第19話
「ねぇねぇ。本当に誰だったんだろうね。あの黒いコートを被って助けてくれた男の人。」
「分かんない。……でも、もう一度会ってみたいな。一回でいいからちゃんと話をしてみたい。」
「私、将来もし結婚するならああいう人が良いな~」
「私は彼一筋だよ。絶対に見つけて、自分の物にする。」
昼休みが終わるギリギリで教室へ戻ってくると、黒いコートの男についての話題でガールズトークが盛り上がっている。この様子を見ると、結構見られていたらしい。下ネタが言われていたり、クラス全体があの化け物によって恐怖に染まっているよりはマシだが、自分のことについてこうも話されるのは結構キツい。
正直、ここまで大事になるとは思わなかった。
自分の席まで会話の内容に困惑して歩いていると、後ろの席のキャーロットに手を引っ張られて強制的に席に座らされる。
「ノア様も見てましたか? あの黒いコートを被って助けてくれた男性を。見たこともない魔法を使って、ノア様が倒した三倍くらいの大きさの化け物を簡単に倒しちゃったんですよ。急いで屋上から、競技場へ向かわなければ、見逃すところでした。」
「……決闘で疲れて見てない。」
「それは惜しかったですねぇ~ まぁ、ノア様には私が付いていますので大丈夫ですよ。」
「は?」
「何か?」
隣の席で聞き耳を立てていたティアが瞬く間にキャーロットの肩を掴み、獲物を狙う鷹のような鋭い目でキャーロットを睨む。すると、「キャー怖い。暴力女が襲ってくる~」と何やら楽しげな声をあげながら、隠れるように俺に抱き付く王女こと人参。関わったら強制敗北する修羅場イベントなので、俺は参加しない。……ていうか、こういうことで怒ったティアは止められる気がしないので、更に煽るようなことはやめて欲しい。マジで。
「早くノアちゃんから離れてください。」
「嫌です。」
「……だって、私とノアちゃんはつ、付き合ってるんですよ!! 王女なんだから、お金とか権力使って違う人を見つけて下さい!!」
「それじゃあ、私とも付き合って下さい。私が正妻として。」
「なっ!! そ、そんなの認められません!!」
「王族権限!!」
「そ、そんなことに王族権限なんて使わなーー」
気が昂っている二人の口許を軽く抑えると、そのまま猫を可愛がるように首の下を擽ってやる。もふもふしていない首は猫に比べれば少し寂しいが、その分すべすべでしっとりとしていて気持ちがよい。
その間、キャーロットには抑えていた指先を舐められ、ティアには凄い勢いで指の臭いを嗅がれた気がするが、無かったことにする。
俺が止めに入ったのもそう。
興奮していたせいで考えていなかったようだが、二人は結構な問題発言をしている。運のいいことに黒いコートの男性についての話題で聞かれてはなかったように見えるが。
まず、俺とティアが付き合ってるということ。
この世界の百合というものは、男か少ないことから前世よりも一般的になっているが、それでもあまり受け入れられていない。いくら男性が居ないからといって親友同士で付き合うというのは、男を求めて常にセンサーを張っている他の女性からしたら許してはいけないのだろう。
現時点、俺は男であることをティア以外に教えていないので、百合として見られるだろう。まぁ、ティアと表立っていちゃつくことが出来るので良いかもしれないが、百合という理由であまり注目を浴びたくない。
次に、王族権限。
この王国は、王族や貴族という階級があっても結構民主的な国なのだが、一生に一度だけ使える王族権限というものを王族は持っている。
……というのも、王家は王族が一方的に支配しないことを約束する代わりに、王族権限で命令したことは民衆は必ず認めなければいけないという規則を設けている。
有名なのが、二代目国王が使った王族権限だ。
この二代目は、国内に居る男性を全て自分の奴隷にするという命令を出したのだが、いくら王族権限とはいえ
直後、二代目国王の妹が王族権限を使って王族権限の取り消しを施行したので大事には至らなかったが、これは女性の男性に対する欲求がどれくらいなのかを計る上で重要な出来事といえる。
この世界では生活と同じくらい、男の存在が大切なものだのだ。
生活が苦しくなったことで、民衆が絶対的な権力者に反抗したことはフランス革命のようにこの世界でも存在するが、男の為に絶対的な権力者に反抗することの方がこの世界では多い。
特に隣国の砂漠が大地の大半のダエルでは、既に男に関係することで4回も国家の体制が変わっている。流石にこれを見た時は、その地の女性の男欲に引いた。何処かの国に旅行に行くことがあっても、絶対にダエルには行かないと決めている。
男に関することで絶対権力を使うのはタブーとされている状況で、王族権限なんて使ったら俺が男ということがバレていない内はいいだろうが、バレたら色々死ぬだろう。相手が俺じゃなきゃ国が転覆しようがどうでもいいのだが、相手が俺なのでそんなこと絶対に止めなければいけない。バレてしまったら最悪、俺はダエルのような他の国に逃亡しなければいけない。そんなことは、絶対に嫌だ。
「それじゃあ、授業を始めるから席に着け。黒いコートの男について興奮するのは分かるが、そいつの話を含めて授業やるからな。」
先生がそう言いながら教室に入ってくると、丁度授業開始の鐘が学校中に鳴り響く。同時に俺は二人の首近くに置いた手を戻し、先生の方に目を向ける。立ち歩いてグループを作り、黒いコートの男についての会話を弾ませていた周りも、黒い男について話される授業に興味があるのか、直ぐ様自分の席に戻る。
背中の上を汗が流れていくのを感じながら、俺はどんなことが話されるのか気を引き締めた。
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