づくと鹿を切り分けたのを紐にくくって歩いて行く。誰にも会わずに家の中に入って肉は梁にかけておく。薪をくべておいてゆっくりと休もう。ハイウルフはたいしたことないから、冒険者達がなんとかしてくれているだろう。疲れてイスでうとうとしてしまう。ベットの上に行こう。横になって目を閉じる。疲れた。


「ランス、帰っているのか?」

「そんちょう?」

 目をこすりながら体を起こす。寝ぼけたまま、扉を開ける。

「無事じゃったか。ハイウルフは冒険者が倒して帰って行ったわい。これからは近場で狩りが出来るじゃろう」

「ほんと?よかった」

「それでランス、聞きたいことがある。村に帰ってくるまでの数年をどこで過ごしたのかだ。お前を見た冒険者達がいうには武器さえ渡せばハイウルフぐらいはなんとか出来るかもしれんといっておった」

 首をかしげながら村長の話を聞いている。

「かもでしょ?僕は狩りが出来るだけだから、冒険者が相手にするような魔物は相手に出来ないよ。肉食の動物は失敗したら危ないから相手にしていないよ。ウサギとか鹿とか、よくて狼?木の上から狙って持久戦になるけど。クマとか見たら逃げてるよ」

「そうか、どこで何をしていたのだ?それは教えてもらわんとならん。村から離れているとしても聞くだけは聞いておかんとな。どうやってウルフ達から生き残ったのか?住むのなら教えてくれんか?」

 中に入ってもらって、座ってもらう。意識はハッキリしてきた。

「生き残ったのは通りがかった魔法使いに助けてもらったから。あまり覚えてないんだけど、死にかかっていたのは間違いない。治療をしてもらいながら、その人の家に連れ帰ってくれて手伝いをしながら、いろいろと薬の作り方と生活魔法も教えてもらえた。殴られなくても手伝いをすればちゃんとご飯はくれたよ?」

 村長をじっと見て話を止める。

「その人のところにいればよかったのではないのか?」

「人里離れすぎてて、祝福を受けられないから戻れって言われて、この家に戻ったの。教会がない村にはそういう人を派遣してくれるでしょ?祝福だけは無料でやってくれるからね。あとは多少なりとも人のいるところにいた方がいいだろうって。助けてくれた魔法使いの人とたまに冒険者の人が来るぐらいだったから、ほとんど2人だったよ」

「薬と生活魔法は教えてもらったんじゃな?それで狩りはどうやって覚えたんじゃ」

「冒険者の人に教えてもらった。弓とナイフは使えるといろいろと便利だろうって。動物の仕留め方も教えてもらった。最初は血抜きとか内蔵とか吐きそうだったけど、何度か一緒に狩りを教えてもらった。それで狩りが出来るようになって、生活は大丈夫だろうって。祝福のことがあるから、覚えたのなら帰るように諭されて村に帰ってきた。薬と生活魔法、狩りができるなら生活には困らないだろうと言われた。硬いパン一つで手伝って殴られるようなところに戻って来たくなかった。僕はこの家を守るだけで精一杯だ。自分の生活をするのに必死だから構わないで。元もいなかったんだ。いない者として村では扱って欲しい。1人で暮らすための知識を教えてもらっているから雑貨屋だけの付き合いで十分。何なら領主街まで行って売り買いをするようにしてもいい。そうすれば、村とも関わらなくていい。元々いなかったんだからそれてでいいよね、村長?」

 村長は苦々しい顔で聞いている。何かを考えているのか、話の間が空く。戻ってきた理由はある程度のことが出来るようになったから。祝福はなくとも村の外に出られるなら、どこかでしてもらったといえば済む話だ。

「もう、村の者はランスの狩りの腕に期待をしている。何頭分か雑貨屋に卸した肉が村では貴重な肉なんじゃ。関わりたくないのならそれでも構わんが、ここに住むのなら村への肉の卸はやってもらわないといかん。村のもんは楽しみにしておるのでな。帰ってそんなに経ってもおらんが村での評判は上々だ。たまには村に来て同じ世代と仲良くなるのも悪くはないと思うがのう」

「なるべく近づきたくない。イヤな思い出しかない。だから必要なこと以外で近づくことはない。祭りがあろうが結婚式があろうが行かない。一つ教えて欲しいんだけど、領主街にはどんなギルドがあるの?」

「領主の街だから冒険者ギルド、田舎じゃからのう、あとは薬師ギルドぐらいじゃな。王都に行けば、鍛冶師やら魔道具やらのギルドがあるはずだ。ここからだと馬車で9日以上はかかるから遠いぞ。そんなに大きな国ではないが、歩いたら倍ぐらいの日数はかかる。まあ、領主街ぐらいまでなら旅慣れてなくともなんとかなるじゃろう」

「領主街で出稼ぎしてくる。ギルドにも登録しておきたい」

「戻ってくるのか?街まで出ると帰って来たくなるぞ?」

「ここにいるのは祝福のためだから、帰ってくるよ。ここじゃ、欲しいものも手に入りにくいから」

 馬車だと人間だけだから早い。荷物を積んでいると人間が歩いているのとそんなに変わらないこともある。馬にも休みは必要だしね。僕が本気で走れば領主街まで1日ぐらいかなと思う。ウルフにもスピード負けはしない。が、それを見られてはいけないので、普通にゆっくり行くしかない。賑やかな街を見てみたいと思っているのもある。ここにいるとグリじいのところとあんまり変わらない。近くに村があるぐらい。いろいろ採集するのにはいいんだけどね。いい思い出はない。

「雑貨屋に頼んでいるのじゃろう?」

「寝具は頼んでいるけど、いつ届くかはわからないから、その前に買えるようにお金を稼ぐ」

「止めはせんが、子どもが行くと攫われて奴隷にされるとも聞くからのう。だいたい村の中にいるのが安全ではあるんじゃが。忘れておった、エイシェトが会いたいといっておったのを伝え忘れていた。昔は仲が良かったように思ったがの」

「そのうち会うだろうから、出会ったら挨拶ぐらいはするよ。他に聞きたいことはある?」

 そう言われればエイシェトをかばって死んだんだった。教えてもらえた時間が濃くて楽しい時間だったから、すっかり忘れていた。それよりも食べ物に飢えていることのほうをはっきり覚えている。

「よく生きて帰ってきたと言っておこう。おいおい村にも馴染んでくれればいい。1人で生活をどうにかせんといかんのにワシらが口出ししてもしかたないことじゃ。自由にやるといい。帰ったら雑貨屋には顔出しするようにのう。生きておる確認ぐらいはやってくれるか?」

「わかった。明日の朝、出発する予定だから帰ったら顔出しするよ」

「よし、今日はこれで帰ろう。また、顔を見に来る」

 話が終わったようで席を立つと家の外まで見送る。探索をかけて周囲に危なそうな生き物がいないことを確認する。1人でも大丈夫か。暗いわけでもないから平気だろう。

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