村に帰る
何日かかけて生まれ育った家に戻った。戻ってきたなぐらいで、扉をあけると4年経っていたホコリが舞う。家自体はあまり痛んでいる様子なく使える。ベットにイスが4つと机がある。村はずれにあるので、帰ったとしても気がつく人はいないかもしれない。多分、死んだと思われ?いや、実際死んだ。そんなことはいいか、生活出来るように掃除してしまおう。
さてとベットに布がないな。しょうがない、そのまま寝よ。食器や水瓶もない。水瓶の替わりは土の生活魔法で造ってしまう。水も生活魔法で出しておく。疲れたから今日は寝よう。
朝日で目が覚めて、顔を洗い、外に出て気になった家の周りの雑草を風で切り飛ばす。近くの森へ入っていく。森の植物のことはグリじいが、動物や魔物のことはティワズに教えてもらってる。薬草が結構ある、空間倉庫に放り込みながら、食べられるキノコ、実なども採っていく。出来れば動物が獲りたい。草だけではお腹がすぐ空くからね。探索!猪とウサギがいるか。風下を意識しながら回り込んでいく。遠目から狙ってヒットさせる。うまく仕留めた。近付いて、処理をすると空間倉庫に投げ込む。猪も苦労することなく狩れた。血抜きをしつつ内臓を処理して水洗いを済ませるとしまい込む。
あまり時間がかからず食料確保が終わったので、生活用品や道具の作成にかかる。人には見せられないしね。石で食器を数点と鍋と板を土の魔法で加工する。鉄鍋はお金がないと買えない。壊れるかも知れないし、石のブロックも倉庫にしまっておく。
15になるまでは教えてもらった魔法は使わないこと。
生活魔法は見よう見まねで使えることがあるので、使ってもいい。普通の魔法は15才以降じゃないと使えないはずだからダメだって言われた。祝福を受けるまでだ。空間倉庫は絶対に見つかってはいけない。魔法系上位職ぐらいしか使い手がいない。物にも付与できるのだが、自分で使えれば、わざわざ作ることはないので、お金に困ったらやっと作ることがあるらしい。空間倉庫付きのバックはとても高価でティワズのもっていた物で白金貨10枚。ダンジョンに潜って拾った物で家ぐらいの容積があると言っていた。お金の価値とかよくわかってない。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨1000枚で白金貨1枚と教えてもらった。何で白金貨だけ多いのかと聞いたら、金貨を持ち歩くのはそれだけお金持ちなんだから人を雇って運ぶから問題ないとのこと。あと大硬貨っていうのがそれぞれの10枚で大硬貨になる。
あと必要なのは薪か。その辺の木を風の魔法で切って、持って帰る。乾燥もしておこう。家に戻ると空間倉庫から全部を出して、動物をまず吊るす。次に薬草をある程度の束にして吊るしていく。この紐なんであるんだろう?グリじいの家にあったのと同じ・・・持って来ちゃった。ごめん。丈夫で何度も使えるから便利。有り難く使わせて貰います。返しに行くのはたぶん無理。
肉の硬直具合を確かめながら、お昼のスープの用意を始める。石鍋に水を入れて温める。物がないから食べるものに困るかな?今は夕食用の肉があるから、香草と一緒に焼けば美味しく食べられる。お昼はごまかして作る。保存のきくような食料も作っておかないと空間倉庫から取り出してばかりでは、怪しまれる。あとはお金を稼ぐ手段を。ローポーションまでなら作って売っていいとグリじいに言われている。ローポーションは教えてもらえば出来るから。それ以上になると、スキルと年数がいるらしい。スキルを与えられたら作ればいいって。
草の上に木の皮でも敷き詰めよう。また森の中に入っていく。人に見つからないうちにささっとやってしまおう。風魔法で木と皮をなるべく薄く意識しながら剥いでいく。これって薄い板のようになる。さわると簡単に曲がる。よし、これをたくさん作って、ベットに乗せよう。これでよく寝られる。
持ち帰って、草の上に乗せて準備はよし。普通のベットとか、せめて布と中に詰める綿なんかがあれば、糸と針も欲しい。欲しいものはたくさんあるのだけど、誰かに売ってもらわないと難しい。しばらくはこのままで、帰ってきたのを実感しよう。離れていても戻ってくると懐かしい。母さんはもういない。村から離れて、大変じゃなかったのかな。家がここだから疑問にも思わなかったが、近い方が安全な気もする。魔物が来たらどこでも一緒かな。
新しい生活を始めて数日たった。掃除したり、食事の材料を狩りに行って香草や薬草を集める。薬も調合していく。石をくり抜いた瓶に入れておく。
