第112話 ガスターギュ家の使用人(2)
「いってらっしゃいませ」
シュヴァルツ様のお見送りをしたら、お洗濯開始。リネンを洗うのは週に二回。シーツもタオルも毎日換えているから、洗濯の日は大荷物だ。
洗濯場で大物を踏み洗い、シャツ類は優しく手洗いして裏庭の物干しに掛けていく。
洗濯が終わったら、朝市に行くついでに共同浴場へ。さっぱりしてからお買い物。今日はゼラルドさんがいるから、いつもより多く食材が買えます。
「お風呂屋さんは明け方から深夜まで。朝の方が湯船が綺麗なのでおすすめです。お野菜は市場の入口のお店が新鮮ですが、売り切れるのが早いです。角の青果店はたまに珍しい果物を入荷してるんですよ。お魚は奥の店。新鮮ですし、好きな形にさばいてくれます。路地裏のお肉屋さんは揚げ物が美味しいです。ガスターギュ邸は休日は料理禁止なので、食堂やデリカテッセンのお店を覚えておくと便利です」
「休日料理禁止……ですか?」
「はい。シュヴァルツ様のお仕事に合わせて週末は定休日です。働くのも禁止です。あとは相談すればお休みがもらえます」
「は、はあ……」
キョトンとしながら私の隣を歩くゼラルドさん。……まあ、ガスターギュ家は色々不思議な取り決めがありますからね。うちはうち、よそはよそです。
大量の食材を厨房に片付けたら、次はお掃除。
玄関ポーチを掃き掃除していると、
「おーい! ミシェルー!」
通用門から手押し車に藁をいっぱい載せたアレックスが入ってきた。
「おはよう、アレックス。それは何?」
「マルチングの藁。畑の畝に敷くんだ」
藁を敷くことで、虫よけや雨による肥料の流出を防ぐ効果があるそうです。
「アレックス、髪に藁くずがついてるよ」
私は彼女の前髪に絡んでいた枯れ草を指で摘む。相変わらず櫛も通していないボサボサの赤毛は無造作に麻紐で一纏めにされ、襟のよれたチュニックに、ウエストの合わないダブダブのズボン。(父親のおさがりらしい)
「ちょっと待ってて。今、ブラシ持ってくるから結び直してあげる」
「へーきへーき」
室内へ戻ろうとする私に、彼女はへらりと笑う。
「髪なんか邪魔にならなきゃどんな結き方でもいいじゃん」
年頃の娘さんにしては捌けた発言だ。
「それよりさ、このじーさん誰?」
無造作に私の傍らに立つゼラルドさんを指差す。
「人を指差してはいけません。この方は今日から一緒に働くことになったゼラルドさんです。ゼラルドさん、こちら庭師のアレックスです」
年少者の非礼を咎めつつ、二人の紹介をする。
「お、新人か。じゃあ、オレの方が先輩だな。よろしく、じーさん」
尊大にふんぞり返って挨拶する少女。対する年配の男性は、俯いてふるふると肩を震わせていると思ったら――
「いかーーーーーーん!!」
――突然、雷のような憤怒の雄叫びを上げた。
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