第13話
俺のベッドにティアを寝かせた後、ハルとご飯を食べ、そのまま一緒に遊んでいた。
「お兄ちゃん、抱き締めて?」
「おおっ。いいぞいいぞ。」
ハルの要望通り、ハルを正面から抱き締める。
抱き付いたと同時にハルの甘い匂いに鼻腔を擽られ、ハルのほのかに温かい体温を全身で感じる。
こうしてお願いされるようになったのは、冬のとある日、寒さでぶるぶると震えていたハルを温める為に抱き締めてみたらハルに気に入られたからだ。
そのせいか、寒い時以外でもたまにハルに求められる。
こうしたお願いは、最近俺にとって結構厳しいものとなってきている。
あまり頭の回っていない朝ならあまり意識しないものの、ハルも最近では身体が少しずつ成長して来ていて、果物のような甘い匂いと弾力の付いてきた双丘に異性ということを意識してしまうのだ。
現在も、俺はハルのことを異性として意識しまっている。
流石に妹のことを異性として認識してしまっているのは不味いだろう。
もしそのことがバレてハルに引かれたり、距離を取られたら泣く。
「お兄ちゃん。もっと強くしていいよ?」
「……痛かったら言ってな?」
「うん。」
痛くしてしまったら嫌な為、ほんの少しだけ力を強める。
力を強めたせいかハルと俺の距離は更に縮まり、ハルの心臓が脈を打つ音が耳を澄ませ無くても聞こえるようになり、双丘の感触も更に正確なものとなる。
ドクドクと勢いを付けて打つハルの脈の音。
生きているということが伝わってくる力強く脈を打つ心臓の音に、兄妹でスキンシップを取っているだけなのに、何だか凄く厭らしいことをしている気分になってくる。
俺の心臓の音も、もしかしたらハルに聞かれているのだろうか。
「全然痛くないから、もっと強く抱き締めて? 」
「……本当に大丈夫か?」
「ハルは大丈夫だよ!!」
元気良く言われてしまってはやらないという訳にはいかないので、思い切って強く抱き締めてみた。
更に大きく聴こえる鼓動。
すると、ハルから聞こえる「んっ……」という何かを堪えるような淫猥な声。今までに聞いたことのないハルの厭らしい声に、つい俺の息子が反応しかける。
慌てた俺はハルから腕を離すと、ハルの方から抱き付かれ耳元で囁かれる。
「もっと続けて、お兄ちゃん。」
「え?」
「……今くらいの強さでまた抱き締めて?」
「う、うん。」
やっちまった。
大天使ことハルに上目遣いを受けた俺は、反射的にうんと答えてしまった。今日はダンジョン攻略もあったし、疲れたから後でと言って一度このいつもとは違う空気を後にすることが出来た筈だ。
時を遡るような魔法があれば戻って一度断りを入れることが出来たのに。
魔法に関してはどの分野に関しても朝飯前だと思っていたが、今まで何度試行錯誤しても時を遡る魔法だけは作ることは出来なかった。
今だけでいいので使わせて欲しい。
透き通った青碧色の目を輝かせ、こちらを期待する目で見つめてくるハル。その目を見て綺麗だなという感想を持つも、そんな状況ではない。
ハルに応える為に、先程と同じくらいの力で再び抱き締める。
思わず反応してしまいそうになる声がハルから出なかったが、何だかハルの脈を打つ音が先程よりも速くなったように感じた。
「……そういえば聞いてなかったけど、あの人ってお兄ちゃんの友達なんでしょ?」
「ま、まぁそうだな。」
「ハルとあの人だったらどっちの方が大事?」
ん?
