第206話 夜会の準備(2)
そんなわけで。ゼラルドさんの呼びかけで玄関ホールに集まったのは、シュヴァルツ様と私と……野次馬のアレックス。
貴族屋敷の玄関ホールはホームパーティーの会場や舞踏室としても使われるので、床は踊りやすい設計になっている。
「まずは定型のステップをお教えしましょう。ミシェル殿、よろしいですかな?」
ゼラルドさんが言いながら差し出してくる。
「は、はい」
重ねた手が握られ、ホールドが組まれる。ゼラルドさんが口でカウントを取りながら、足を一歩踏み出してくる。定型のステップなら、私も知っている。彼の動きに合わせて、私も一歩足を引く。
「お、かっけー!」
リズムに乗ってくるくると踊り回る私達に、アレックスが手を叩いて感心している。
すまし顔でがっしりと私の体を支え、的確にリードしていくゼラルドさんは息一つ乱していないけど……私はついていくだけで精一杯です。同じステップを繰り返しホールを一周してから、家令とメイドのペアは最初の位置で足を止めた。
「……と、いう感じですが、お解りいただけましたかな?」
一息ついて主を振り返るゼラルドさんに、シュヴァルツ様は鹿爪らしい顔で、
「解らん」
……ですよねー。私達のダンスを見る目が興味なさげでしたから。
でも、シュヴァルツ様がこの国の高官である以上、これからも王命の夜会は避けては通れぬ道。今ダンスを覚えておいて損はない。だからこそ、使用人一同はご主人様のために尽力いたしますよ!
「それでは、実践に移りましょうか。ミシェル殿、お相手を」
「はい」
パートナーをチェンジして、今度はシュヴァルツ様と私が向き合う。
わっ、目線が全然違う。ゼラルドさんも背が高い方だけど、それより見上げる首の角度が急になる。
「では、シュヴァルツ様は左手でミシェル殿の右手を取り、右手をミシェル殿の背に添えてください」
これがフォルメーアのパーティーダンスの基本的なホールドだ。普段より近づいた距離に、ゼラルドさんの時には感じなかった緊張感に喉が渇く。
「小さい手だな」
分厚い掌にすっぽり収まってしまった私の手を横目で見ながら、将軍が呟く。ドキンっと高鳴る胸に、私が顔を上げた……瞬間。
「うっかり握りつぶしそうだ」
……潰さないでください。
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