第17話
高密度の魔力に覆われて一瞬で競技場の前に移動した俺とマホ。
競技場は、土で固められた大きな舞台とそれを少し遠くから囲む観客席で出来ている。
観客席は屋根がついているが、舞台には屋根がついていない為、雨が降ったら試合などでは無くなるが、石に比べて素材が柔らかい為、怪我をしたとしてもダメージが少なくなっている。
観客席には、俺とマホの試合を見に来たのか、学園の生徒達や教員、学園以外の女性も集まっている。席は半数以上埋まっており、もしかしたら屋上に人が居なかったのはこのせいかもしれない。
「ちょっと!! 何すんのよ!! 勝手に魔法なんか唱えて!! 不意打ちでもするつもりなの!? 最低!! 人の心持ってないんじゃないの貴女!!」
何も言わず急に魔法を唱えたからか、害虫でも見るような目で俺を睨むマホ。周りなど気にせずに俺の近くで不満げに力強く足踏みをし、俺のドレスに土を飛ばしてくる。魔法を使えば何とでもなるが、地味にうざい。
脳筋のことだから手を出してくると思わず身構えるが、嫌がらせと睨み付けてくるだけで何もしてこない。
何か気に入らないことがあると、直ぐに暴力に走るマホ。今の起こる様子を見るといつものマホだが、隠しているだけでいつもの調子ではないのだろうか。
そう思った途端、俺の死角から声がする。
「あら、貴女がノアちゃんかしら? ……にしても、今の魔法凄いわね?見たことない魔法だわ。急に現れて、お姉さんびっくりしちゃった。 」
後ろを振り向くと、そこには2m近くの大剣を肩に担いだ金髪のポニーテールの女性が居た。身長はおよそ180cm以上あり、目で見えるところは、騎士団長だからか前世の男のボディビルダーのように逞しく筋肉が盛り上がっている。
やはり、親が親なら子も子なのだろうか。マホはこの筋肉だるまのような丈夫そうな筋肉は付いておらず、適度に鍛えられている体だが、頭で受け継いでいる。しかし、体はあれだが、意外と頭が回りそうなことには素直に驚く。
親に罵声を浴びせたことを見られたことに気付いたのか、足踏みを止めるマホ。
「お、お母さん!? 何でここに? ……あれ? 屋上じゃなかったの?」
「何でここにって………貴女が急に現れたんじゃないの。ここは、競技場よ。貴女が私をわざわざ呼び出したんじゃないの。貴女が今罵声を浴びせていたノアちゃんと、決闘をするんでしょ?」
「………」
周りが本当に見えていなかったのか、親である騎士団長の言葉に目を見開く。この様子を見ると、屋上は石で出来ているし、俺に土を飛ばして来たのも偶々だったのかもしれない。まぁ、どちらにせよドレスが汚れたのは事実なのだが。
さっきは、思い切ってテレポーテーションを使ってしまったが、これ以上魔法を見せるとヤバそうなので、魔法を使ってドレスを綺麗にすることは出来ない。土の為、手で叩いて綺麗にしようにも周りに飛んで被害が拡大しそうだ。……うざい。
すると、何の予備動作も無しに、俺の足に重い一撃が伝わる。
痛っ。
思わず足に目を向けると、やってやったというような顔でこっちを睨み付けてくるマホ。親に罵声を浴びせられていたことを見られた当て付けだろうか。原因は俺だが、親が居るのに気がつかないで罵声を浴び始めたマホもマホだと思うのだが。まぁ、脳筋だし仕方がないか。
ーーところで、この親子相当仲悪いのか? マホが親である騎士団長をお母さんと呼ぶのは普通だが、騎士団長が娘であるマホに対して貴女というのは可笑しい。それに、マホに対しての愛情が全く感じられない。…いや、貴族とか位の高い家族になるとこれが普通なのか?
