第28話 服を作ろう(完成)

 ――で、結局。


 昨夜は夜なべして型紙起こしと裁断。朝、出勤前のシュヴァルツ様に仮縫いの寸法合わせフィッティングしてもらって微調整。午前中はフルスピードで家事を済ませて、夕方までの時間を使ってミシン掛け。

 二日でチュニック第一号が完成しました!

 晩御飯が終わってから、早速試着してもらいます。


「これを正味一日で作ったのか。売り物みたいだな」


 シュヴァルツ様は渡したチュニックの表裏をしげしげと眺めてから、おもむろに着ていたシャツを脱いだ。

 ……この方って、何の躊躇いもなく服を脱ぐのよね。こっちがあせってしまいます。

 傷の多い、引き締まった身体にどぎまぎしつつ、横目でこっそり観察していると、


「むっ!」


 袖に手を通した体勢で、シュヴァルツ様が戸惑いの声を上げた。

 え? まち針でも残ってましたか!?

 勝手に狼狽える私を置いて、彼は信じられないという表情で、


「腕がするっと入ったぞ! いつもは二の腕で止まるのに」


 ……はい?


「首周りもきつくない。肩を回してもつっぱらない。胸も苦しくないぞ!」


 今までどんなトップスを着用してたのですか。


「すごいな。胸を張っても屈んでも服が破けない」


 普通は破けません。

 シュヴァルツ様は腕を上げたり背を反らしたりして、着心地を確認している。うん、綺麗にフィットしているようだ。


「今までで一番着やすい服だ。本当にもらっていいのか?」


「ええ、どうぞ」


 シュヴァルツ様専用ですから。


「ありがとう。とても動きやすい。今日はこれで寝るか。いや、しかし明日の服がない」


 どんだけ気に入ったのですか。


「それはラフ過ぎるので部屋着にお使いください。今度、外出着も縫いますね。型紙がありますから、次からはもっと早く作れますよ」


 これだけ喜んでもらえたら、調子に乗って色々縫っちゃいそう。

 シュヴァルツ様は少し窺うように私を見て、


「ミシェルはズボンも作れるのか?」


「ええ」


 父のトラウザーズを何本か仕立てたことがあります。


「では、それも頼みたい。街で売っているズボンは、裾が短いし、腿でつかえて腰まで上がらないんだ」


 ……それも、筋肉あるあるでしょうか?


「はい、畏まりました。では早速採寸しますね!」


 頼られるのが嬉しい。私はうきうきとメジャーを取りに向かおうとするが――


「いや、今日はいい」


 ――その腕を、シュヴァルツ様に引き止められた。


「朝から気になっていた。昨夜は寝ていないのだろう。クマができてる」


 彼の太い親指の腹で下瞼をなぞられ、私の心拍数は「ぴゃっ!」っと一気に跳ね上がる。


「服を作ってくれたことには感謝するが、夜はちゃんと寝ろ。食と睡眠を疎かにする者は長生きせん」


「……はい」


 シュヴァルツ様って、私のこともちゃんと見ててくれるのね。


「おやすみ、ミシェル」


 ぽんぽんっと頭を撫でて、シュヴァルツ様は自室に戻っていく。


「おやすみなさいませ、シュヴァルツ様」


 私は深々と頭を下げて、白いチュニックの後ろ姿を見送った。

 ……睡眠不足を思い出したら、急に瞼が重くなってくる。

 今夜は早くベッドに入ってゆっくり休んで……。

 明日はちょっと手の込んだ夕食を作ろう。

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