第14話 現役時代の時だから
響院≪きょういん≫大学。
それは会科市の隣町にある大きな大学のことである。
そこに通う日高龍馬の姉、千鶴は今日もいつものメンバーと変わらぬ日々を過ごす。
「うおーい、我がゼミ仲間よ。よく聞けい」
そのいつものメンバーの一人、本庄琴音が一部だけピンク色の髪を靡かせながらそう口を開いた。
彼女の言うゼミ仲間とはゼミでグループワークをすることになった時の四人組のことで、そこにはもちろん千鶴も含まれている。
そして、再び本庄が口を開く。
「もう皆、知っていると思うけど、私一人暮らししているんだ」
「知らなかった話を急に言われたんだが」
「反応に困る」
本庄の言葉にいつものメンバーのうちの残り二人、岡部泰輝と下山康生はまるで野次を飛ばすかのように言った。
だが、本庄は気にせずに話を続ける。
「最初の一年は良かった。親元にいた時は食べることが禁止されていたカップラーメンを食べることができたから。だから、どこかに食べに行く時以外、私は朝昼晩、いつであってもカップラーメンを食べた。だが、それが間違いだったんだ」
「ど、どうしたというんだ」
「カップラーメンは美味しいだろう」
本庄の本気の熱弁に友人として一応反応している岡部と下山は棒読みでそう返事をした。
だが、まだ本庄は話を続ける。
「確かに美味しい。種類だって多様にあるから飽きだってしばらくは来ない。が、私が昨日、体重計に乗った時戦慄した。大学生活が始まってからと比べて太っていたんだ!!」
「俺らに恋愛感情がないとはいえ、健全男性の前でそんなこと話すかね、普通」
「右に同感」
本庄の言葉に呆れた岡部と下山は真顔でそう言った。
だが、本庄はまだまだ全開にしたエンジンを止めようとはしない。
本庄は椅子から降り、地面に膝を付けて言う。
「どうか哀れな私に自宅で簡単に作れるご飯の作り方を教えてはくれないだろうか」
「なッ!!」
「へッ!!?」
膝をついて真剣に頼む本庄の姿に、適当に返事をしていた岡部と下山は意外な彼女の行動に驚きを隠せずにいた。
だが、ずっと黙っていた千鶴は違う。
彼女の元へと近づくと、膝をつく彼女の肩に手を置いた。
「いいよ。私が教えてあげる」
「チヅル!!ありがとう!!」
「私がバレーの現役時代にお母さんに作ってもらっていた超大盛のスタミナ丼だけど」
と、千鶴はそこまで言うと、スマートフォンの画面を本庄に見せた。
その画面には満面の笑みを浮かべて千鶴と、その千鶴を邪魔するくらいに盛られたスタミナ丼がテーブルの上に置かれている写真が映っていた。
それを見て、本庄は冷静になり心の中でこう呟く。
(これを食べたら絶対今の三倍は太る!!)
と。
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