第27話 服を作ろう(採寸)

「お背中失礼しますね」


 広い背中にメジャーを当てる。

 夜の空いた時間に、私はシュヴァルツ様に頼んで採寸をさせてもらってます。

 身丈や着丈は立って測るから、背の低い私には早速踏み台が大活躍です!

 いつもは見上げることしかできない私も、台の二段目に乗ればシュヴァルツ様を見下ろせちゃいます。

 今回作ろうとしているのは、襟のない袖ありチュニック。初めてなので、シンプルな形の物を選びました。これで型紙を作れば、色々とアレンジできるしね。

 肩幅を測る私に、部屋着のシャツ姿の彼は少しだけ振り返って、


「脱ぐか?」


「い、今はいいです!」


 踏み台の上だと目線が近くてドキドキします!

 採寸しやすいようにとの申し出だと思うけど。ブンブン首を振って遠慮する私に、シュヴァルツ様は不思議そうに眉根を寄せる。


「……今は?」


「はい。布を裁断してから、縫う前に体に合わせて調整しますので、その時に」


 フィッティングは大事です。

 彼はふうんと鼻を鳴らして正面に向き直る。


「服って、どれくらいでできるんだ?」


「物によります。今回は型紙から起こすので、数日は掛かるかと」


 集中すれば一日で作れるかもだけど。家の仕事の合間に作業するから、進行速度は速くない。


「俺の服など後回しで、自分のを作ればいいのに」


「パーツの大きい布地の方が縫いやすいんですよ。ミシンの調子もみたいので」


 ……というのは方便ですが。最初はシュヴァルツ様の服を作るって決めてるんです。


「ま、ミシェルのしたいようにすればいい」


 シュヴァルツ様は淡々と、


「作業時間は平日、好きなように取って構わない。お前が毎日磨いてくれているお陰で家は綺麗だ。何日か掃除しなくても荒れることはないだろう」


「……ありがとうございます」


 家政を司るのが使用人わたしの役目ですから、勿論仕事は疎かにしませんが、信頼して自由に行動させてくれるのは嬉しい。

 俄然やる気が出てきたぞ!

 早く縫い上げて、シュヴァルツ様に着てもらおう。

 身丈・着丈・袖丈・胸囲・胴囲、ついでに腕周りも測った。将軍は肩と二の腕の筋肉が発達しているから、既製の型紙より余裕をもたせないと。あとは……。


(首周りも測っておこうかな)


 襟ぐりも広めな方が良さそうだもんね。


「ちょっと首元失礼しますね」


 私がうなじにメジャーを回しかけた……その時!


「……っ、くぁっ」


 ビクンッと肩を竦ませ、シュヴァルツ様が小さく叫んだ。いや、叫びというより……喘いだっていうか……。


「あ、あの……?」


 突然の嬌声に硬直する私に、彼は俯きながらうなじをさする。


「すまん。昔から首は弱いんだ。その……くすぐったくて」


 耳まで真っ赤になってボソボソと言い訳する、我が国最強の将軍閣下。

 ……どうしよう、可愛すぎるんですけど……?


「こ……こちらこそ、いきなり触ってすみません。今ので採寸できたので、もう大丈夫ですよ」


「そうか……」


 まだ頬が赤いままの彼。

 図らずしも、シュヴァルツ様の弱点を知ってしまったわけですが……。


 このことは、二人の秘密として胸に仕舞っておきますね。

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