無敵ですが暑いです。

 太陽の光がまるで地を焦がすかの如く貫かれ、曝け出した肌は火で炙ったかのように痛みを感じる。そんな場所に四人はいた。


「暑い……。」


「暑くても……二人はそのローブ……脱いじゃダメだからね。」


 グランジオス王国の北の森林地帯と火国の火山地帯の中間に位置する場所、そこにはドードリアス砂漠と呼ばれる砂漠地帯が存在していた。砂漠と言っても、人が住んでいないわけではなく、特に森林地帯や火山地帯に比べれば特段危険な生物がいるわけではない為、少し遠回りにはなるが、グランジオスから東に位置する水国と西に位置する風国にとっては、自ずと交易通路になると言うわけである。しかし今は周りを遠く見渡しても人影が見えない。


「これ……ボクに溜まった熱はどうなるんだろ……。」


「これほどの暑さ、経験ないのでわからないですね……。」


 熱の行きどころの謎を考えつつも、ゆっくりと足を進めるアインとその一行。目的地は火国だが、いまは近くのオアシスに向かっていた。その理由は急激な温度上昇だ。


「ドードリアス砂漠はある程度気候が安定してるはずなのに……。」


「ダーちゃんさん、大丈夫ですか……?」


 アインの肩ではなくリーフの頭の上、フードの下に潜り込む形で暑さを乗り越えようとしているダフネオドラ。彼女の経験からしてもこの暑さは異常気象ということだ。呆れた顔でステムが声をかける。


「はぁ、お二人はいつもこんなに無計画なんですか……?」


「おや、ステムくん。初日の野宿は冒険みたいで楽しいと言っていたじゃあないか。砂漠のど真ん中を歩くなんて冒険の定番だぞぉ。」


 ぽろりと漏れたステムの文句に皮肉で返すアイン。あの村を出てからまだ数日だが、ステムはアインとかなり年齢が近く、まるで友人のように接せられることからすぐに仲良くなり、ステムの修行と称して二人で剣の打ち合いもしている。

 その代わりと言ってはなんだが、リーフはダフネオドラとよくお話をするようになり、危険な生物などの敵が出てくる危険性がない場所ではリーフの元にいることが多くなった。


「砂漠とはいえみんなの交易路になってる場所に、冒険性も何もないでしょう……。」


「原因の究明、無視して進む、どちらにせよ、オアシスを目指すしかないからね。」


 体力は落ちないが熱が溜まりすぎて少し気分が悪くなってきたアイン。食事と同じように体に溜め込んだ熱が出ていかない仕様だと非常にまずいと思いながらも、そうでないことを祈りながら先頭を歩く。


「やはり解決を?追手に追われているのかも知らないんですよ。」


 ダフネオドラが言う追手とは、前に出会ったおじさんが国に報告すると言っていたので、生きていることはバレていると想定しているのだ。実際にはおじさんは村で療養中との名目で村から離れていないので、バレてはないのだが。


「当たり前だよ、ダーちゃん。どれだけ時間がかかろうとも勇者は困ってる人は見過ごせないからね。」


 初代のような勇者となることは今のアインにとっての心の支えでもあり、行動基準でもあるのだ。急ぐ旅ではあるが、国がどうなっているかをある程度知れた今ならむしろ人助けをしながら行脚した方が、情報を得ることもできて良いと考えている。


「そろそろ見えてくる頃だと思うんだけど。……あ、あった。」


 見えてきたのは砂漠によくある砂を固めた材料を使った建築物が建ち並ぶ街、その名も『オアシス』。そのままじゃないかと思うものもいるだろうが、この広大な砂漠においてオアシスと呼べる場所はこの一箇所しかないのだ。その場所に人が集い街を作ったのが、この砂漠から野生の生物がいなくなった原因の一つでもあるのだろう。


「国ってわけでもないし、誰かが代表して統治してるわけでもない、いわゆる旅の拠点だから……。ほとんどが行商人だから治安が悪いわけではないけど、法が効いてる訳でもないから離れないでね。」


 一行はひとまず水を確保するため、オアシスの中心地へ向かった。そうして歩いていると、大きな違和感を感じ始める。


「……人がいない……?」


「そうですね……まだ一人も人間を見ていません。それどころか生き物すら。」


 何故だろうか、その疑問はすぐに解決することになる。


「あー!」


 たどり着いたオアシスの中心地、砂漠の真ん中の広大な湖は、完全に干上がっていたのだ。広大な広場が広がるばかり。


「……まさか、この暑さで……?」


 砂漠に人が一切歩いていなかったのも、このせいだろうか。しかし、そうなると行商人たちはどうしているのだろうか。


「この暑さ、原因がわからないからどうしようもないけど、ひとまず近くの宿を勝手に借りよう。日差しは防げるだろうし……。」


 いた仕方なく、宿を借り、日差しを凌ぐ一行。夜になれば、今度は冷え込むだろうが今よりはアインが行動しやすくなる。


「君たちの安全が確保できれば、ひとまずボクだけで捜索できるからね。……とはいってもここまでの日差しだ。日輪の神が直接悪さをされている可能性が高いと思ってる。」


 アインはおじさんの言っていたことを思い出している。王国が何らかの方法で神から加護を奪っていると。そんなことができるなら五大国が祀る神とそれらと直接関わる神は真っ先に狙われるだろう。


「洞窟にいた頃は変に思わなかったけどな。何でこの辺だけなんだろう。もしかして日輪の神じゃないのかな。」


 わからないなぁと思いながら、一旦アインだけ外に出ると、謎の声がかかる。


「……え……アナタ、誰?」


「え?」


 声をする方をアインが振り向くと、そこには褐色のナイスバディな身体を日の下に晒し、圧倒的に布面積の少なくまるで遊女のようなめかし込んだ衣装を着ている仮面で顔を隠した女性がいた。


「ボクは旅の者ですが、どちら様ですか……?」


 アインは怪しいなぁと思いながらも一応普通に話しかける。いや、ほとんど間違いないなと考えているが。


「あ……この辺で酒場をしているんですが、人がいなくなったので生活もままならず……そろそろ離れようとしていたのです。」


「そ、そうなんですかぁ。……あの、もしよかったら街を案内してもらったりできますか?水とかを分けてもらえると嬉しいんです。」


「わ、わかりました。お任せください……こちらへどうぞ。」


 そうやって案内をしてくれる仮面の女性。その仮面の下の顔がニヤリと笑ったのをアインは見逃さなかった。


 (なんか、すごく間抜けだけど大丈夫なのかな……。)


 アインはめちゃくちゃ失礼なことを思いながら、一人でその女性についていくのだった。

 


 

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