「誰か来たぞ」
珍しくウィットとズワルトが出てくる。いつもどちらかしか出てこないのに。殺気が混じってる。
「誰かおるんか?おるんなら出てこい」
聞き覚えのある村長の声がする。扉を開けて外にでる。
「お、おまえ、誰じゃ?面影が。もしかしてランスか?ウルフに追いかけられて死んだんじゃ」
「死んだと思ったよ。死にかけたところを助けてもらって、そのあたりの記憶はないんだけど。助けてもらった人に親がいないから色々教えてもらってた。だから帰るのが遅くなったんだ」
「それなら、帰って来たって言いに来い。村じゃ、流れ者でも住み着いたんじゃないかって心配しとったんじゃ。ランスが戻ったんならよかったわい。ところでそのウルフは?」
「人は襲わないし、狩りの手伝いをしてくれるんだ。いいでしょう?」
後ろの大人達は鍬や鎌を持って厳しい顔をしている。
「狩りが出来るんか?」
「うん。教えてもらったんだ。ちょっと待って」
鹿の足の部分を持ってくる。
「おお、立派なもんじゃ。うむ。雑貨屋の婆さんはわかるか?」
「知ってる」
「あまったらそこに持って行け。買い取ってくれる。あとな、ここで暮らすんなら危険な魔物や動物が来るじゃろう。そういうもんを狩れるんなら婆さんには色をつけてもらうようにするが、どうする?」
出来れば家の中に隠れていたい。わざわざ危険なことをしなくても。森には近いけど。なんで僕が危険な魔物とかと?
「まだ職業ももらってないのに無理だよ。狩りはねらう方だけど、襲いに来るのに対処するには武器もそうだけど、道具もいる。用意してくれるの?不意打ちに対して用意もなしにやれって言うのは、そのままウルフの群を倒せって言うのと同じだよ。できるの?僕は出来ないよ」
「無理ならばいい。狩りをしてくれるだけで村は十分だ。出来る人間がおらんでな。流れの狩人か村に定期的に来る行商からしか手には入らんのでな。村で出来るものとも交換は出来るじゃろう」
せめて、剣がほしい。二束三文の安いものでいいんだけど。低級の魔物なら、対処できる。
「皮は捨てるのか?」
「なめすのってよく知らないから捨てるかな」
「雑貨屋のじいさんに持って行ってみい。久しくやっとらんから、耄碌しとるかもしれんが、昔はいいなめし職人じゃったから革に出来るかもしれん。ともかく、よう生きて帰った。ちょくちょく誰かの所には顔を出せ。ええな」
「うん」
村人の視線は足の肉に集中していた。僕のいた頃も肉は高級だった。だいたい乾燥した肉の塊で、生肉なんて、ケガをした猪なんかをたまたまとれたとか、そんなレベルでほとんど村では食べられない。お祝いとかで奮発してやっとかな。夕日が落ちて薄暗くなっていく。
村長達は帰って行く。中に入って火の魔法で薪に火をつけると部屋の中はオレンジ色にうっすらと染まる。今日は肉の香草焼きだな。塩とかのシンプルな味付けでもいいんだけど、物がない。雑貨屋にある物で少しづつ充実させていこう。薬の瓶は高いのかな?グリじいが持っていたものしか見たことがない。作れるぐらいの薬草は揃った。乾燥はもうちょっとかかるけど。普通の薬から始めよう。雑貨屋のばあちゃんに必要そうな薬を聞いてみよう。ちょっとはお金になるといいな。そしてベットを買うぞ。
ほしい物が頭の中をぐるぐると思いついては消え、考えては思いついては消える。寝られないな。でも何とか生活は出来そうだ。
遅めに起きて、肉の整理をする。皮と肉をまとめて、売りにいこう。自分の分を隠せる場所が無いんだよな。戸締まりが出来ないから、まる見えで薬草も心配だし。木を切り出してきて、窓にはまるようにする。隙間は土で埋めて簡単に外せないようにした。念のため石を刺す。戻ってきたけど、いた頃は厄介者として扱われていた。親もなく職業もまだかかる。いないならそれでいいって感じ。だから生きるために奪われないことは大切。鍵はなるべく早めにつけないとね。布団と鍵は早急だね。他にもスープの材料や調味料が欲しい。調味料は高いからいつかは欲しい。外にでると扉を土で盛り上げて、開かないようにする。鍵が買えるまではこうしよう。
川が中心に通る集落の中に入っていくと好奇の目で、こっちを見ている。雑貨屋が何でも屋みたいになってるから、置いてある物の販売から取り寄せまでやっている。
「肉を買い取って欲しい。皮は売れるの?」
「皮はじいさんだね。肉を見せてもらうよ」
肉を渡すとじっくり吟味するように観察している。肉をそんなに見ても変わらないよ。処理もちゃんとしてる。
「いい肉だね。干してないのは久しぶりに見たよ」
