第29話
俺とマホは二人でDの待機場所の所にいた。
「次の試験って何かしらね。」
「何だろうな。出来れば模擬戦がいいけど。」
「……どうして? 目立つの散々嫌がってたじゃない。」
「いや、手を抜いて負ければそこまで目立たないと思ってな。前回のダンジョンで目立ち過ぎたから、今度の試験では目立たないようにしないと。」
「ーーそうね。」
もう既に手遅れなことに気が付かないノアにマホは適当に返す。
前回のダンジョンの功労は既に騎士達から貴族まで広がっており、第一試験が終わった段階で既にノアの入賞は殆ど確定したようなものだった。生徒にも広がっており、ノアは多くの生徒から目を付けられていた。しかし、ノアは気付いていない。知らぬは本人だけだった。
「それではこれから第二試験の内容を発表いたします。第二試験の発表はズバリ、生徒全員での総力戦です。生徒の皆さんは舞台の上に乗って貰い、相手だけ落とし自分だけ生き残れるようにしてください。舞台の上から落ちるか、降伏を認めると失格となります。相手を殺すこと以外なら何でもあり。第二試験は二時間後に開始となります。」
校内アナウンスが終わる。
マホがとんとんと、ノアの肩を叩く。
「舞台ってあれのことかしら。」
「多分そうだろうな。……にしても、でかいな。」
窓の隙間から広場を覗くと、少なくとも縦横500メートルはありそうな正方形のガラスが宙に浮かんでいた。壮大なガラスの構造物は神秘的で、荘厳さを感じた。
「でかいって私の胸のこと? もう、人前だっていうのにそんなこといわないで頂戴。……したいならしてもいいよ?」
「違う。……いや、違くないが俺が言ったのはガラスの構造物のことだ。てか、気付いてるだろ。」
違うと言った瞬間、化け物の威圧を越える暴力的な圧を隣から感じたので慌てて訂正すると直ぐに収まった。マホの胸は小さくはないが、そこまで大きくはない。
この世界は胸が小さい方が男に似ているからと人気が高い為、マホは初めティアに胸でマウントを取っていたのだが、俺が大きい方がいいと勘違いしてから気にしている。未だに根に持っているのか、このような罠を仕掛けてくるようになった。個人的には形の整ったマホのも嫌いじゃないが、面白いのでそのままにしている。
マホが表情を崩して目を細めて笑った。
「気付いてるわよ。私のがティアと比べたら小さいことなんて。ねぇ、物語とか昔の記述によると男に揉んでもらうと大きくなるらしいじゃない。時間はまだあるし、揉まない?」
「………ちょっと待て考える。」
「いいわよ、じっくり考えて頂戴。」
折角の誘いだ。
これに野乗らない男は男じゃない。
しかし、魔法を使ってまで人目を避けようとは思わなかった。
「いいや、止めておこう。」
「……分かったわ。」
ノアの脚を無言でマホが蹴る。
折角大きくして貰おうと思ったのに。……感じるチャンスだったのに。
ティアだったら即座に揉むだろうなと想像してより力を込めて蹴った。
隣から悲鳴が飛ぶ。が、そんなこと気にする気は無かった。
同じDの待機室に居た一人が、二人に近付いて話し掛けた。
「やっぱり、お二人は優勝を目指すんですか?」
「うーん。どうだろう。ほどほどに頑張るかな。」
「そうね。」
「ほどほど……ですか?」
目指さないというのもアレなので、ノアは曖昧なことを言うとマホも肯定した。今までのマホだったら問答無用で一位を目指すと言うだろうが、ノアを男だと知った今目立ちすぎるのは危険だと判断して目立つのは避けるようになった。
ノアは自分の考えをマホが分かってくれたと喜んでいたが、実際には違う。またも知らぬは本人だけだった。
二人に話し掛けたのは、前回のダンジョンで先頭になったグループの一人。実力は生徒の中だと上の下くらいある為、最初は弱そうな子を集中的に狙い多くの数を倒すことで目立とうとしていたが、ノアに目を付けられては堪らないとノアの居ない場所で戦い、隙あれば脚をかけるなどしてノアを舞台から落とす作戦に変えていた。
やる気のない言葉に二人は既に目立っていることからは優勝は目指さないのではないかと一瞬考えたが、少女は考えを変えた。
あんなに強い力を見せておいて優勝を目指さないなんてこあがある筈ない。恐らく、私を油断させる気だ。……なんて油断ならないの。
騙されるところだった。
少女は二人を最警戒人物に改めて定めた。
「これ以上お邪魔するのも申し訳ないので、これで失礼します。試合頑張ってください。」
「ええ、頑張るわ。あなたも頑張ってね。」
心では思ってないことを告げて少女は二人の元を去る。
マホは気付いたのかそれとなく笑みを浮かべて笑った。
マホの笑みを真似してノアも笑みを浮かべた。
少女が居なくなり、ノアがマホに尋ねる。
「そういえば、後二時間くらいあるけど何して過ごす?」
「後二時間もあれば……四回くらい出来そうじゃない?」
「……模擬戦前に体力使ってどうするんだ。」
「優勝目指さないんだからいいじゃないの。それに、試合前なんだし、心身ともに温めた方がいいでしょ?」
マホが抱き着きながら、ノアの機関銃を擦った。
機関銃が斜角を上げる。
やる気はあまりなかったが、マホのボディタッチに気分が変わった。
「三回だけなら。」
「やったぁ。」
「……」
「…それじゃ、早く転移しましょう?」
「分かった。」
二人は待機室を出ると、人が居ないことを確認して転移した。
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