第42話 新しい服
針に巻きつけた糸を慎重に押さえて引き抜き玉止めし、余った糸をパチンと切る。
「……できた!」
肩口を持って広げたのは、萌黄色のワンピース。
型紙から起こして作った自分の服第一号の完成です!
シュヴァルツ様の服は結構縫ってるんだけど、私のはお屋敷に残っていた服をリメイクするばかりで、生地から作ってなかったんだよね。
家事の合間にミシンがけして、夜寝る前に手縫い作業で二週間ほど。漸くお気に入りの一着ができました。
パフスリーブでウエストマークに共布のベルトを付けて、スカートは自然なドレープが出るようにした。そして襟と袖口は波模様の刺繍で縁取り。シュヴァルツ様の服はボタンも嫌がるほどシンプルだから、自分用はつい装飾に力を入れてしまった。
刺繍には手間取ったけど、がんばった甲斐があった。
「かわいー! 素敵ー! アイロンも掛けなきゃー!」
出来たてのワンピースを体に当て、自室のドレッサーの前で鏡に映った自分を見ながらはしゃいでいると、
「ミシェル、何かあったのか?」
不意にドアをノックする音がした。
シュヴァルツ様が私の部屋に来るなんて珍しい。というか、初めてかも。
「はい、なんでしょう?」
ひょこっとドアから顔を出すと、寝間着用のチュニック姿の彼は戸惑ったように、
「何か声と足音が聴こえたので、誰か侵入したのかと思って」
……。
ふわああぁぁぁっ! 私ったら、ワンピース完成のハイテンションで、独りで奇声を上げながら喜び舞い踊っていましたよっ!!
今は夜で、いくら広いとはいえ二人暮らしで静かなお屋敷には音がよく響く。……そりゃあ、心配して様子を見に来るよね。
「驚かせてすみません。ちょっと、新しい服が完成したのではしゃいでました」
うう、恥ずかしい。
正直に事情を説明する私に、シュヴァルツ様は「何事もなければそれでいい」とあっさり受け流してくれた。……優しさが胸に痛いです。
「服を作ったのか?」
「はい。これなんですけど……」
説明の延長で、私は萌黄色のワンピースを見せる。
「結構上手く出来たかなって。あ、でもどこかに着ていく予定もないんですけどね」
自画自賛してから苦笑する。平日の私のユニフォームはメイド服だし、部屋着にするには大袈裟だしで、今の生活では着る機会の少なそうなデザインのワンピース。でも、綺麗めの外出着は一着持ってると、何かあった時便利だもんね。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。おやすみなさい」
深々とお辞儀して事態を収束させようとする私に、シュヴァルツ様は顎に手を当てて思案して、
「それでは、今度の休みにあのカフェテリアに行くか」
「……へ?」
言葉の意図が解らずキョトンとする私に、彼も戸惑ったように首を傾げる。
「その服を着る機会が欲しいのかと思ったのだが……迷惑だったか?」
「いえ! 滅相もございませんっ!」
私は首がもげるほどブンブン横に振る。
まさかシュヴァルツ様が誘ってくださるなんて!
「嬉しいです! とっても楽しみです!」
「そ、そうか……」
あまりの私の食いつきっぷりに、将軍はちょっぴり引き気味ですが、気にしません。だって本当に嬉しいから!
「では、もう寝ろ。寝ないと大きくなれないぞ」
「はぁい」
多分、もうそれほど成長しないと思いますが。
踵を返すシュヴァルツ様にもう一度おやすみなさいを言って、私はドアを締めた。
ワンピースを抱いて、ボフッとベッドに倒れる。
休日までは何日もあるのに……。
「どうしよう、楽しみすぎて眠れない」
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