「そうなの?いくらぐらいになる?ジャガイモとか麦とか買えるかな」
「そりゃ買えるさ。ここでは肉の方が価値が高い。皮はよくわからないがね」
気難しそうな眉間にしわを寄せたじいさんが奥からやってきた。一直線に皮を手に取る。広げて真剣に審査している。
「いい皮じゃ。丁寧に剥ぎ取ってある。もっとあるのか?」
視線が鋭く突き刺さる。ちょっと恐い。
「きょ、今日は持ってきてないよ。次に来るときにある分はもってくるね」
「そうか、もっとあればなめしにかかろうかと思ったんだが。それはそうとどこから持ってきたんだ?まさか盗んだわけじゃないだろうな、ランス」
「ち、違うよ。自分で狩った動物の皮だよ。村長が革なめしができるって聞いて持ってきたんだ。帰ってきたばかりでベットの中や布も買わないといけないからお金になるかも知れないと思って。生活に必要な物が足りてない」
「そうか、なめしが出来ればお金になるぞ。どうだ、やってみんか?もう、あと何年できるかわからんから、教えられることは教える。それに、狩りが出来るぐらいでないとなめしに必要な物を取りに行けん。村のもんは森の中に入らんから材料を買うしかないんじゃ。それでは革を買うのと変わらない。使えることが多いから、作れる者がおって欲しい。今は高い革を買うしかないからのう、生活魔法も使えるように教えよう」
じいさんの熱意がなめしにこもっている。自分の技術を伝えたいと戻ってきたばかりの僕に言う。習えば出来るかもしれないけど、他にもやりたいことはある。手間に似合うのならいいけど、だめならどうしよう。
「やってくれるというのなら、ワシが使っておった道具類は譲ろう。どっちにしろ使うこともなく捨てるなら使ってくれそうな者に渡した方がいい」
自分でそろえるとなると高くなるのかな?グリじいのところでは道具とかは自由に使って良かったから、やりたいことができたけど狩りぐらいしかできない。食べることはできるし、戻ってきたばかりであれこれそろえることなんて出来ない。職をもらってしまえば、スキルが出来たって言えばいいらしい。職ってあまり知られてないけど、自然と補正してくれるものらしい。だから、その職に関するスキルは取りやすく、レベルアップしやすい。グリじいは後天的にスキルから職が発生して賢者になったようだ。努力してなるのはすごくて、元々職を持ってる人の何倍も努力して勉強してスキル発生させてレベルを上げないといけない。なので、敬意を込めて大賢者と呼ばれているのだ。グリじいは有名ですごい人なのだ。ティワズも武神と呼ばれるほどに強く、いろんな武器に精通しているのだけど、強すぎてパーティーとか組めずに困るそうだ。僕も2人に追いつけるようここから頑張らないと。
「どうするの?生活魔法はなんとか使えるんだけど」
「そうか、ならば皮とあと必要な物があるから山から取ってこれるか?危なくて入れんのだ。村のもん総出で行くわけにもいかんからな」
何を取ってこいと言うのだろう。難しければ断ろう。
「大きな栗の木が山の中にあるはずでな、大きいのを切ってきてくれんか?」
「大きいのを?無理無理。持って帰れないよ。小さくしても行き帰りの回数がいるよ。栗の木がどこにあるのかもわからないのに、取ってこれないよ。探すことは出来るけど、切ったり持ち帰るとか、出来ないからね。切るだけでも大変そうなのに」
「オークの木は無理か?」
「だから、持って帰れないって」
空間倉庫のことを知られるわけにはいかない。空間魔法の一種で、使える人が魔法使い達になるが便利な荷物置き場ぐらいにしか思ってないらしい。空間倉庫だけじゃなく他の魔法が使えるから、冒険者や研究者、宮廷に仕えていたりして、持っているだけで一儲けできるらしい。グリじいの話だから間違いはない。
「そうか、無理なら仕方ない」
なめすのは諦めよう。布や綿なんかでベットはできる。靴はまだ貰ったものが使えるからいいか。ジャガイモや麦を買って、調味料を少しだけ買えた。他の物は食べるものがきちんとしてから。家に帰って、暖炉に火を入れる。火の光が暖かく迎えてくれる。ジャガイモはふかしてちょっとだけ塩をかける。大麦と小麦の袋を置いて、ジャガイモを肉入りスープと一緒に煮て食べる。この村では一番の高級スープに仕上がっていると思う。今日は奮発してたくさん食べた。お腹いっぱいだ。明日はパン作りの準備をしていこう。狩りに行かなくていいかな。
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