第33話
俺はりゅーちゃんのお母さんに乗って、りゅーちゃんが攫われたという場所へ向かっていた。
何かあったのか、お母さんが移動しながら首をこちらに曲げる。
「そういえば、ドラゴンっていうのやめてくれるかしら。私は龍なのよ。あんな奴等と一緒にしないで頂戴? 」
「あ、はい。」
「私のことはカミゴと呼んで?」
「はい。」
こんな緊急事態だというのに言いたいことはそれかと思ったが、意外にも気にしている様子だった。
あんな奴等とはドラゴンのことだろう。
口ぶりからして龍とは違ってドラゴンも存在しているってことだよな?
……にしてもカミゴっていうのか。覚えておかないと。
ついつい本当のドラゴンはどんな見た目をしているのかと気になったところ、急に世界が止まる。
慣性で吹き飛びそうになるのを必死に鱗を抑えて耐えた。
危なっ!
止まるなら声でも掛けてくれればいいのに。
文句でも言おうと思ったが、龍の敵意の込められた声に喉の手前で止まった。
「敵よっ。」
「ーーっ!! どこですか?」
「前方三キロメートルくらい先よ。何か罠が仕掛けてあるかもしれないわ。魔法で調べてくれない?」
「了解です。」
敵はどこだと思って前を凝視してみると、はっきりとは分からないが黒いなにかが動いていることを確認した。
あれが敵か。
敵はこちらが気付いたことに気付いたようで、逃げて行く。
方角はカミゴが向かっている方向だった。
前方三キロメートルくらいの辺りを魔法で異常がないか調べると、カミゴの言った通り異様な気配を感じた。
近付くのを拒絶するような、邪悪で禍々しい雰囲気を持った糸のような物が蜘蛛の巣のように空中に張り巡らされている。遠くから探知しただけというのに吐きそうになった。糸から溢れ出ていた雰囲気はあの化け物が放っていた雰囲気と少しばかり似ていた。
異様な雰囲気に化け物を思い出し、自分が相対する敵の強大さを思い知らされた。
よくよく考えたら、あの化け物より強い奴と戦うんだよな。
果たしてこの俺に倒せるのか?
少しばかり不安がったノアを見てか、カミゴが声を掛けた。
「何を畏怖しているのかしら? あなたは魔王なのよ。あんなのあなたの魔法の前では、どうってことないわ。イレースと唱えて頂戴。」
『イレース。』
言われた通りにそう唱えると、忌々しい雰囲気が完全に消え去った。
恐らくイレースという魔法の効果だろう。
自分でやっておきながら簡単に消せたことに、ほんの少しだけ呆気なく感じた。
それに、何とかなるという自信も。
大した魔力も込めないでイレースと唱えただけで取り除くことが出来たので、この調子で魔法を放っておけばどうにかなりそうだと思える。
「……まさか一瞬で消すとは思わなかったけど、今回の魔王は前と比べて年帯びているから強いのかしら。状況は前よりもヤバいけど、何とかなりそうね。」
「何て言いました?」
「聞こえていないならいいのよ。イレースて消し去ったなら、早く進むわよ。」
ぼそぼそと言っていたので聞こえなかったが、特に重要な内容でも無さそうだったので追及するのはやめた。
止まる前までの勢いで何十分と進むとどんよりとした雰囲気の街に辿り着いた。昔は栄えていたのかもしれないが、全体的に閑散としていて人は住んでいなさそうだった。そこの中心の所に古びた教会のような場所が見える。
壁は土埃で汚れ、所々に破損しているか崩れているところがあった。人なんていないように見えるが、こそこそと動く人影が見える。ここが敵のアジトだろうか。
「邪神の復活が行われているというのは、あの教会ですか?」
「恐らくそうよ。あれは邪神を祭るとかいうふざけた教会なの。私が眠る前に壊した筈なのに、気が付いたら再利用されているわね。」
あそこにりょーちゃんが。
そういえば邪神の復活には王族も必要と言っていたが、もしかしてキャーロットも攫われているのか?
嫌な想像を膨らませながら、教会に近付いた。
協会に近付いたとこで、カミゴが翼を下ろす。
鱗から地面に飛び降りる。
空の旅は爽快感があったが、恐怖も強かった。やっぱり人間だし、普段は地面に足を付けたい。
まず気になったのは腐敗臭のにおい。
死骸がそのまま放置されているのか疑うくらい強烈な死の臭いがする。前世旅行で一週間くらい常温で放置した豚肉の匂いがする。あの時は家中に豚肉の腐敗臭が広がっていて最悪だった。臭いが抜けるまでホテルを借りたのを思い出す。
「邪神は死を好むの。だから、達にとって最悪なにおいでも、邪神にとってはどんな香水よりもこのにおいがいい匂いな筈よ。イレースでどうにかならない?」
「やってみます。」
イレースを放つと腐敗臭も消せるのか、すっと辺りに広がっていた腐敗臭はなくなった。
しかし、すぐまた腐敗臭が漂ってくる。死骸が辺りに放置されているのかもしれない。魔法で消しても死骸があるならいたちごっこになりそうだった。
「……とりあえず臭いは我慢するしか無さそうね。それじゃあ、教会に私の娘を取り返しに行くわよ。」
敵のアジトに潜入することにした。
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