第12話

ティア視点。


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化け物が現れ、急遽中断となったダンジョン攻略の帰り道。

私は、親友ことノアと街にお出掛けをしている。


真っ白な絹よりも純白で艶のある繊細でさらさらとした天使でも思わず嫉妬してしまいそうな美しい髪に、真実を全て見抜すことの出来そうな碧眼の付いた整った顔に、思わず男かと疑ってしまうような小さい胸。


ノアちゃんは目立ちたくないようだけど、その容姿で目立たないというのは流石に無理だと思う。


街の中の女性達を見てみれば、バレないようにノアの小さい胸を一瞬だけ横目で見たり、本を読んでいる振りをしながら謎に空いた本の隙間から ノアのことを覗いている人は少なくない。

これも全て、ノアちゃんがエロい体を持っているのがいけないのだ。



実際、私もノアちゃんが近くに居ない時はよく覗いている。

無警戒なのか、ノアちゃんがその視線に気付くことはほぼ無いけど。




……ところで、私は今日ずっと思っていた疑問をノアちゃんに聞きたくて街にノアちゃんを誘った。

その聞きたかったこととは、ノアちゃんが男かということだ。

ずっと私は、そのことについて疑問に思っていた。



私が疑問に思っていた理由は、 ノアちゃんと近くに居ると物凄い幸福感を感じるからだ。

別に、ノアちゃんのように胸の小さい人は探せば千人に一人くらいは居る。それでも、ノアちゃんは特に胸が小さい方だけど。

だけど、ノアちゃんから感じる物凄い幸福感はノアちゃんからしか感じたことがない。



その幸福感が何なのかは分からないし、どうしてノアちゃんだけから感じるのかも分からない。

だけど、別にこれといった楽しいことをせずとも、ただノアちゃんと会話をしたり、ノアちゃんのたまに見せる無邪気な笑顔を見るだけで心が謎の幸福感に包まれる。



男性と一緒に居ると物凄い幸せな気分になれると一般的に言われている。

異性への本能的な物だと。

だから、ノアちゃんの容姿も相まってノアちゃんから幸福感を感じるのは、ノアちゃんが男だからなのかなと思っていた。



そして、今日のダンジョンの中での出来事。

あのいやらしい顔でノアちゃんに抱き付いている王女の姿を見た瞬間、わたしは王女に対する嫌悪感で心が満たされた。

どうして抱き付いているのが私では無く彼奴なのだという疑問と、心の底から止まること無く溢れ出てくる殺意。


気付いた時には、私はノアちゃんに抱き付いていた。

今まで抱き付こうと思ったこともあったけど、結局行動に移せず出来なかった行為。


服の上からでも分かるしっかりと鍛えられた分厚くて丈夫な体に、酷く頭を刺激する淫乱で甘い匂い。

さっき心の中で急に湧き出た嫌悪感は、すっとその香りに包み込まれるように消えていた。



やっぱり男? ノアちゃんは男なの?



頭に浮かんでくる疑問。

女性には無い体の丈夫さと、頭が蕩けてしまいそうな甘美な匂い。

それに、湧き出てくる安心感と感じたことのないような充実感。

それが、私の疑問を確信へと変えようとしていた。


気付けば、私は顔でノアちゃんの体を感じる為に擦り付けていた。

今にでも干からびそうで、水を求め砂漠の中を歩き回る旅人のように、必死にノアちゃんに頬を擦り付けた。



その後も、何かと夢中になってノアちゃんとボディタッチを続ける王女と私。

途中、周りが気まずい空気になって一度止めようか迷ったけど、結局止めることは出来なかった。

ノアちゃんを感じている際、王女もノアちゃんにボディタッチをしていることに不満をずっと感じていたけど、そんなことを気にするよりもノアちゃんを求める方に集中した方がいいとノアちゃんだけに集中していた。

