第22話

ティアラの名前をティアラ→コアに変更しました。


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王城へ呼び出されてから数日。

化物が襲ってくることもなく、黒いコートを着た男が俺だとバレることもなく平和に過ごしていた。しかし、何故かこのメイド服を着た少女には男ということがバレてしまったが。


「ねぇねぇ遊んでお兄ちゃん。」

「……お兄ちゃんって言うの辞めてくれ。せめて、お姉ちゃんにしてくれ。」

「えぇー。でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?」


不思議そうに首を傾げるコア。

誰かに聞かれていたらどうするんだ、と頬を軽く摘まむも構ってくれたのが嬉しいのか微笑ましい笑顔を返される。


コアはロゼルさんの娘だ。王城から家に帰る時また馬車でロゼルさんに送ってもらう時、ロゼルさんがコアを馬車に連れてきたことで出会した。出会った瞬間は男だとバレなかったんだが、馬車内でコアが気紛れで俺に抱き付いて来たときにバレた。どうやら胸が小さすぎたことで男だと思ったらしい。

ロゼルさんに俺が男だと言うことを言わない代わりに、コアとたまに暇潰しも兼ねて遊ぶことになった。今日来ているのは公園だ。何人か大人もいるが、子供達は体を守る為に服を来ている為そこまで嫌では無かった。


「……それで、遊ぶにしても何で遊ぶんだ。この人数だし、やれることは限られていると思うぞ。」

「たかいたかい?」

「コアは赤ん坊だったか? 」


コアから聞こえたのは意外と思う答えだった。

黒色のポニーテールに小さめのメイド服を着たコアは五歳。身長も俺の膝くらいしか無い。高い高いをして貰う年齢の範囲内だと思うが、わざわざ公園に来てまですることだろうか。


そんなノアの思いに反して、目を夜空の星のように光らしてノアのことを待ち構えるコア。母親であるロゼルから高い高いされるのも嫌いじゃないが、どこかコアには物足りなかった。そこで出会ったのがノアだった。ノアに高い高いをしてもらうことを想像した時、コアは今まで感じたことのない言葉では表せない興奮を感じた。


コアの腰の両端を掴みそのまま上に持ち上げる。見た目通り軽く持ち上げられてしまう程にティアラは軽かった。


「ふんふんふん。」

「楽しそうだな。そんなに高い高いされるのは楽しいのか?」

「……今まで一番楽しいかも。」


今まで一番楽しいことは無いだろと内心思ったノアだが、コアの心底楽しそうな笑みを見て案外嘘でも無いように思えた。弾けるような笑顔、ティアラの笑顔がとても輝いて見えたからだ。


最近の子供は高い高いで喜ぶんだなと変な解釈をしたノアは、ただ上下に持ち上げるだけでは物足りないと思い、緩急をつけたり円を描くようにしたりと工夫をした。喜んでくれるコアの顔が見たかったからだ。工夫される度にコアの顔は笑みを増す。


子供の笑顔はやはりいい。下着の状態で街中を歩く女性の姿を見ると萎えてしまうからな。歳がいった女性は特に。子供の笑顔を見るとそんな萎えた気分も晴れそうだ。貴族の女子は基本的に昔からの伝統を大事にする傾向があるので服を来る人が多いが、街中だと圧倒的に下着姿の女性が多いからな。コアから言われてやったが、定期的に萎えたら俺から高い高いを頼みたいな。


父性を感じたコアは終始笑顔を絶やすことなく、普段感じない不思議な感覚に覆われながら頬を緩ませていた。


「何してるの?」

「ん? たかいたかいだよ。」


終始楽しそうにしていたら気になって子供はやってくるものだ。ノアとコアの元にコアより少し背の小さな少女が近付いてきた。少女はノアとコアが楽しそうにしている様子をさっきから遠目で見ていた。


「たかいたかい?」

「そうだよ。貴女もお母さんにして貰ったことがあるんじゃないの?」

「私お母さんいない。」


少女の答えにコアとノアは固まった。

相手の状況を知りもしないのに酷いことを聞いてしまったと。ついつい母親がいることを前提として話してしまった。コアの楽しそうな笑顔が後悔の顔に変わる。どう返せばいいのかコアが困っている隣で、ノアは優しく少女に質問をした。


「お母さん居ないんだ。それじゃあ、君は何処に住んでいるの?」

「ママのお家。お母さんは居ないけど、ママならいるの。」


お母さん≠ママという訳ではない。お母さん=ママの認識で合っている。

少女はまだ幼い為、お母さんとママが同一人物を指すことを知らないのだろう。少女の言葉にコアはほっと溜め息をした。


「その、たかいたかい? っていうの楽しそう。私もやりたい。」

「高い高いされたいのか? 」

「うん。」


少女の腰の両端を掴むと、コアと同じように持ち上げる。少女はコアよりも脇腹を触られることに耐性が無いのか、擽ったそうに笑っていた。コアとはまた違う笑みに見えたが、少女もまた楽しそうだった。コアも同じ楽しみを共有出来たのが嬉しいのか少女を見て微笑んでいた。


「もう大丈夫。下ろしてよし。そろそろ帰る。」

「……そうか? それじゃあ下ろすな。」


何度か少女を上げたり下げたりした頃、少女の一声が入った。

どうして命令形なのか分からなかったが、少女の言う通り地面に優しく着々させた。


「……これ、今のお礼。」

「お礼なんて別にいらないぞ。」

「でも、ママが優しくしてくれたらこれ渡せって。」


少女の小さなポッケから赤い水晶のような物が出てきた。

宝石のように光を帯びる水晶、ただ高い高いをしただけで得て良さそうな代物ではなかった。魔力を帯びているのか手に握ると、握った部分から身体に魔力が循環する。魔力を帯びる水晶なんて利用手段も多く高い値がついており、簡単に人にあげられるものではなかった。

コアも初めて見たのか、恍惚とした表情で水晶を見ている。


「本当に貰っていいのか? いい値がつくぞこれは。」

「うん。貰って欲しい。」

「……返して欲しかったら言ってくれ。これに話せば俺と話せる筈だ。」


俺は水晶を受け取った代わりに、少女に魔力を込めた石を渡した。

電話などが無いので連絡手段に困るなと思った俺は、魔法で電話のようなことを再現しようと思ったのだ。魔力を込めた俺としか話せない筈だが、こういう時には便利だろう。俺の予想だとこの水晶は返すことになると思う。この少女がどうしてこんな高価な物を持っているかは不明だが、親が知ったら返却を求めるだろう。



「貰ってもいいの?」

「ああ。水晶のお礼だ。」

「何それ?」

「俺と遠くでも会話出来るようになる石だな。魔力が切れたら使えなくなるが。」

「コアもそれ欲しい。」

「別に要らないだろ。」

「要るとか要らないとか決めるのはノアじゃなくてコアなの!!」


迫ってくるコアを避けながら、少女に手を振る。

前世の経験からだが、下手に連絡先が増えても面倒臭くなるだけだと思う。授業がある日とかに話し掛けられても困るし。コアと話すのは嫌じゃないんだが、頻度が多すぎるというのは疲れてしまう。目新しさにコアが頻繁に電話を掛けてくることは簡単に想像できた。誰かに渡したら他の誰かにも渡すことになっちゃうしな。少女と違ってコアの家は知っているので連絡はつくし、渡さなくていいだろう。


そこからはコアとの鬼ごっこが始まったが、少ししてコアが拗ねて終了した。そこからは機嫌治しも兼ねて、また高い高いをすることになった。




この時水晶を受け取ったことで後々厄介事に巻き込まれることになるが、この時のノアは気付いてなかった。

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