第2話青空とキライな夏

夏は嫌いだ。暑いし疲れる。何もしてなくてもどんどん体力が奪われていくからだ。

「いやぁ!今日も暑いねー!空に雲ひとつもない!」

今日も彼女はニコニコと笑いながら僕の右側を使い古されたスクールバックを振り回して歩いていた。

「君は相変わらず元気だな・・・。羨ましいよ」

「ふふっ、君はいつもにまして不機嫌だね」

僕は少し苦笑いしながら彼女の半歩後ろをゆっくりと歩いた。 

帰りがけに自販機で買った安っぽい缶のサイダーを飲み干し、空になったことに小さく舌打ちをした。

彼女は僕の舌打ちに気付いたのか、少し不思議そうにこっちを見た。

「ごめん、ゴミ捨ててくる。」

「あっ、ついてくよっ」

彼女は少し遅れて小走りで追いかけてきた。

「ねぇ、それ、貸して」

いきなり指を指され、一瞬戸惑ったが、空き缶のことだと気づいた。

「これ?いいけど」

手渡すと、ゴミ箱から少し距離をとってゴミ箱に向けて缶を投げた。缶はキレイな放物線を描いた後、少し残っていたサイダーが零れたと同時にカランと音を立ててゴミ箱に吸い込まれた。

「やったぁ!見た!?見てた!?」

彼女は飛び跳ねながら満面の笑みを僕に向けた。

「ナイスシュート」

僕は微笑み、公園から出た。すると彼女はあー!また置いてくのー!?と言って慌てて付いて来た。

僕に追いつくと、置いていかれたことなんて忘れたように話を変えた。

「空ってさ、なんで青いんだろうね。君は知ってる?」

「別に、青くないよ。空は青くない」

僕がそう言うと彼女は不思議そうに、でも驚いたように、目を丸くした。

「え?青いじゃん。君は青く見えないの?」

僕は優越感があった。気分が良くなり、少し笑って歩きを速めた。

「ねぇっ、どういうこと?」

彼女は知らない事が不服なようだが、少し楽しそうだ。好奇心旺盛だな。

「人間が1番色として見えやすい、吸収しやすいのが青なんだ。だから、空や海が青く見えるのは青いからじゃなくて青く見えるような目の構造をしてるからさ。んー…青の光が散乱するから…とも言えるかな。」

僕が得意気に話すと君は一気に興味を無くしたようだ。どうやら話が難しかったらしい。

「ふぅん…君はなんでそんな事知ってるの?」

「さぁ、なんでだっけ。忘れた。」

「えぇ〜!なんでよ〜!思い出してよ〜っ」

彼女はまた普段の笑顔に戻った。

僕は最初、夏が嫌いだと言った。…でも、案外悪くない。ギラギラと輝く太陽が笑顔の彼女に見えるからだ。


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