第34話
教会に入るとより腐敗臭が強く漂っていた。
それにあの嫌な雰囲気もする。
本能がここから逃げたがっているのを感じた。
「やぁやぁ、これはこれは珍しいお客さん。よくぞここまでおいでで。ここはあなた方がくるようような場所ではないのですよ。においもつらいでしょう。ここまで来た頑張りは認めますが、さっさと帰ることをおすすめしますよ。」
笑みを浮かべながら俺とカミゴを迎え入れるようにして出てきた黒いローブを着た女性が出てきた。
笑ってはいるが目までは笑っていない。
笑顔とは本来は威嚇の象徴だとどこかで聞いたのを思い出した。
恐らく邪神の手下だろう。
俺は警戒を強めた。
「帰るとでも思ってるのかしら?」
カミゴが大きな口を開き威嚇する。喉の部分にはもう火が到達していた。
「ははっ。ここが正念場だ。いくぞお前達!!」
ローブの人が声をかけると、陰に隠れていたのか何人かが出てきた。
鋭利な刃物が光り、魔力が込められるのを感じた。
集団戦慣れしていないので何をやればいいのか分からないが、とりあえず先に動かれたら負けだろう。
人を殺すのは初めてだが、殺すつもりでやる。
手に魔力を込めて歯を食いしばるようにして力を込める。
後で後悔することがないようにと全力を出した。
「フリーズ」
全身から魔力が急速に抜ける。
辺りに蜂蜜を気化させたような濃い魔力が一瞬にして広がると、離散した魔力は粒となり辺り一帯を氷河地帯へと変えた。ノアに魔力に飲まれて邪神教の教徒が大きな氷塊となった。氷の透き通った部分から透けて見えるのはは、意気揚々とした憐れな表情だった。ノアの魔力に反応すら出来ていなかった様子だった。急激な温度の変化に耐えられず作られた氷塊が瓦解する。辺りに氷が飛び散った。
カミゴもノアの魔力に巻き込まれ下半身が氷漬けにされる。
下半身が粉々にされては堪らないと、口からのブレスで急いで氷を溶かす。
カミゴは呆けたような表情をした。
「……あなた邪神より強いんじゃないかしら? 邪神以外だったら間違いなくあなたが一番の危険人物よ。敵じゃなくて本当に良かったわ。」
「ハハッ。早く次に行きますよ。りゅーちゃんを早く助けに行かないと。」
「そうね、ここで大半の僕は倒した筈だし早く行きましょう。」
カミゴを誘い教会の奥へ向かう。
薄暗くてよく見えないが教会の壁には子供の死骸と思われるものが敷き詰められているようだった。オブジェとして置かれているのだろうか。本当に下種極まりない宗教だな。
死んでしまった子供達を可哀想と思うのに加えて、酷い吐き気がした。手を重ねながら、イレイスを使って亡骸を消去した。どうか安らかに眠ってくれ。
不思議と亡骸が感謝を言っているように感じた。
少し歩いて装飾の施された丈夫な扉に辿り着いた。
中でなにか物音がする。
濃密なあの化け物の雰囲気が扉から溢れ出ていた。
恐らくここが儀式の行われているところだろう。
扉を開けた瞬間に隙をついて部屋の中から魔法を使われたら嫌だなと思うと、カミゴが何も考えてない様子でブレスを吐いて扉を壊した。部屋の中身が明らかになる。
「りゅー!!」
「お母さんっ!!それにまーくんも。」
鉄の檻のようなものでりゅーちゃん、キャーロットそれにマロンが閉じ込められていた。キャーロットと聖女のマロンもここにいたか。キャーロットが俺に気付いたようで、どうしてという表情をする。俺はどういう顔をすればいいか分からずとりあえず笑っておいた。
部屋の中央の場所にはあの嫌な気配を発生させている鍋のようなものが見られ、さっき凍らせたローブと同じローブを着た人が鍋のような物を守っていた。こちらに親でも殺したのかというような視線を送りつけてくる。守っているような素振りを見るにあれはかれらにとって相当重要なのだろう。
興味深いことにその中には見かけたことのある顔ぶれがいた。
ランネ先生?
ダンジョン攻略の時から疑っていたが、ランネ先生は邪神の下僕なのだろう。
そういえば、あの化け物が出てきたのもダンジョンだったり学園だったりランネ先生が関わった場所にしか現れていない。となると、あの化け物はランネ先生が生み出しているのか?
下手なことはされては堪らないと先程のように魔法を唱えようとした瞬間、脳に誰かが話し掛けた。
『まぁまぁ落ち着くがいい魔王よ。私は邪神だ。そこの龍に騙されているようだが、お主は私の仲間だ。魔法を止めよ。』
頭がおかしくなりそうな聞いたことのないような汚声。あまりの気持ち悪さに声の持ち主を殺したくなる。
カミゴを見るに俺にしか聞こえていないようだった。
今すぐにでも倒してやりたいと思ったが、俺の味方と言っている。どういうことだ。
言うことを聞くのは癪だが魔法を直ぐに放てるところで止めて、魔力の放出を止めた。
「何やってるの!? 早く魔法をーーー」
『そこの龍に何を言われたのかは分からないが、そろそろこの世界の転換期が訪れなければいけないのだ。ここ数百年間は人類が発展してきたがその分魔物は衰退していた。これからは人類の代わりに魔物が発展しなければいけないのだ。人類と魔物という相容れない存在が共に存在する世界において一方の存在だけ発展が許されるなんてなってはならないだろう? だから、私はこの世界に復活しなければいけないのだ。協力しろ魔王。』
こちらを勧誘する邪神。
こいつの言うことが本当ならこいつにも正義があって復活するということになる。人類からしたら最悪でどうにかして倒さなければいけないのだろうが、魔物の立場からしたら救世主だろう。
しかし、なんだこの気持ち悪さは。
こいつの言っていることを嘘とは現状だと言い切れないはずなのだが、どうしても信じる気になれない。誰かに無理矢理信じこませられているような。なんだこの違和感は。
そこで俺は一つの仮説が思い浮かんだ。
ひょっとしてだれかに印象操作の魔法でも使われているんじゃないか? 無理矢理自分の考えとは違うことを考えようとしているからきもちわるくなるんじゃないか?
ローブの方をちらりと見ると、その場に立ち止まって何もしていないように見えてよく見ると口が少しばかり動いていた。何か魔法を俺にバレないようにしようしているように見える。俺の仮説はあっていて俺は何かしらの魔法を受けているのかもしれない。
リフレッシュを唱えて、自分に掛かっているだろう状態異常を解放した。
こ、これは!?
ノアが驚愕する。
その様子にランネが顔を歪めた。
復活していないのに邪神が存在する筈がない。
万が一の時が来た時に相手を洗脳しようとするため、ランネが邪神のフリをしていただけだった。
魔王の力には状態異常などで工作しなければ勝ちようが無かったので、工作がバレてしまった以上負けが決まったようなものだった。
負けるのが確定したとしても、もしかしたらにすべてを掛けて魔王に対抗するしかない。
勝利が絶望的な戦にいくようなものだった。
悔しそうに吐き捨てるように仲間に口を開いた。
「クソっ、洗脳魔法が上手くいかなくて色々と状態異常を掛けていることがバレた。こうなったらやるしかーーーー」
言い終わる前にりゅーやキャーロット、聖女を避けて辺り一帯が凍り付く。
壺もノアの魔力に巻き込まれて無事に壊された。
こうしてりゅーの奪還と邪神の復活を防ぐことが終了した。
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