第31話

 


 第二試験が終わり、家の中で休んでいたところ。

 突然聞いたことのある声が聞こえた。


『お願い。助けて。私の娘が攫われたの。』


 娘?


 ……あぁ、りゅーちゃんのお母さんか。

 って、え?


 りゅーちゃんが攫われた?


『何があったんですか? りゅーちゃんが攫われるなんて。僕は何をすれば。』

『繋がった!! えっと、転移は使えるかしら。転移が使えるなら転移を使って頂戴。私が無理矢理転移の場所を書き換えるわ。』

『分かりました。』


 状況はよくわからなかったが、りゅーちゃんがピンチなのは分かった。

 俺は急いで転移を唱えた。


 ……これでいいんだよな。


 転移を唱えたのに転移が起きる気がしない。

 もしかして失敗したのかと思ったら、気が付けば転移が発動していた。



 暗闇の部屋。

 真っ暗で何も見えない。

 ただ密室という訳ではないようだ。微かに風が通っているのを感じる。


 もしかして、あのお母さんに騙された?


 逃げようと転移の準備を始めようとすよると、突然松明がついた。

 暗くて見えなくなった周囲が見えるようになった。



 どうやら俺が転移をした場所は、祭壇だったらしい。

 周りには花が生き生きと生えており、中央には荘厳でどこか神秘さを感じる龍を写したような像が中央に飾られている。

 ここは龍を祭っているのだろうか。


 しばらく辺りを観察していると、奥の方から影が近付いてきた。


「来てくれてありがとう。時間が無いの。とりあえず説明をするわね。」

「え、ええ、ドラゴン?」


 奥からやって来たのはドラゴンだった。

 アニメじゃない、イラストでもない、生きとし生ける本物のドラゴンがやって来た。

 ごつごつと堅そうな鱗に巨大な体が覆われている。鱗の隙間からは濃密な魔力がひしひしと漂っていた。

 めっちゃ強そうだし、格好いいな。



 恐らくりゅーちゃんのお母さんだよな、このドラゴン。

 ってことは、りゅーちゃんドラゴンだったのか。

 人に変身できるんだなドラゴンは。

 

 魔法は効くだろうか。

 どんな触り心地なんだろう。硬いのだろうか。

 どんな技使うんだろう。ブレスとかやっぱり吐くのか。


「いろいろと考えるのは後にしてくれるかしら。今はそんなに暇じゃないの。」


 口から吐かれた大きな火の玉がほんの少し前に放たれ、地面を焦がして消える。

 怒ってるよなこれ?

 ブレスかっこいいと思ったが、状況が状況なので興奮を抑える。

 

「ごめんなさい。」

「分かってくれればいいのよ。とりあえず、今から簡単に説明をするわ。」


 お母さんの話を纏めるとこうだった。


・俺は魔王である。

・魔王と龍族は協力して邪神を倒すもしくは邪神の復活を防がなければいけない。

・魔王と龍族でないと、邪神は倒せない。

・現状邪神は復活してないが邪神のしもべが邪神の復活を進めており、殆ど邪神復活までの手続きが完成している。

・邪神の復活には、人類の王族、聖女、龍、それ以外の多くの命が必要。それらは全部揃っていて、期限は後三日くらいしかない。


 どんなハードモードですかこれ?


 俺が魔王だったことに凄く驚いたが、それよりも今問題視しなければいけないのは俺と龍は相当ピンチだということだ。話が急展開過ぎて全部は理解できていないが、魔王と言われたことはしっくりときた。俺には魔王の素質があったのかもしれない。

 

 こんな凝った嘘を言える筈がないだろうし、恐らく話は本当だろう。

 りゅーちゃんが俺のことをまーくんと言っていたのも、俺が魔王だったからかもしれない。

 


 疑問は尽きないが、お母さんの指示に従おう。明らかに俺では情報が足りない。

 



「今から私の娘を取り返しに邪神の祭壇に行くわ。邪神の祭壇で今まさに邪神召喚の儀式が行われてるはずなの。そこに私の娘が居る筈よ。場所は検討がついているわ。」

「分かりました。」

 

 がっしりとした体をぶれる様子なく地面に膝をつくと、背を向ける。

 紅色の瞳がこちらを見つめた。


 これは、乗れということだろうか。


 背中に近付いてみると、伏せられていた翼で掬い上げられる。

 思わずおおっと声を上げると、龍は溜息のようなものをついて振り払うように背中の上にノアを落とした。


 痛っ。

 でも、思ったほど痛くない。


 鱗はごつごつとしていてバランスが取りづらく、落ちないようにしがみついた。



 ノアは魔法を初めて使った時のような高揚感を覚えたが、今の状況を思い出しすぐにその感情を押し殺した。


「それじゃあ行くわ。落ちないようにしっかり掴んでいなさいよ。」

「はい。」

 

 龍が子を救う為に祭壇へと飛び立った。

 

 


 

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