4年前の10月

 原因は、社会人一年目。社内イベントの運動会でのことであった。


 新卒で入社したその会社は、いわゆる「アットホームな会社」というやつで、やたらと社内イベントが多く、運動会もその一つだった。

 新入社員であった私は、下っ端としてそのイベントの準備に駆り出され、会場の下見や予約、競技の考案、全社員分の昼食の手配など、仕事のようでそうではないような雑務を昼夜なく行っていた。

 運動会当日は快晴に恵まれ、10月初旬とは思えないくらいの日差しが、会場であるグラウンドに降り注いでいた。

 司会進行を任されていた私は、「普通の恰好じゃつまらないでしょ」という先輩の一声で、アニマルプリントのワンショルダーワンピース(漫画に出てくる原始人の恰好をイメージしてもらいたい)を着て、全社員の前に立つこととなった。

 社員たちから微妙な笑いを含んだ目で見られ、一日中メガホンを持って声を張り上げるその業務に、追加で手当が支払われることはなかった。

 そして、そのときにくっきりと残った日焼けのあとと、目の周りに散ったソバカスに、労災が下りることも、もちろんなかった。


 これが直接の原因というわけではないが、他にも諸般の事情があり、その会社は退職。転職した今は、そのときからは想像もできなかったくらいに余裕のある生活を送ることができている。


 しかし、あの地獄の運動会から4年弱が経った今でも、腕の日焼け跡状のシミと、顔のソバカスはくっきりと残っている。


 余裕のある生活が続くと、ブラック企業勤務時は気にしていなかったこの負の勲章が、やたらと目につくようになった。

 きちんと化粧をするようになると、嫌でも目に飛び込んでくる、薄茶色の点々。一つ一つコンシーラーを使って潰していると、当時のことも思い起こされ、物悲しい気持ちが込み上げる。


 思えばあのときは日焼け止めを塗る暇も、紫外線対策を考える余力も奪われながらタダ働きをさせられるという狂気の沙汰であったのだが、今は違う。


 これからの私の動きが、当時のかわいそうな新入社員の私を救うことになりはしないのだが、がむしゃらに働いた自分自身を労わってやりたいような、そんな気持ちも重ねつつ、アラサーに差し掛かった私は紫外線対策に本腰を入れることにした。

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