第21話 カスタードプリン

 サイフォン式のコーヒーがロートからフラスコに落ちるのを待って、私はカップに香り高い液体を移した。

 夕食後、居間で寛いでるシュヴァルツ様へデザートのお届けです。

 彼が甘い物好きと知ってからは、毎日ちょっとしたお菓子を作っています。他の家事も食事の支度もあるから、あまり凝ったものは作れませんが。


「どうぞ」


 長椅子に寝そべる(といっても半分ほど体がはみ出てますが)シュヴァルツ様の前に、コーヒーとデザートグラスを置く。

 体を起こした彼は、怪訝そうにそれを見つめた。


「……なんだ、これは?」


 なんだって……。


「プリンです」


 涼し気な脚付きグラスには、山形のカスタードプリン。山頂には黒い雪のようにカラメルソースがかかっています。


「……プリン?」


 シュヴァルツ様はグラスを上げて中のペールイエローのぷるぷるをしげしげと眺める。

 あれ? もしかして、プリンをご存じない?

 そういえば、この前カフェテリアで食べたスイーツにプリンは入ってなかったかも。


「これは何で作られているんだ?」


「卵と牛乳と砂糖を蒸した物です」


「卵を蒸す? 茶碗蒸しフランみたいな物か?」


「まあ、そんな感じです」


 シュヴァルツ様は気のない風に「ふうん」と鼻を鳴らして、スプーンで一掬いしたプリンを口に放り込んで――


「なん、だ……これは!?」


 ――瞳をカッと見開いた。


「美味い! これ、本当に卵料理なのか!?」


 グラスを傾け、残りのプリンを一息に飲み込む。


「甘く柔らかく喉越しがいい。上に掛かっているソースもほろ苦くていいアクセントだ。すごいな、卵。朝食だけでなく菓子にもなるのか! 恐れ入った。俺はこれから卵を信奉するぞ!」


 あがめちゃいますか。


「まさか、プリンにも目玉焼きのように眷属が大勢いるのか?」


 ……け、眷属?


「ええ、一応。今食べたのは蒸したカスタードプリンですが。ゼラチンを使った蒸さないプリンや、ドライフルーツプディング、パンプディング、ココアプディ……」


「やはり卵は神だな!」


 大興奮のシュヴァルツ様。彼の信仰心が上がりました。


「ええと、多めに作ったのでおかわりありますが、召し上がりますか?」


 私の問いに、将軍はちょっと頬を赤らめて、


「……いただこう」


 今更照れなくても大丈夫です。


「では、持ってきますね」


 私は厨房に戻りながら、頬が緩むのを止められなかった。

 ……たくさん食べて、たくさん喜んで貰えるのが嬉しい。


「今度は、バケツサイズのプリンを作ろう」

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