閉話 女王の苦難
話が少し重くなってます。
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ノアを馬車で送り帰し、一人自室で紅茶で一息ついていた女王はノアとキャーロットとのやりとりを思い返していた。
「私の大好きな人ですって言った後、顔を紅くして部屋から出ていったのは今思い出しても笑えるわね。ノアちゃんもぼーっと呆けた後、真剣な表情を作っていたけど耳を紅くしていたし。結婚は近いかしら。」
いつもと同じ紅茶を飲んでいる筈が、今日はいつもより紅茶がよく進む気がした。紅茶の無くなったカップにポットからまた紅茶を足し、紅茶を口に含む。
この国は多くの市民には気付かれていないが、暗いことが続いていた。
国民に希望を与える為に魔王の掛けた魔法は少しずつ改善していると言っているが、実際のところ改善せずむしろ悪化の一途を辿っていて、男子の出生率は確認こそ出来ないとも年々下がっているという予測結果が立っている。
それに隠してはいるが男子の出生率が低下したことが本能で気付かれているのか、下着姿で生活する者は年々と増え、それに乗じて感染症に掛かる人数も増えたり、治安が悪化しているというデータが出ている。男子の性被害も増え、自殺率も増えているという予測も出ていた。少しずつだが、この国の崩壊は進んでいた。
隠すだけというのも駄目だと思い、最近では魔法や剣などを扱う冒険者を推奨したり、賭け事などの施設を増やし、性欲以外の欲を満たそうと努力した。しかし、結果的にいえば性被害は減ったものの治安は悪化するばかりだった。馬車が襲われるなんてことも前は無かったのに、装飾をわざわざ外さなければいけなくなったのも治安が悪化したからだった。
それに加えて、最近の化物騒ぎだ。黒色のコートを着た男が倒してくれたというが実際のところその男が味方かは分からないし強い力を持つ男の出現に、冒険に夢中となっている冒険者達が男に興味を強く持ってしまった。折角性被害が減少しているというのにコートの男の影響で増加もしくは現状維持となる見込みがされている。駄目なことは分かっているが、ここまで酷いと一日中酒を飲んで酔っぱらいたくなるものだ。
そんな重苦しい気分を少し和らげてくれた先程のやりとり。
女性との結婚というのはもう亡くなった母が許してはくれなかったので私は結婚してないが、別に私は認めるつもりだ。性別なんて関係なくても同意があればいいのではないかと思う。男がいれば別だが、男なんて滅多に居ないし出てくるとしても自殺してしまった少年くらいしかいない。見たところ娘達とは仲良く出来そうだし、キャーロットの幸せのためにも結婚して欲しいものだ。
「……でも、よくよく考えると流れてとしてはおかしいわね。様をつける理由になってない。」
実に愉快な内容だった為にスルーしてしまいそうだったが、よくよく考えればおかしいことに気が付いた。好きな人だから様をつけるというのは、聞いたことがない。爪でリズムを刻みながら考えを巡らせる。
「もしかして、キャーロットは誤魔化す為にあのようなことを言った? ……でも、そう考えるには顔が赤すぎたような。」
キャーロットの言った直後の顔は、今まで見てきた中で一番赤かったように感じた。演技で出来るようなことではない。もし演技としてやっていたら天才だが、どちらとしても能天気なあの娘が演技をするとは考えられなかった。
いくら考えてもピースの散らばったパズルは完成しない。ピースがそもそも足りないので当たり前なのだが、それすら女王は気が付けなかった。
女王は諦めると、直ぐ様溜め息をついた。
「……どこかに男でも居てくれないかしら。女は男が居ると元気になれるっていうけど、男が居てくれれば私も元気になれるのか。」
言葉に出すとすぐに空気と混じるように消えた。
愉快な話が終わればまたすぐ辛い話。私が女王に就いたときから既に15年くらい経っているが、ずっと変らない暗い話があれば人は病んでしまうのではないかと思う。今までは義務感から耐えてきたつもりだが、何とか踏ん張ってきた木も最近の化物騒ぎで根本が折れそうになっているように思う。男がいればこの木も丈夫な木に戻るのだろうか。会えないと分かっている男のことを考えてしまうには、女王の心は追い込まれていた。
「こんなことばかり考えていても駄目ね。トップが暗い考えを持っていたら国までより暗くなってしまうわ。気分を晴らさないと。」
少しでも暗い気持ちを晴らす為、軽く書類を済ませると女王は娘達に会いに行った。しかしそれは現実逃避にしか過ぎなかった。
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