第1話守りたいもの
「人は死んだらどこに行くんだと思う?」
夏休みの教室、
彼女はいつもの笑顔のまま笑顔で語るにはふさわしくないことを言った。
「さぁ?天国にでも行くんじゃない?」
僕はいつも自分が座っている席に乱暴に座り、頬杖をついた。すると彼女は席から立ち上がっていっちょ前の教師みたいに教卓に手をついた。
「一つ、授業をしようか。」
「?」
彼女の顔から笑みが消え、視線が下がる。どうやら真面目な授業らしい。僕は少し姿勢を正した。
「もし、私が死んだら生きてたってことがなくなってしまうのかな。」
「は?」
一瞬、言っていることがわからなかった。君がそんなことを思うのか。
彼女は何かを願うような目で笑みを浮かべながら僕を見た。僕は授業だという設定を崩さず、挙手をした。
「お、
「君は馬鹿だと思う。」
僕は彼女をまっすぐ見て言った。彼女は僕の答えに不服なようだ。馬鹿じゃないもん。と頬を膨らませた。
「いいや、君は馬鹿だ。だって、君が死んだって生まれたことが消えるわけじゃない。それに・・・」
「それに・・・?」
僕は言おうとしていたことをやめ、席を立った。
「ねぇ、ちょっと。」
僕が教室を出ようとドアを開けると彼女は慌てたように使い古された自分のバックを取り、ついてきた。
「君は猫みたいだね」
昇降口に向かう途中、彼女は僕を追いかけながら笑い、言ってきた。
「じゃあ君は犬だ。」
僕は振り向き、笑ってそう返した。
無言のまま校門を出たところで僕はさっきの続きを話し始めた。
「君が死んだって生きた証拠なんていくらでもあるさ。例えば・・・僕の記憶とかね。」
彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「君は面白いねー」
・・・?僕のどこが面白いのだか。面白いのはむしろ彼女の方だろう。僕はニコニコと笑っている彼女を見て言った。
「君は人生が楽しそうだな。いつも笑ってる。」
彼女はキョトンとした顔をしたあと大声で笑い出した。
「あっははっ!やっぱり君は面白いよっ」
「はぁ、君のツボがよくわからない」
僕はため息をつきながら早足で歩き出した。
「あっ!ちょっ・・・」
「君はほんとによくわからないよ。結局君は何がしたいんだ。」
僕がこう言うとせわしなく僕を追いかけていた彼女の足音がいきなり止んだ。
「そうだ、それ言ってなかったね。授業の途中だったじゃん。」
どうやら授業を再開するらしい。授業ではないような気がするが。
「私はね、死んだら星になりたいんだ。生きてる間は君の虹で在りたいと思ってるけどね。」
虹の後は星になりたい、か・・・なるほど。
「今の君は虹じゃないよ。太陽だ」
「ほぉ、君は良いことを言うね。じゃあ君は月かな。」
月と太陽か・・・運命共同体みたいだ。太陽がなければ月の存在が地球まで届くことはない。自転の関係を考えれば太陽にとって月は必要だ。彼女にとって僕が必要だということなのだろうか。君にそのようなことを言われると(言われてはないけど)気が狂う。
「よしっ!これで授業はひとまず終わり!」
どうやらこれで彼女の授業は一旦終わったらしい。
僕にとって彼女は太陽だ。僕はこの太陽を守りたい。
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