第124話 秋の楽しみ(3)

「おかえりなさいませ、シュヴァルツ様。どうされたのですか?」


 私は慌てて駆け寄って門を開ける。いつもの帰宅時間からはまだ大分早い時間だ。


「ただいま。仕事で近くまで来たから直帰したのだが……」


 シュヴァルツ様は事も無げに答えてから、怪訝そうに眉根を寄せた。


「槍柵の間から魂の抜けた顔で焚き火を囲んでいるお前らが見えてな。怪しげな儀式でも行っているのかと思った」


 ……こんな明るい内から魔宴サバトは開きません。


「やや! これはこれはシュヴァルツ様、おかえりなさいませ。すぐにお茶の支度を致します!」


「べ、別にオレ達サボってたんじゃねぇ……ですよ! 庭の落ち葉を処分してただけで……」


 突然の主の出現に、焚き火の幻惑に囚われていた使用人二人は、はっと正気を取り戻し動き出す。そして、焦るとアレックスの敬語はいつにも増して危ういです。

 狼狽える使用人に、ご主人様は鷹揚に返す。


「お前達が日々きちんと働いているのは家を見れば判る。自身の裁量で息抜きするのを咎めたりはせん。むしろ、抜けるところは手を抜いていけ」


 こういうところは、シュヴァルツ様はとてもおおらかです。強制的に休憩時間を増やされた身としては、耳が痛いです。


「シュヴァルツ様も焚き火に当たりませんか? 暖かいですよ」


「うむ」


 私は将軍を誘って、穏やかに燃える落ち葉の山へと足を向ける。

 思いもよらず、ガスターギュ家勢揃いで焚き火を囲む。みんなと一緒ってだけで、なんだか嬉しい。


「こういう簡素な焚き火は進軍中の野営を思い出す」


「いかに煙を出さずに燃やすかが肝ですな」


 呟くシュヴァルツ様に、傍らのゼラルドさんがしみじみ頷く。このお二人は、色々と相通じるものがあるらしく、たまに二人の世界を作っています。


「せっかくこんな大きい焚き火があるんだから何か焼こうぜ、芋とか」


「厨房に何本かヤム芋がありましたけど……」


 アレックスの提案に私が窺うように見上げると、シュヴァルツ様は愉快そうに目を細めた。


「それはいいな。ミシェル、他にも焼ける食材があったら持ってきてくれ。たまには行儀を忘れて食う料理もいい。……勿論、夕飯の支度がまだならだが」


「はい、大丈夫です!」


 夕食はまだスープの仕込みしかしていないから、他の食材は焚き火料理用にアレンジしてしまおう。立派な屋外グリルもあるけど、火力は敢えて焚き火だけというのも面白いかも。


 ……やっぱり、シュヴァルツ様も居てくれた方が、何倍も楽しいな。


 焚き火の燃焼時間は限られている。

 私はいそいそと食材の準備に取り掛かった。

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