第221話 ミシェルのドレス(5)

「お、ミシェル上手いじゃん。これなら納品の時、買い取り価格にイロがつくよ」


「そうかな?」


 アレックスに誉められて、私はエヘヘと笑う。

 庭師少女に教わりながらの造花作り。作業に没頭していると、青い絹の花はいつの間にか足元を埋め尽くすほどの数になっていた。勿論、この花はどこにも納品せずに全部ドレスの装飾になる予定です。


「前身頃だけじゃなく、スカートにも花を縫い付けるのはどうかな?」


「いいんじゃない? でも、多すぎてもうるさいし、少なすぎても貧相だから、付ける量が重要だぞ。あと、同じ色と大きさじゃ単調だから、白や少し濃い青の花も混ぜよう」


 さすが庭師、美的センスが鋭い。私にはない感性が広がるから、誰かと物作りをするのは楽しい。


「ここにはあえて何もつけない方がいいんじゃない?」


「こっちは大ぶりの花をつけると印象が強くなるよ」


 トルソーのドレスに出来上がった花を当てて二人であれこれ談義していると、


「お嬢様方、ちょっと……っと!」


 裁縫室に入ってきたゼラルドさんが、床に散らばったブルースターを踏みそうになって慌てて足を引っ込めた。


「いやはや、壮観ですな」


 突如室内に現れた花畑に、家令は目を見張る。


「この花、ドレスの装飾にするんです」


「それはさぞ可憐な仕上がりになることでしょう」


 私の言葉にゼラルドさんは満足そうに頷いてから、はっと表情を引き締めた。


「ところでお二人はシュヴァルツ様をお見かけしませんでしたかな?」


「朝食以降、見ていませんよ」


 今はお昼時。今日は各自作業をするということで、昼食は好きな時間に食べれるように朝からバスケット二箱分のサンドウィッチを作って厨房に置いておいた。シュヴァルツ様の本日のご予定は、ゼラルドさんに夜会のマナーを教わるはずだったのだけど……。


「先程から姿が見えないのです。確認いたしましたら、サンドウィッチのバスケットが一つ消えていました」


 ……逃げましたね。


「きっと、夕ご飯には戻ってきますよ」


「それでは遅いのですが」


 がっくりと肩を落とすゼラルドさんに、私は苦笑するしかない。シュヴァルツ様は型に嵌るのが苦手な方だから。


「アレックス、休憩しようか」


 私は手にした造花を置いて、同僚の少女に声を掛けた。


「いいね。お腹ぺっこぺこ!」


 食べざかりの庭師は飛び跳ねて返事する。


「ゼラルドさんも、お昼まだでしたら一緒にどうですか? 多分、探してもシュヴァルツ様は見つかりませんよ」


 すでに敏い家令の目を盗んで脱出した時点で追跡は不可能だろう。私の提案に、


「……では、美味しい紅茶を淹れましょうか」


 ゼラルドさんは諦めのため息をついた。

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