第20話 ローストチキン

「んっしょ!」


 グリルから天板を出す時、思わず気合を入れてしまう。

 今晩のメインディッシュは丸ごとローストチキンです!

 実家では丸鶏なんてお祭りの日にしか焼かないけど、ガスターギュ家では日々の献立として提供致します。

 ……というか、食べる量的に、切り身を買うより丸ごと一羽の方が安いのよね……。

 天板の中心に鎮座するチキンの周りに蒸し野菜を盛り付けたら、見栄えのいい一品料理の完成です。


「お、美味そうだな」


 私がコーンスープをよそっている間に、シュヴァルツ様がいそいそと席に着く。どんな料理も喜んでくれるけど、塊肉が食卓に上がると、さり気なくテンションが高くなります。

 男の人って、肉好きよね。

 そういえば、シュヴァルツ様には嫌いな物ってないのかしら? 何を出しても完食してくれるのは嬉しいけど。

 配膳が済むと、揃って食事を開始。


「では、切り分けますね」


 私はカービングナイフとフォークを使って丸鶏を食べやすいサイズに切ろうとするけど……。


「あれ?」


 骨が当たって切りづらい。


「えっと、んん?」


 ああ、せっかくの身がボロボロになっちゃう!

 焦る私に、シュヴァルツ様が「貸してみろ」と手を差し出す。カービングセットを渡すと、彼は手早くローストチキンを見慣れた部位の形へと切り分けていく。


「お上手ですね」


「俺はお前が生まれる前から刃物を振るってきたんだぞ」


 ……確かに、経験値が違いますね。


「前線は万年物資不足だったから、よく狩りに行ったんだ」


 シュヴァルツ様はぽつりと語る。


「こんな脂ののった鳥なんかいなかったが、痩せた水鳥でもご馳走だったよ。特にモモ肉は人気で争奪戦だったな」


 言いながら彼は、皮に香ばしい焦げ目のついた骨付きのモモ肉を私のお皿に載せた。


「じゃあ、食うか」


「はい」


 綺麗に切り分けられたお肉を頬張る。

 二本あるとはいえ、一番好きな部位を、真っ先に私に譲ってくれるんですね。

 ……きっと、他の人達にも同じように接していたのでしょう。

 黙々と丸鶏を骨にしていくシュヴァルツ様を見ていると、胸がドキドキして……苦しくなる。


 ……私、最近ちょっと変だ……。

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