第30話

 広々とした闘技場に、生徒が散らばって待機していた。

 多くの生徒は、ダンジョン探索で大活躍したという、ノアに向けていた。好奇の目や嫉妬のような目、恨んだりする目など雑多の目がある。


 第二試験の開始まで、後一分といった頃のときだった。



「大変待たせてしまって申し訳ございません。それではただいまより、第二試験を開始します。最後まで残れなかったとしても問題はありません。審査員は皆さんの魔法や戦闘センス、技術などを確認するため思う存分闘って下さい。」


 審査員の一人が言い終えたのと同時に、右手に持っていたコングを鳴らした。

 コングと同時に、多くの生徒がノアに接近しようとノアのいる方向へ走り出した。


「気づいてたけど、やっぱり俺狙われてるよな?」

「だって、あんなに活躍したノアを倒したり追い込んだりすれば注目されるでしょ? 名を上げるならいい的よね。」

「適当に戦って降参する予定だったのに、俺の計画が。……あ、でも方角だけなら、マホの可能性もあるか。」

「あるわけないでしょ。まぁ、頑張りなさい。」

「はぁ。」


 

 意気揚々と近くにやって来た一人の少女。両手にメリケンサックのような物を付けていた。殴られたらめっちゃ痛そう。


 振りかぶさった所で俺の存在感を出来るだけ薄くし,隙の生まれたところで少女の腕を掴んで適当に放り投げた。投げられた少女は綺麗な放物線を描いて、何人かの生徒と衝突した。投げられた少女は一瞬のことに何が起きたのか分からない様子だった。


「……恐ろしいことするわね。魔法で存在を消して少女の視界から消えた内に、そのまま腕を掴んで放り投げるなんて。もしかして、私との戦いの時もした?」

「鍛えても人並み程度しか剣が上手くならない俺は、魔法で工夫したり隙をつくしかないんだよ。」

「したのね。……道理で戦いずらかった筈だわ。」

 

 否定しない俺を見て納得した様子のマホ。

 マホと俺はいい勝負をしたように外野からは見えたかもしれないが、小技を使わないでマホに剣で敵う訳がないからな。

 魔法ならまだしも。




 近付いてきた生徒を三、四人同じ方法で飛ばす。

 

 マホも近くにやって来た生徒を、剣で離して距離を取っていた。


 

 近付いてくる生徒が多くなり黙りながら戦いに集中していると、闘技場の端の方で二十人くらいが吹き飛ばされ、宙を舞った。

 飛ばされた生徒の多くが、呆けたような表情で闘技場に落ちる。


 遠目で見てみるとロープを被った少女が中心付近に杖を持って立っていた。なんらかの魔法を行使したのだろうか。



 俺に迫っていた生徒が、後ろを振り返りその場で止まる。

 その隙に近付き、投げ飛ばして距離を取った。

 マホも同様に隙をついて距離を取る。


 余裕が出来たマホが興味深そうに尋ねてきた。


「あの魔法って何だか知ってる? あの魔法、この試験と相性良くないかしら?」

「分からないな。恐らく風魔法の一部だろう。集団戦だし、武器で戦うよりも魔法の方が有利だよな。……俺も近くにいれば、吹き飛ばされた振りをして倒されることが出来たのに。」


 そうすれば、特に目立つこともなく退場できたよな。

 

 あのロープの子は風魔法を使っていたが、水とか地の力を持つ魔法でも闘技場から落とすことが出来そうだ。殺傷性はなくていいので、そこまで魔法が上手くなくても出来そうな方法だった。


 ただ、魔法を使うと絶対に目立つ。


 

「……今思いついたけど、自滅するようにして魔法を使うのはどうかしら?」


 確かに!!


