無敵でもそれは困ります!

「んん……んぐえ!」


 鼻を刺すような刺激的な臭いで、アインは目を覚ます。意識ははっきりしているが、視界は真っ暗。まるで目を瞑っているかのようだと感じたが、ゆっくりと周りの全ての輪郭がはっきりしていく。そこにはたくさんの人間の死体が転がっていた。動くものは存在しない。


「……うげ……なんだここ。」


 人の死体は現物を初めて見るが、目が慣れてきていたとはいえほとんどが真っ暗で隠れていたし、最近は自分がよく欠損するのでそこまでのリアクションはなかった。それよりも周囲に立ち込める臭いの方が辛い。


「外の暑さのせいで、多少は腐るより先に乾燥しちゃってるからまだマシな方なのかな……。さて、どうしようかな。」


 アインはこうなった経緯を思い出しながら周りを探る。どうやらかなり広めの空間のようだ。


 (うーむ、間抜けなお姉さんではあったけど、戦力差が想定以上だったなぁ。)


 あれだけの日光が照らされる下で肌をさらけ出せる存在など、この暑さの原因かその関係者しかあり得ないだろう。それに気づかないアインではないので、馬鹿な冒険者のふりをしてついていけば拠点などを突き止めることができるだろうと考えていたが、たどり着いた場所でなんの問答もなく急に意識が朦朧となり、背後から拘束された。おそらく薬を嗅がされ意識を手放したのだろうか。


「いやぁ……いくらなんでも油断してたなぁ。でも身体の暑さが消えてるのはラッキーかも。もしかしてご飯の分増えるのも実はダーちゃんの勘違いだったりしないかなぁ〜。」


 【不滅】に関しては、わからないことの方が多い。とはいえ、ダフネオドラ本人の加護であるわけだから彼女がわからないことがあることの方が不思議なのだが、以前に言っていたことを考えると経験したこと以外は存ぜぬことということである。


「とりあえず出ないとなぁ。どれだけ経ったかもわからないし……。ダーちゃんたちが無事であることを祈ろう……。」


 一生懸命、周りを探るアイン。どうやら天井の方に大きな穴が空いていることがわかる。蓋は閉められてるようだが、ここは干上がった井戸のようだ。奴らが、丁度いいと死体捨て場にしていたらしい。


「……石造りだし、乾いてもいるから壁を掴んで登れるかな。」


 深めの井戸なので少し苦労をしたが、上まで辿り着き蓋を下から持ち上げる。既に外は夜になっており、目立つことはないだろうと顔だけを出し、周囲に誰もいないことを確認した後、足早にそこを立ち去る。


「見張がいなかったってことは、多分ボクそうとうヤバめの殺され方したな……。」


 想像してすこしうんざりしながら、ダフネオドラたちがいる場所へ戻ろうと考えるが、まったく見覚えのない場所ばかり。


「……井戸があったってことは、オアシスから少しだけ離れた場所ってことなのかな。ちょっと急いで走り回るか。」


 軽くストレッチを行い、ダッシュを始める。目的地はない。こうして走り回っていればなんらかのヒントは得られるだろうと言う行き当たりばったりの行動だ。そうしてなにか起こらないかと考えている時、少し遠くに稲妻が落ちた。


「……もしかして!」


 一度足を止めたアインは目的地を落雷地点へと定め、あらためて走り出す。

 その落雷はアインの考え通り、ダフネオドラたちがいる場所の周辺に落ちていた。こうなったのも数時間前に遡る。


「アインさん、遅いですね。」


 彼女たちは、一度外へ出たアインのことはすぐに戻ってくるだろうとたかを括っており、本来の気象であれば冷え込むであろう夜間のための備えとして布などを探していた。


「そうですね、アインはなんでも一人で片付けようって考えるタイプですから、ここの犯人に捕まった可能性がありますね。」


「ええ……アインさんが!?」


 ダフネオドラの想定に対し、リーフが慌てる。


「落ち着いてリーフ。……ダフネオドラさん、居場所がわかる方法とかありませんか?連絡を取る方法とか。」


「今の私はそこらの妖精とそう変わらないのです。むしろ、魔力がありますし、リーフにお願いしたいくらいですね。」


「ウチですか……?」


「ふふ、いずれはお願いしますね。」


 魔力を用いた魔法により、生物や動くものの場所を探し出す方法も存在するが、それらに特化した修練が必要になる。リーフは魔族であり、魔力を持つが魔法はまだ使うことができない。


「【不滅】があるから死ぬことはないでしょうけど、捕獲されてると厄介ですね。……それに、あの子が捕まったのならもしかすると私たちも探されてる可能性が。少なくとも夜までは逃げ回らないと、逆らうことすらできなくなりますね。」


 ダフネオドラは考える。現状の気温や太陽光では、ただ動き回ることすら困難で、居場所がバレていないことを願ってここで息を殺しているしかない。


「少なくとも、アインがいなくなってから結構経ちます。それでも一切狙われていないと言うことは、居場所はバレてないか、一人いなくなったのを心配して出て行くところを狙っているかのどちらかです。これだけの環境を作り出した相手ですし、後者である可能性が高いでしょう。で、あれば夜まで待つのが得策です。どれだけの敵がいるかはわかりませんが、アインを解放さえすれば勝機はあります。」


ダフネオドラはかき集めた布を集めた山の上にのり、休息するように寝転ぶ。


「いいですか、ステム。今、リーフを守れるのは貴方だけです。何かあれば私を振るう覚悟を持っておいてください。」


「……わ、わかりました。」

 

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