無敵がいくので開けといてください。

 加護とは、この世界に存在する神が、人やその他の生物に与える特殊な能力のことであり、人智を超えた力を発すると言われている。とはいえ、そのほとんどが各地の伝説やお伽話であり、実際に存在した記録はたった一つ。それはグランジオス・テルクスト、グランジオス王国初代王であり、勇者その人である。彼は光の神である【アマル】から加護を得て、魔王を討ち払ったと記録が残っている。それらを見つけた現在の王が、なんらかの能力を駆使して神から無理やり力を奪い取りそれらを人に与え魔族を殺すように命令を出しており、多額の報酬を約束もしている。


「と、まァここまでが俺の知ってる情報だ。」


 村長の家のベッドを使い、両腕の処置を終え、なんとか失いかけていた意識も保ったかと思いきや、即座に起き上がり聞いてもないのに話し出す男。


「喋れるようになったと思ったらめっちゃ喋るじゃん、おじさん。」


 そんな男の隣で剣をしまうこともなく、立ったまま少しだけ気を抜くアイン。

 

「俺ァまだ20代だ。どうせ聞かれるんだから知ってること答えといた方がはえェしな。」


「ふぅーん、おじさんの加護は?」


「……俺に与えられた加護は【衝撃】。戦闘特化の加護って訳でもなく、衝撃を消すこともできる便利な能力さ。」


「へぇー面白そう。それもらえたりしないかな。」


 加護を集めていけば、本当に無敵になれるのではと期待したアインに男は首を振る。


「加護は一人に一つさ。複数の加護を得るなんて事すりャ、まともな精神じゃいられなくなる。耐えられなくなって発狂するか、死ぬかの二択さ。」


「それは困るなぁ。」


 ヘラヘラと笑い飛ばす。結局のところ、今回の件については問題が増えただけである。いや、先に知れただけでも良かったのかも知れないが。

 そんな中、今は怪我も病気もしてる暇などないのだ。


「……何者なんだお前……?」


「旅人〜。」


 加護の明確なデメリット。それを初めて知らされたという顔をしておいて、笑みを浮かべている精神は側から見れば異常である。男はその正体を探るつもりだったが、まともな答えは返ってこなかった。


「……俺はこのことを王国に報告するしよォ、これからも魔族狩りをやめねェぞ。」


「そんな腕で?……あーでもそうか、加護を消す方法はないのか。どうしよ。……うーん、おじさん、名前は?」


 とりあえず最低限でも名前と顔を一致させておこうと、アインはボサボサの髪と綺麗とは言い難い顔を覗き込む。


「あァ?……名前なんざない。」


 彼が生まれたのは王国外の貧乏な村。その日食うにも困るような生活をしていた親は彼を王国近くに捨てた。気がついた頃には盗みや暗殺で生きていた。王国内はずっと憧れだった。そんなおり、王国の門兵が取り払われ、誰でも出入りができるようになり、何事かと思っていた中、美味い話を聞いたのだ。


「へぇ〜、じゃあまぁおじさんでいいか。おじさん、多分騙されてるから王国には帰らない方がいいと思うよ。」


「……は?」


 彼にとっては王国は素晴らしい世界という認識であり、そんなことはないと否定をしようとするが、つい最近の変わりようも違和感はあったのだ。


「ボクは神様じゃないけど、ひとまず代理ってことで両腕は今までの罰として斬ったから。この村の用心棒とかして生きればいいとおもうよ。」


「だからさっきから何言って……。」


 男が、再度尋ねようとするも、アインは無視して出ていく。近くの建物で寝ている少年を起こし、リーフの元へ連れていくのだ。


「起きて、いくよ。」


「助けてくれたお兄さん……?」


 少年が目を覚ます。身体中の傷が痛々しいが、どうやらそれ以上の損傷はなさそうで、一応は無事と言っていいだろう。これ以上、この村に留まらせても仕方ないので連れていく。


「そうそう。さ、行こう。近くで妹ちゃんが待ってるよ。」


 村の外、先ほどの崖の上。リーフを待たせていた場所だ。リーフと少年はお互いに涙を流して喜び合っている。


『これで一応目的は果たせましたね。』


 剣のまま、話し出すダフネオドラ。男とアインが話している間、いや正確には戦闘の後、村の中にいる間、一切黙っていた。アインに黙っておいた方がいいと言われていたのだ。


「魔族への迫害自体はあったんだろうけど、リーフを追い出すだけでなく場所まで聞き出そうってのはさっきのおじさんのせいだろうし、追われることはないだろうね。」


『この後リーフたちをどうするつもりなんです。』


「んー、まぁ火国までの道連れかなぁ。途中でいいところがあったら置いて行ってもいい。進軍スピードは落ちるだろうけど、まぁ仕方ないね。はい、戻っていいよ。」


 剣をぽんと空に投げる。姿を変え、妖精の姿に戻ったダフネオドラはアインの肩に戻る。全速力走が出来なくなるのはダフネオドラ的にはありがたいかも知れない。


「……貴女、追われるかも知れないんですよ。」


「うん、そうだね。」


 さらりと返事を返すアイン。


「いいんですか?」


「……周りに迷惑かけそうなのがちょっとやかなぁ。特にダーちゃんには。」


「……貴女からの迷惑は今でも充分多いので大丈夫ですよ。」


「なんでよ!そもそもダーちゃんだって……。」


 二人の言い争うが始まりそうな瞬間、少年とリーフが近づいてくる。


「あ、すみません……。今回はありがとうございました。僕の名前はステムと言います。リーフのことも助けていただいたみたいで……。」


 ステムと名乗った少年は、ぺこぺこと頭を下げる。


「いいんだよ、とりあえずはボクたちについておいで。火国までは向かう予定だから。安全に暮らせる場所を見つけたら、そこに止まれば良い。」

 

 「お兄ちゃん……そうさせてもらおう?アインさんたちは勇者様だから……。」


 こうして、二人の道連れが追加された。とはいえだ。


「……というか、せっかくの村を一切止まることなく出ていくんですね貴女。」


 喋り出したダフネオドラをみて、ステムは少し驚く。


「ダーちゃん?」


「いえ、その……今日の夜は……。」


「あー、確かに。また野宿だ。」


 すでに慣れ始めたアイン。タイトルにもなってるのにそんな反応しないでください。もっと嫌がって。歩き出した3人と一柱。


「さぁて、目指すは火国!いざ行くぞー。」

 

 さて、そんなころ村長の家の中、男は失った両腕を見つめ、村長たちを呼び出した。


「……ご無事で何よりですじゃ。」


「……いや、魔族を差し出す代わりに村を守ってやるって言っといてこれだ。すまねぇ。」


 そんな言葉を聞いても、首を振る村長。

 そんな彼をみて、男も目を伏せる。


「王国に帰られるのですか?」


 怪我自体の処置は終わっているが、まだ外を歩けるような状態ではない。村長としては心配になっている。


「いや……少し考えるさ。」


 男にとっての王国は憧れだった。どちらにせよ、いずれは帰るが……今ではない。

 ひとまずは怪我を治すことを念頭に置くことにしたのだった。

 どうやらアインの旅に、新たな障害が生まれることは無くなったようだが、これから加護持ちが襲ってくることがあるのだろうか、そんな時アインたちは立ち向かうことができるのだろうか。

 そして、復讐を果たし、平和な王国を取り戻すことができるのだろうか。

 

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