 自滅するように魔法を使ったら、多少周りの生徒を巻き込んでも使った俺が自滅している時点で俺の評価が上がることはないだろう。中々、いや滅茶苦茶いい手だ。

 最初からそうしとけばよかった。



「マホはどうする? マホは退場したいか?」

「ノアが退場するなら一緒に退場するわ。」

「任せろ。痛くないように退場させてやる。」


 そうだな。

 風だと二番煎じになるから、水でも使うか。

 自滅したように見せるには水の勢いを強くしないといけないよな。あくまで、怪しくないように。



 腕に魔力を溜めて、そのまま闘技場の地面に叩きつけた。


「小津波」


 唱えた途端小さな水の波が何個か生まれる。五十センチくらいしかないが、水の勢いはとても強く人を地面から切り離す力は十分に持っていた。それに地盤は平面。特に引っかかる場所もなく、流されたら闘技場の外まっしぐらだった。


 いくつかの波はノアとマホ、その他付近にいた生徒を多く押し流し闘技場の外に追いやった。

 近場で残った者で殆ど生き残りはいない。

 そもそもある程度の実力者は、優勝候補のマホやノアに近付こうとしなかったので弱い者しかマホとノアにちかづかなかったのもあるが。


 剣を持っている一部の生徒は、剣を地面に突き立ててその場で立つなどして対策を取っていた。



 近くに流れついたマホに声を掛ける。


「これで第二試験も終わったし、よかったな。」

「はやく服を着替えなさい!!」

「え?」


 ノアの服はびしょ濡れ。

 服は透け、ノアの意外と鍛えられていた体が透けて見えていた。

 ノアを男だと知り多少男に慣れてきたマホだったが、それでも服が透けたというシチュエーションは顔を紅くさせるには十分だった。マホも津波に巻き込まれたせいか全身くまなくびしょびしょである。


 同じような例を考えると、とんでもない美少女がびしょびしょになってその魅力的な体をみせているのと同じである。しかも、美少女なんて何十万分の一の世界だ。そもそも美少女すら見たことがない人が圧倒的に多い世界。


 何度かその裸姿を見たからと言って、耐えれるわけなかった。


 マホがティアにこのシチュエーションを自慢するのが容易に想像できた。



 ノアは自分の体を見下ろしてマホがいうことを理解した。

 早くしないと襲われるとも。


 マホですらこれなのだ。

 他の人物に見られでもしたら、襲われるの確定だ。


 口早に俺は魔法を唱えた。



「テレポーテーション」


 

 マホとノアは学校から家に逃げた。







ノアとマホが自滅した振りをして退場した頃。


 ティアとキャーロットは周囲から戦いながら会話をしていた。

 


「……どうして、ノアとマホの仲があんなにいいの? ティアならまだしも、マホとはほんの少し前までノアは仲が悪くなかった?」

「知らないわ。でも、ノアのことを愛してはいるようだから認めはしたよ。」

「私もノアのことは愛してる。……別に男だからって訳じゃない。」

「……それは知っている。でも、ちゃんとノアに伝えたの?」

「愛してるとは恥ずかしくて伝えてなかったけど、大好きな人って言った。……でも、それっきり会えてなくてあっても話してないの。もしかして、嫌われたのかな。」

「それは無いと思う。でも、聞く限り不思議。ノアも大好きなんて言われたら、好きじゃなかったとしても返答くらいはする筈。」

「そうだよね。はぁ……。」


 キャーロットが剣を振りかぶる。

 ティアがその剣を受け止め、弾き返した。

 

「私が弱いのがいけないのかな?」

「キャーロットは弱くないわ。」

「でも、ノアが最近よくいるマホは滅茶苦茶強いよ。やっぱり、ノアと一緒にいるには力が必要なのかな。」

「……そんなことないと思うわ。そしたら、私だって好きになってくれる筈がないわよ。」

「それもそうね。」



 あまり勝負事を好まないティアとキャートット。

 口ではそう言ったものの、ティアはそれが不安でこの第二試験で力を示そうと降参しないでまだ残っていた。

 キャーロットも同じだった。


「……でも、ノアにそんなこと聞いた素振りなかったわよ。」

「もしかして、忘れてる?」

「いや、あるとしたら忘れさせられたの方が可能性としては高いと思うよ。そんなことないと思うけど。」

「じゃあ、どうして?」

「そんなに気になるなら、ノアに確かめればいいよ。」

「いやでも、恥ずかしいし、嫌われてたらどうしようと思うと言えない。」

「気持ちは分かるけど、私が聞くのもおかしいでしょ。もしかしたらまだキャーロットの返事を考えているのかもしれないし、待ってたらどう?」

「それもそうだね。」



 幸か不幸か、ノアが告白されたという記憶を忘れさせられたのは事実だった。


 二人の足元に怪しげな影が現れた。

 それには化物と同じような異様な雰囲気があった。


 

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