俺は目を騎士団長を見つめ、目を細める。
すると、俺が目を細めたと同時に騎士団長が新たに口を開く。
「それじゃあ、審判は私がするのでいいかしら? ルールは、相手が土台から出るか、降参をするまで。殺しさえしなければ、どんな魔法でも武器でも、剣術でも使っていいわよ。ーーーそれじゃあ、両者位置について。」
騎士団長の声に、俺とマホは指定された位置まで土台の上を歩く。
一歩、一歩踏み出す度に観客席からの騒がしい声が響き、警戒した小鳥達が大空へ飛び去っていく。鳥が去った場所に、そっと一枚の枯れ葉が揺れ落ちる。
指定された位置についた俺は、マホを見つめるとーーマホは先程のように体全体が少しばかり震えていた。
すると、強く見せたいのかマホは表情を引き締めると、試合開始の鐘が鳴り響いた。
「先手必勝よ!! 滅びなさい!! 天女の聖拳。」
走り出した彼女は背中に携えていた剣を引き抜きながら、空中へと地面を蹴る。空中へと飛び立った彼女は煌めきを強める太陽と重なり、白い光を見に纏う少女は姿を少年の前から消す。
その直後、少年に大空から断罪とでも言うべく大剣が放たれる。突如放たれる大剣に目を開くと、少年は大空から舞い降りてきた少女の回転の掛かった蹴りを剣で逆に回転を掛けながら弾く。
「な、中々最初の技を受け止めるなんてやるじゃない。」
「……」
弾かれた体を空中で回転させながら体制を元に戻すと、衝撃を最低限に抑えた少女は、隙など与えないかのように少年への距離を近付き、柔らかい体を生かして体を何十と回転させる。何十にも回転を掛けた足で、体をバネのようにして少年の死角へと大きく跳ぶと、回転の掛かった重い蹴りを空中から少年に放つ。
またしても剣で受け流そうと、両手に力を込めながら剣を盾のようにして構えるも何十にも回転の掛かった蹴りに少年は剣ごと吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた少年は地面に着く瞬間、大地を割る勢いで剣を地面に力強く突き刺し、体に加わった衝撃を剣に置き換える。直後、稲妻のように高速で地面に亀裂が走り、土が噴き出す。
刹那ーーー
隙をつかせないように、ナイフのように鋭く尖った氷を生み出して少女に向かって放つ。
咄嗟に反応した少女は体を華麗に捻り、少し姿勢を低くして氷を避ける。
「ちょっと!! 危ないじゃない!! 当たってたらどうするつもりなのよあれ!! 」
「避けれたんだから、危なくないよね?」
少女は腰の高さを元に戻すと、さっき放った大剣を地面から引き抜き、一、二歩でスピードを最大にまで上げると、剣の鋭い方を少年に向け、スピードを生かし音速に近い速さで大剣を振りかざす。
大剣の振りかざした先にいる少年は、地面に這いつくばるようにして体をこれでもかと薄くすると、水で出来た大きな玉を生み出して大剣の勢いを殺す。
直後、大剣を振りかざした時のとてつもないエネルギーで水に物凄い熱が加わり、その熱で水が膨張し空中で弾ける。
空中で弾けた水は激怒した火山のように周囲へ物凄い勢いで弾け飛び、舞台の広範囲を水浸しにする。地面で出来た土台は泥濘が出来、まるで雨が降った後みたいに人々を錯覚させる。舞台の上に居る二人は、服が水でびしょびしょになる。
「……エ、エロ…」
「は?」
突拍子もない言葉に、思わず素の言葉を漏らす。
怒るとは違うベクトルでマホは顔を紅くさせると、観客席からも似たような声が漏れる。ノアは普段女装をして男であることを隠しているが、服が水で濡れてしまったことで中身が透け、逞しく立派な筋肉を晒してしまっているのだ。男性と女性ではやはり筋肉の質や形、漂う色気や安心感が違うーーそれに、女性は野生の勘で無意識の内に気が付いているのだ。
特に、胸の部分などには視線が殺到し、ここでは親子仲良くうっとりとした表情になっている。
それに気が付かないノアは拍子抜けとばかりに、地面に突き刺さった自前の剣を引っこ抜いた。
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