第113話 ガスターギュ家の使用人(3)
あまりのことに目を皿にして固まる私とアレックス。初老の紳士はそのまま怒涛の勢いで彼女に捲し立てる。
「その無礼な立ち振舞い、高貴なお方のお屋敷に勤める心構えがまるでなっておらん! 礼儀を弁えなさい!」
ひぃっ。あまりの迫力に、怒られてない私まで首を竦めてしまう。
しかし、気の強いアレックスは怯みながらも反論する。
「な、なんだよ、いきなり難癖つけやがって。オレがオレらしくするのはオレの勝手だ。じーさんには関係ねぇだろ!?」
だが、ゼラルドさんも負けてはいない。
「無論、
ザクッ!
執事歴三十年以上の老紳士の言葉は、刃となって私の胸にも突き刺さる。うう、痛い痛い、ごめんなさい。彼女の振る舞いを許していた私も同罪です。
さすがのアレックスも顔を真っ赤にしてみるみる涙目になったが……、
「そんなの知るか! バーカ!」
キッと顔を上げると掴んだ藁をゼラルドさんに投げつけ逃亡した!
わわっ! 隣にいた私まで藁まみれだ。
「待ちなさい!」
脱兎のごとく庭の中心に走っていくアレックスを追いかけ、ゼラルドさんも駆け出す。
「ダメです!」
私は慌てて叫んだ。庭に誘い込んだのはアレックスの作戦だ。だって……、
「罠があるのでしょう? 判っております」
振り返ったゼラルドさんは、白髭に埋もれた口角を不敵に上げる。
「え? なんで……」
「目印が見えます」
元傭兵は事も無げに、
「並んだ小石、枯れ枝、色の違う草。見る者が見ればどこにどのような罠が仕掛けられているかは一目瞭然。山岳ゲリラがよく使う手法です」
……うちのご主人様は正規軍です。
私とアレックスは見取り図を持っているし目印も教えてもらってたけど、初見で気づく人もいるんだ。
「ですので、心配御無用」
ゼラルドさんは60代(昨日の話から推測)とは思えない身のこなしで颯爽と足を進める。
私は玄関ポーチから子供と大人の追いかけっ子を呆然と見守っている。
アレックスはチラチラと振り返りながら庭を走り回るが、徐々に距離を詰められ……。
べしゃっ。
あ、転んだ。
草を結んだ足掛けの罠に引っかかったのだ。
それはアレックスが罠のある場所を忘れたからではなく、気づかぬ内にゼラルドさんに巧みに誘導された結果だ。
息一つ乱していないゼラルドさんに腕を背中に拘束され、ぐったりと玄関ポーチまで連行されるアレックス。捕物の手際が憲兵よりも鮮やかです。
……今日のガスターギュ邸は朝から大騒ぎだ……。
その後、私が仲裁に入ってなんとか二人を宥めた後、使用人達は通常業務に戻りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。