第3話ただ一つの太陽と君

「太陽はさ、本当にひとつなのかな」

蒸し暑い図書室で作業をしていると彼女が突然そんなことを言い出した。彼女が口にすることは大体ぶっ飛んでる。

「何を言ってるの、君は。授業で習わなかった?」

「習ったけどさぁ。君は授業の内容を鵜呑みにするの?」

「逆に君はしないわけ?」

僕がそう煽ると彼女はすねたように視線を下げた。苛め過ぎたかな。そう思ったとき、彼女がまた口を開いた。

「で?君はどう思うの?」

「くだらない。」

僕は席を立ち、使っていた本を本棚にしまった。

「ちょっとー!さては、いつもより不機嫌だな?」

彼女は席を立って僕の顔を覗き込んだ。僕はその顔の近さに思わず顔をしかめる。

「ふふっ、やっぱり不機嫌だ」

「別に不機嫌なんかじゃない。」

僕は顔をそらして席に戻った。どうやら彼女は僕の意見を聞くまで納得しないらしい。

「はぁ・・・君は一人?」

「ん?一人じゃないよ、君がいる。」

君は不思議そうに言った。どうやら僕の質問の意図がわかっていないらしい。僕は諦めて教室を出た。すると案の定走って追いかけてきた。

「君はよく私を置いていくよねー」

「君が勝手に置いて行かれてるんだ。それに君が訳のわからない事を言うからだ。」

彼女は文句を言いながらも実際は余り気にしていないようだった。ニコニコといつもの笑顔を浮かべながら歩いていた。

「君という人間は一人しかいない。君は太陽みたいなものだ。つまり・・・」

「つまり?」

「太陽は一つだ」

彼女は哲学的な話がしたかったわけではなかったらしい。彼女は「そっか」とだけ言った。少し彼女の顔が悲しそうに見えたのは気の所為だろうか。


彼女は太陽のようだ。太陽は一つしかない。たった一つの太陽が、この世界を照らしている。太陽は疲れてしまわないのだろうか。もし、太陽が疲れるのであれば彼女も疲れるのか。


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