無敵のボクが来ましたよ

 周りはかなり暗くなってきており、洞窟の火を消すともう外は何も見えない状態だ。まさに一寸先は闇。しかし、彼女たちにはダフネオドラによる植物たちの案内がある。ダフネオドラはふわりと飛び上がった後、少しの間くるくる回った後、またアインの肩に戻る。


 「向こうのほうみたいですね。少し距離はありますが、このまま闇に紛れて攻めますか?」


 「うーん、そうだね。夜間行動には賛成なんだけど。」


 肩にとまったダフネオドラをそっと捕まえて、下におろしてあげてから寝転ぶ。兄を心配するリーフは、その様子を落ち着かなく見つめるが、アインは気にする様子を見せない。


 「?」


 「今日のところはいったん眠ろう。いくら時間がないとはいえ、ぼろぼろのリーフちゃんを連れまわすわけにもいかないし。」


 さらりと告げたあと、すぐに目をつむる。


 「時間はないかもしれないけど、成功の確率は最大限上げて挑もう。戦闘になってしまうと……多勢に無勢だし。昼のうちに近寄れるだけ寄って、作戦を練ろう。」


「……はい。」


 真っ暗な空間にリーフの声が響く。心配を噛み殺すような声だが、少し経つとゆったりと寝息を立てるようになる。


「相当疲れていたようですね。で、この後どうするんですか?リーフが寝ている間に向かうつもりなのでしょう?」


「あ、うーん。お兄さんはかなり辛い思いをしてる可能性があるし、それも考えたんだけど、リーフちゃんを置いていくわけにも行かないし……。」


「では、本当に睡眠を?」


「んー寝る意味はないから、とりあえず待機かな。新技開発みたいなことする?」


「……この闇の中で、ですか?」


 「だよねぇ。」


 二人は寝転んだまま、相談をする。

 しかし、会話をしているうちにダフネオドラは寝落ちてしまう。


「……ひとまず、ボクも睡眠をとるか。」


 いくら体力は無限だとしても、心は人のまま。それに気づいている彼女は人としての営みを全て無くすことを良しとしなかった。食事が摂れなかったのは、それなりに予想外だったということだ。


「はぁ〜、にしても、今日も野宿かぁ。せめて布くらいないかなぁ。」


 眠くもないのに寝るのは意外としんどいなぁと愚痴をこぼしながら、アインは浅い浅い眠りについた。夜の闇は、想像以上に静寂で、近場の川の流れが心地よく響いていた。

 朝日が昇り、仄暗い洞窟にもじんわりと光が差す。この世界にとって陽の光は日輪の神の恵みと言われている。世界中の様々なものに神は宿り、時に人に力を与えてくれると言われている、そんな御伽噺や伝説が各地方にはたくさん存在しており、特に五大国にはそれぞれの国にちなんだ神が祀られている。


「さて。」


 アインは目を覚ます。他の二人はまだ眠っているようだ。起こさないよう慎重に外に出る。樹木の間から陽の光が溢れでていて、まるで光のシャワーを浴びているようだと感じながら、彼女は手足の腱を伸ばすストレッチを行う。


「ちょうどいいのがあるといいけど。」


 何もしてないのは落ち着かない。それにどうせ疲れることはないのだ。例えば、少し大きめな岩を探し出して、持ち上げる。木と木の間を駆け抜ける。それらはちょっとしたトレーニングを、と思っての行動だったが、筋繊維へのダメージもない訳で、成長は見込めるのだろうか。

 そんな事を考えてながらも、手や足は止まる事なく。そうしていると、ダフネオドラとリーフが目を覚まし、洞窟の闇から姿を現す。


「よく眠れた?」


「起き抜けに身体が痛いのは初めての経験です。」


 彼女は小さな体でふらふらと歩いてアインへ向かう。アインはそのまま抱え上げ、彼女を肩に乗せる。


「リーフも、大丈夫かな?」


「は、はい……ちゃんと眠れました……。」


 寝起きは苦手なのか、目を擦ってでもしっかりと前を向うと頑張るリーフ。


「じゃあ、出発しようか。」


 と、いいつつリーフに対して背中を向け、しゃがむ。


「?」


 戸惑うリーフに、アインは前を向いたまま告げる。


「こうした方が、速いからね。」


 リーフを背負い、頭の上にダフネオドラを乗せた状態で歩き出す。植物たちはうまく避けていくので障害は足元に転がる木や石くらい。気をつけるべきそれらもアインの前では大したものではない。大きな音は立てず、しかし、最速でリーフが元々いた村に向かう。そうしていると、人が二人ほど通れそうな道に出る。


「ん、獣道じゃないな……。」


 野生の動物が踏み荒らしたような感じではなく、統一性を感じる草木の刈り取り方。おそらく人が使っている小道だろう。


「……離れた方が良さそうですね。」


 ダフネオドラの案内により、さらに脇道に外れつつ、目的地に向かえる道を目指す。


「ボクもそう思う。……一応きいとこ。リーフ、この道は合ってる?もしなんか気をつけることあるなら教えて欲しいかも。」


「あ……村を出たことないからあんまり分からなくて……。」


「ありゃ、そりゃそうか。どちらにせよ村の配置は確認したいから高いところに向かおう。」


 逸れた道を進んでゆくと、少し高いところへ辿り着く。まるでおあつらえ向きに用意されたようなくらいわかりやすく村全体を見渡せる崖だ。木が3、4本くらい分の高さがあるので、人が落ちたら怪我では済まないだろう。見渡すと、なんともタイミングの良いことに村人たちが男の子に鞭を打っているようだ。


「見てくださいアイン。村の中央辺りの広場です!」


「お兄ちゃんが!」


 ダフネオドラの指示とリーフの悲鳴が上がる。この光景は、彼に対するいわゆるお仕置きということなのだろうか。人々の暮らしを邪魔するつもりはないし、村の決まりを否定するつもりはないアインだが。


「あーそういう感じか……。ちょっとムカつくな。ダーちゃん!変身!」


「ええ!」


 抵抗のできない年端もいかない少年を、囲って鞭打つ。その行為から感じる理不尽さに立腹。ダフネオドラが変化した剣を握りそのまま跳ねるように飛び降りる。


「あっ、ええ!?」


「リーフはそこで待っててね!」


 跳ねた勢いで飛ぶように向かうは現場。ちょっぴり足りないのはご愛嬌。

 広場の少し手前の道から大きなものが落ちてきて潰れるような、そんな音が聞こえるので村人たちは鞭打つその手を止めてその方向を向く。


「なんだ……?」


「人か?」


 ざわつく数人の男たち、未知への対応のためそのまま鞭やナイフなどの武器を取り出す。しかし、落ちてきたそれはまるでそこまで歩いてきたのかのような平然とした態度で立ち上がった。ちょっぴりだけ笑顔で、でも全く目は笑っていない、そんな表情。


「やぁ、こんにちは。勇者参上って感じ?」


 

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