思わず聞き逃したくなる言葉を、俺の耳はしっかりと捉えてしまった。
抱き締めている為丁度ハルの顔はここからから見えないが、何やら険悪な空気を漂わせているように感じる。ちょっと顔の角度を変えれば今の表情を見ることは出来そうだが、何故だか見る気にはならない。
それに、僅かながらティアの寝ている俺の布団が揺れたような……
『ハルとあの人だったらどっちの方が大事?』と言われても、俺にとってはどっちも大事なので優劣を付けるのが難しい。ハルは俺の癒しだし、ティアは俺の唯一と呼べる親友だ。
だからと言って答えないのは……ハルの様子がいつもと違うことから何が起こるのか分からないので嫌だ。そもそも、こんなことを聞いてくるということはハルは俺に対して何か不安に思っているのかもしれない。
だって、こんな修羅場系のラブコメで良くありそうな質問、普通妹にされるなんてあり得ない。
どうすればいいか分からなかった俺は、ハルを喜ばせた方がいいと直感で思ったのでハルを選ぶことにした。
「ハルの方が大事かな。ハルは家族だし、一緒に居ると癒されるからね。それに、守ってやりたいと思うし。」
「そうだよね!! ハルもこの世界の中で一番お兄ちゃんが大好きだよ。世界の皆にお兄ちゃんが嫌われたとしても、ハルは絶対に絶対にお兄ちゃんの味方だよ?これからも一緒に居ようね!!」
何やらスケールが大きくなっている気がするが、ハルの様子がいつもと同じように明るくなったので良しとする。太陽の日差しも何だか強くなり、強まった日差しが窓ガラスを通り部屋一杯が太陽の光で染まる。
それに、今まで流れていた険悪な空気は無くなり、ハルからは逆に嬉しいことがひしひしと表情を見ずとも伝わってくる。
いつもの大天使ハルに戻ってよかった。
「お兄ちゃんありがとう。もう抱き締めなくて大丈夫だよ。お兄ちゃんはダンジョン攻略の後で疲れてるだろうと思うし、ハルはハルの部屋に帰るね。」
「分かった。」
満面の幸せそうな笑みでハルは部屋を去っていく。
気を遣ってくれるあたり、本当に元の大天使ハルに戻ったんだと俺は安堵する。
………ところで、またしても布団が動いた気がするが、もしかしてティアは起きているのか?
ティアを起こしてしまっていたら可哀想なことをしてしまったと思うけど、ティアが起きていたとなると今の会話が聞かれていた可能性がある。
布団をよく見てみると、変な形に布が出っ張っていて、何だか少し濡れた部分がある。
……何がとは聞かないが。ここは起きているか確かめる為にもちょっと悪戯してみるか。
「そういえば、まだ服着替えてなかったなぁ~ ティアも寝てることだし、ここで着替えちゃっても大丈夫かな? えーっと、パジャマは何処だっけ。」
声をわざとらしく挙げて、部屋中に響かせる。
服を着替えるつもりは、もうすぐシャワーを浴びる予定なのでない。着替えるとしたら風呂場だ。
布団に視点を移すも、布団が揺れ動く様子はない。さっきと同じ出っ張りも同じ場所にあり、特にさっきと変わった場所は見つからない。
普通に寝ていたのか? それとも、流石にわざとらし過ぎて引っ掛かからなかったか?
そう思った瞬間、布団が擦れる音が微かに部屋に響く。
布団の擦れた音がした場所を見ると、丁度頭の位置がある場所。そこだけ不自然に顔が布団からはみ出ている。
この様子を見ると、ティアはずっと起きていてさっきの会話は聞かれていた可能性が高い。
ティアが大事ではないと誤解されたくなかった俺はティアが寝てる布団に近付く。近付くと同時に、はみ出ていた顔が再び布団の中に潜る。表情を変えず布団に顔を戻す様子は、これを見越した予行練習でも積んでいるような動きだった。
「大切に思ってるからなティア。安心してお休み。」
耳元があるであろう部分に、囁くように言葉を吐くと布団が激しく揺れに揺れる。春の柔らかなそよ風がいきなり台風に変わったような変わりように、俺は面白くて思わず頬を緩める。
しばしば布団が揺れ動く様子を俺は眺めた。
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