第280話 予期せぬ訪問者(3)
突然の王族の訪問に緊張で全身が石になる。
「ど、どうぞ中へ!」
私はやっとの思いで淑女のお辞儀をすると、ぎくしゃくと回れ右して貴人達をお屋敷に案内する。
玄関ホールで室内用の呼び鈴を鳴らすと、二階の作業場からアレックスが顔を出す。彼女は吹き抜けをコの字に囲っている廊下の手摺から身を乗り出して、階下の私達を見下ろした。
「どしたのー?」
「アレックス、ベルナティア様を呼んでくれる?」
「私がどうかしたか?」
庭師が振り返る前に、当事者が現れた。ベルナティア様は玄関ホールを一瞥して――
「オリー!」
――婚約者に気づいていきなり手摺を飛び越えた!
ちょ、二階まで私の身長の三倍以上の高さがあるんですがっ。
しかし、流石は近衛騎士団総長。空中でくるりと一回転して見事に着地する。
「わっ、かっけー!」
「アレックスは階段で下りて!」
キラキラな笑顔で手摺に足を掛ける少女に私は必死で待ったをかけた。良い子は真似しないでね!
ガスターギュ家の使用人達が騒いでいる間にも、高貴な恋人達の会話は進んでいく。
「どうしたんだ? オリー。何故ここに?」
「急に君の顔が見たくなっちゃったんだ。迷惑だった?」
「そんなこと! 私はオリーに会えるならいつでも嬉しい」
……なんだか、空気がピンク色に染まってハートが乱舞しているのが見える気がします。
「ティアが最近シュヴァルツ将軍の家に行っているって聞いて、来てみたの」
オリヴァー殿下の言葉に、ベルナティア様は顔を曇らせる。
「心配掛けたならすまない。でも、私は誓ってやましいことはしていない」
「うん、疑ってないよ」
真剣に弁明する彼女に、彼はにこにこと、
「でも、何してるの?」
うっ、と総長が怯む。
「……内緒」
婚約者に事情を話してなかったんですか、ベルナティア様。
「もうすぐ解るから、今は内緒だ。この屋敷にはシュヴァルツ卿にではなく、ここで働いているミシェルとアレックスに用があって来ているのだ」
「今は教えてくれないの?」
上目遣いに顔を覗き込んでくるオリヴァー殿下は天使のように愛くるしくて、ベルナティア様は「ぐはっ」と仰け反ってしまう。なんか射抜かれましたね。しかし、
「ダメだ。驚いてもらいたいから。その……結婚式で」
頑張って堪えるベルナティア様。でも、今の台詞でほぼバレたと思います。
「そういえば、どうやってここまで来たんだ?」
「トミーだよ」
顔だけ振り返ったオリヴァー殿下に、ベルナティア様は漸くもう一人の訪問者の存在に気がついた。
「彼が馬車を手配してくれて、ここまで送ってくれたんだ」
気さくな王子の言葉に総長は一瞬だけ眉を顰め、すぐに真顔に戻した。
「ベイン殿、ありがとう。我が婚約者が世話になった」
「いえいえ。王族を守るのが臣下の役目。殿下が行き倒れにでもなったら、俺が反逆罪で首を
飄々と返すトーマス様に、
「絞首刑になんかならないよ、もっとエレガントに斬首刑かな」
オリヴァー殿下がふわふわと言葉を繋ぐ。
……エレガントな処刑方法って……?
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