第111話 ガスターギュ家の使用人(1)
使用人の朝は早い。
東の空が白み始める頃に起き出し、まずは水汲み。それから朝食の準備を……。
「あ」
井戸から汲んできた水を瓶に移そうと厨房に向かうと、そこにはゼラルドさんが立っていた。
グレーヘアーをオールバックに固め、三つ揃えの
「おはようございます、ゼラルドさん」
「おはようございます、ミシェル様」
彼は私の手から桶を取ると、瓶に水を注いだ。
「私は使用人ですから、どうぞ呼び捨てで」
「それでは、ミシェル殿と」
なかなか頑なな御仁です。様以外なら好きに呼んで頂きましょう。
「おはよう」
いつもより早い時間にシュヴァルツ様が下りてくる。
彼は挨拶をする私とゼラルドさんを交互に眺めて、
「ゼラルドは今日一日はミシェルに付いて回って仕事を覚えろ」
「畏まりました」
「この屋敷ではミシェルが上司だ。敬意を払うように」
「御意」
恭しく頭を下げるゼラルドさんに、私は悲鳴を上げそうになった。こ、こんな見るからに上級使用人な方が部下になるなんてっ!
上手く仕切れる自信がないです。
「では、頼むぞ」
「は、はい」
身支度を整えにシュヴァルツ様が去っていくとゼラルドさんと二人きり。
「では、何を致しましょうか?」
深みのある声で訊かれて、私の心臓はバクバクだ。誰かに命令するのに慣れていないから焦ってしまう。
「ええと、では朝食作りを手伝ってください」
付いて回ってということは、一緒に作業した方がいいのよね?
私は作業台に大きなボウルを用意する。
「今朝のメニューはパンケーキにします。この中に卵を十個割ってください」
小麦粉をふるいにかける私に、卵の山を前にゼラルドさんは目を見張る。
「何人前作るのですか?」
……ほぼ一人前です。
使用人まで揃って席につくブレックファーストにも驚かれましたが……。
一口でパンケーキを飲み込むシュヴァルツ様の健啖ぶりに、新米使用人はナイフとフォークを持ったまま硬直していました。
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