途中、言い合いを王女と何回か起こしてしまったけど、あれは仕方ない。

早く止めない王女がいけないのだ。


そして、現在に至る。

王女と違って、私はノアちゃんとお出掛けをする約束をすることが出来たので、ノアちゃんと街中を歩いている。


約束出来なかった王女は、現在一人寂しく王宮で過ごしている筈だ。

可哀想とは思わない。

ノアちゃんのである私と違って、今日急に仲良くなったのに私と同じようにボディタッチを繰り返したのだ。

寧ろ、バチが当たってすらいいと思っている。




………ところで、私は確かめたいことがある。

それは、ノアちゃんが男かどうかということだ。

正直男と確信しているけど、念には念をと言うし確定しておきたい。


ダンジョンを出て、少し冷静になった私。

さっきのような沸き上がる行動力は無く、いつもと同じように消極的な思考になっている。

先程は自分のしている行為に何にも羞恥心を抱いていなかったけど、今思うと顔が紅くなるのをコントロール出来ない程恥ずかしく思う。

今だって、ノアちゃんが男ということを意識してしまうと、男性と一緒にいることに興奮して倒れてしまいそうだ。



それでも私は、どうしても聞きたくて声を震わせながらも聞いてみることにした。



「……そういえば、改めて聞くけどノアって…お、おとーー」

「ーーちょっと静かにしようか。そのことは後で話してあげるからさ。」



私の唇にそっと優しく触れるノアちゃんの人差し指。

指先から伝わるノアちゃんの体温に、私の脳内は一瞬で使い物にならなくなる。


誘っている。

誘っている。

誘っている。


唇にノアちゃんの人差し指が添えられたことを、ノアちゃんのアピールだと判断した私の脳は今すぐ襲えとの指令をだす。


誘っているんだから、別に襲ってもいいよね?


抑えようと思っても自然とそのようなことを考えてしまう。

体もいつの間にか急激に熱を持ち始め、体全体が熱くなる。


襲いたい。

襲いたい。


このまま本能に任せて襲ってしまいたかったけど、それだとノアちゃんに嫌われそうだし、周りの関係無い他人にまでノアちゃんが襲われることになりそうなので、必死に堪えた。



「…わ、分かった。だから…ちょっと、唇に指を添えるの止めて貰ってもいい?」

「え? あ、ごめん。」



ノアちゃんの心配の込もった優しい声。

すると、直ぐにノアちゃんは私の唇から直ぐに人差し指を退けた。

続けて欲しくなかったと言えば嘘になる。

しかし、あのまま続けられていたら本当に襲ってしまった気がするので仕方がない。


ノアちゃんを見ると、少し困った表情。

何か困ったことがあるのだろうけれど、その困った表情もノアちゃんだから愛おしく感じてしまう。

少し考えた後に、ノアちゃんは申し訳なさそうに口を開く。


「勝手に唇を指で触っちゃってごめん。」

「え?」


思わず言葉を口に出す。

まさか謝られるとは思わなかった。


「勝手に唇触られて嫌だったよね? 優しくするから、ハンカチで唇拭いてもいい?」

「別に嫌じゃないから、大丈夫だよ? ……寧ろ、もっとやって欲しいです。」

「……ごめん。最後の方聞き取れなかった。もう一回言って貰ってもいい?」


しまった。

ノアちゃんが言った言葉に驚いてしまった結果、思わず本心を言ってしまった。

しかし、運の良いことに聞き取られておらず私の言った内容がノアちゃんに伝わることはなかった。

危ない。セーフ。

………と思ったのも束の間、内容を聞き返されてしまう。


同じ内容を言うとノアちゃんに引かれてしまいそうなので、同じことは言いたくない。

でも、だからと言ってノアちゃんに嘘を付くことはしたくない。


そう思った私は、口パクかと思うほど小さな声で呟くように答えた。


「……寧ろ…もっとやって欲しいです。」

「ごめん。また聞き取れなかった。……もう一回いい?」



またしても聞き直される。

いや、別に聞き取れないように小さく答えたらそうなるのは当たり前だけども。


しかし、何度も恥ずかしい内容を何度も言わされていると何だか変な気持ちになってくる。

まるで苛められているかのように。

そう、本で読んだことのある『言葉責め』の恥ずかしい台詞を何度も言わせられるシチュエーションに感じてしまうのだ。

ノアちゃんにそういう意図が無くても。


考えれば考える程、変な気持ちになっていく。

ついに、私は妄想によって感情が昂ってしまった結果足に力が入らず、道端に座り込む。


あの本の最後は確か、無理矢理腰を掴まれて、現具で遊ぶかのように体を弄ばれて終わった筈だ。

腰が動かなくなっても、無理矢理動かされて……



想像してしまったのだ。

相手の男性をノアちゃんに、されている女性を私に置き換えて。


襲うのも好きだけど、私は襲われるのはもっと好きだ。

想像するだけで、簡単に体が反応してしまう。

気付けば私は厭らしい声を出し、体をそれに合わせて震わせていた。

ノアちゃんによって体が熱くなっていた為、簡単に気持ちよくなってしまったのだ。



終わった。

バレないようにと、顔を手で隠していたのにほんの隙間から覗くようにノアちゃんに見られてしまった。

それに、気付けば街中を歩く殆どの女性が私を冷たい憐れみを込めた目で見ている。


この街にはもう来れないし、多分ノアちゃんには引かれる。

多分、食事の約束なんて破られて私を置いて一人でノアちゃんは帰ってしまうだろう。


……何で、私は街中でこんなことをしてしまったのだろうか。


絶頂から奈落の底に突き落とされ、絶望で心が埋め尽くされた私は、 思わず下を向く。

ノアちゃんに引かれた今、私は虚無感に包まれて何も考えることが出来なかった。


街中を歩く足音がただ過ぎ去る。

そんな音をほぼ無意識の状態で下を向いていると、ドレスが私の上に被さり体が誰かに持ち上げられて、地面から体が浮く。


どうして持ち上げようとするのだろうか。

何処かに連れていって、ストレス解消にでも殴られるのだろうか。

このようになった今、別に殴られてもいい。

だけど、もう少しほっといて欲しかった。


誰が持ち上げたんだろうとドレスの隙間から見上げてみると、まさかのノアちゃんだった。

見捨てられなかったことが嬉しすぎて、思わず顔がにやける。

でも、どうして?


ノアちゃんの表情を見てみると、いつもと違って硬くなっていて怒っているように見えた。

やはり、私がここで昂ってしまったのはノアちゃんの怒りを買ってしまったのか……


すると、ノアちゃんが魔法を唱えた。


陰陽いんようあまの果てに、光をも超えよ。」



その刹那、体が不思議な感覚に包まれる。

何もない虚無に放り込まれたような感覚で、体が動かない。

でも、ノアちゃんに抱え上げられているせいかこの現象による不安よりも安心感の方が強い。

それに、ノアちゃんの着てたドレスから漂う脳内を刺激するノアちゃんの匂いに包まれて、そっちを気にするよりもノアちゃんの匂いに意識が向いて……しまう。



気が付いた時には、不思議な感覚は無くなっていた。

だけど、ノアちゃんの匂いに包まれたせいか意識がぼんやりと本当に働かなくなって来た。


えへへ。

ノアちゃん大好き。


「何も変なところはない?」

「………」


そんな当たり前のことをほぼ無意識で心の中で呟いていると、ドレスが開いてノアちゃんが心配そうな顔で私の顔を窺って来た。

勇者も驚きの不意打ち。

まさかドレスが開けられるとは思わなかった。


ドレスが開けられるのと同時に、私は目を瞑る。

あの化け物から逃げる時以上の、反応スピードだったと思う。


すると、ドレスがまた被せられノアちゃんの匂いにまた包まれる。

バレないでよかった。

正直、まだノアちゃんが怒っていないということが分からない為、目を開けるのが怖いのだ。

嫌いとか言われたら、もう立ち直れない。



「お兄ちゃんお帰りなさい!! お兄ちゃんが早く帰って来てくれて、ハル嬉しい。……でも、お兄ちゃんの抱えている女の人は誰?」

「……お兄ちゃんの友達だよ? 疲れて寝ちゃってるから、俺の部屋で寝かせてもいい?」


扉が開く音がしたなと思うと、聞こえてくるのは幼い女の子の声。

まさかとは思うけど、もしかしてここはノアちゃんの家なの?


ノアちゃんの家に来たことに興奮を感じた瞬間、ノアちゃんの匂いについに意識が保てなくなった私は意識を落とした。



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